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最決令和7年3月3日令和6年(許)31号 宗教法人の解散命令における「法令違反」の意義

事案の概要

本件は、いわゆる統一教会(以下、「教団」という)の解散命令に関連する事案であり、文部科学大臣が解散命令請求を行うに当たって報告を求めたのに対して教団が一部事項についての報告を拒絶したことから、文部科学大臣が過料の制裁を裁判所に請求したというものである。宗教法人法上、解散命令の事由が存在する疑いがある場合に報告を求めることができるとされているため、本件は、言ってみれば、解散命令を巡る攻防の前哨戦とも言うべき事案である。

原原審及び原審は、宗教法人法81条1項1号の「法令に違反」する行為には、民事不法行為も含まれるとした上で、教団の信者が行った献金の勧誘について不法行為に基づく損害賠償請求を認めた確定判決が22件存在すること等を理由に、同号に違反する疑いがあるとして、報告を求めた文部科学大臣の行為は適法であると判断した。これに対し、教団は、「法令に違反」する行為に民事不法行為は含まれないから、文部科学大臣の請求は違法であると主張し、許可抗告を行った。

判旨

民法709条が一定の行為を禁止する旨を定めた規定であるとはいえないものの、同条の不法行為を構成する行為は、不法行為法上違法と評価される行為、すなわち一定の法規範に違反する行為であり、行為者は、同条という法令の規定により損害賠償責任を課せられるのであって、これらの点に鑑みれば、同条の不法行為を構成する行為が法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解したとしても、同号の文理に反するものではない。

むしろ、上記のように解することが同号の趣旨に沿うものというべきである。すなわち、法は、宗教団体が礼拝の施設その他の財産を所有してこれを維持運用するなどのために、宗教団体に法律上の能力を与えることを目的とし(法1条1項)、宗教団体に法人格を付与し得ることとしているところ(法4条)、法81条1項1号が宗教法人の解散命令の事由として「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。」と規定している趣旨は、同号所定の事由がある場合には、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となるところから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるようにすることにあると解される(最高裁平成8年(ク)第8号同年1月30日第一小法廷決定・民集50巻1号199頁参照)。そうであるところ、民法709条の不法行為を構成する行為は、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害するものであるから、当該行為が著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる事態を招来するものであってこれに関係した宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となることも、十分にあり得ることである。したがって、同条の不法行為を構成する行為が法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解することは、同号の上記趣旨に沿うものというべきである。

また、解散命令は、宗教法人の法人格を失わせる効力を有するにとどまり、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わないものであるところ(前掲平成8年第一小法廷決定参照)、ある行為が同号所定の行為に当たるといえるためには、その行為が単に法令に違反するだけでなく、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為でなければならないことなどに照らせば、上記のように解したとしても、同号の規定が、宗教法人の解散命令の事由を定めるものとして、不明確であるとも過度に緩やかであるともいえない。

以上によれば、民法709条の不法行為を構成する行為は、法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解するのが相当である。

解説

本決定は、宗教法人の解散命令の要件である「法令に違反して」の意義について、民事不法行為もこれに該当しうるとしたものである。

教団は、民事不法行為は一定の行為をした者が損害賠償責任を負う旨を定めるにとどまり、当該行為を禁止する旨を定めた規定ではないとして抗告したところ、最高裁は、①民事不法行為は一定の法規範に違反する行為であり、法令の規定に基づいて損害賠償責任を課せられるものであるから、文理解釈として「法令に違反」する行為から民事不法行為を除外する趣旨は読み取れないこと、②解散命令の趣旨は、宗教法人法は宗教団体に法人格を与えてその施設や財産等の維持・運用に便宜を与える趣旨であるところ、法81条1項1号所定の事由がある場合には、法人格を与えておくことが不適切であるため、司法手続により法人格を失わせるという点にあると解されるところ、かかる趣旨にてらして考えると、宗教法人が民事不法行為により他人の権利を侵害する場合にも、それにより公益を害する場合には法人格を失わせることにも十分な合理性があることなどを指摘して、民事不法行為も解散命令の事由になりうると判断したものである。

解散命令の制度趣旨や、同条の文言を考えると、刑罰法規や行政取締法規に該当する行為に限定する理由はないと思われ、最高裁の判断は妥当である。また、このように解したとしても、「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」との要件で絞りをかけることができるから、実質的に問題が生じる場面は多くないと思われる。

本件では、献金が不法行為に該当すること自体は、22件の確定判決の存在により争う余地に乏しかったものと思われ、抗告理由の構成とも相まって、抗告人は法令解釈のみに争点を絞ったものと推察される。もっとも、この後に控えている解散命令については、献金の違法性自体を正面から争うということもあり得(確定判決の存在が当然に解散命令を審査する裁判所を拘束するものではないと思われる)、本件の収束にはなお相当の時間を要しそうではある。

*画像はAIが作成したものです

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