日本の刑事裁判は三審制となっており、第一審判決に不服がある場合には、控訴、上告ができるとされています。ここでは、控訴審・上告審の手続や実情について見てみましょう。
第一審判決に対しては、控訴することができます。第一審が簡易裁判所でも地方裁判所でも、控訴審は高等裁判所で行われます。高等裁判所では、原則として裁判官3名の合議体による審査が行われます。
第一審判決に対してどのような場合に控訴できるのかは法律に細かい規定がありますが、代表的なものは次の4つです。
第1審で行われた裁判の手続に問題がある場合です。例えば、覚せい剤所持事件において、覚せい剤は警察官が違法に収集した証拠であるから証拠能力がないのに、証拠能力があるとして有罪とした判決に対して不服を申し立てるような場合があります。
法令の解釈適用を誤っている場合です。例えば、所得税法違反の事件において、所得税法の解釈を誤った結果、脱税にあたらないものを脱税にあたると認定して有罪とした判決に対して不服を申し立てるような場合があります。
事実認定に誤りがある場合です。例えば、被害者を殺害したのは被告人ではなくて、他の第三者である可能性があるのに、被告人が犯人であるとして有罪とした判決に対して不服を申し立てるような場合があります。
第1審の量刑が重すぎるという場合です。犯行に至る経緯を十分に考慮しなかったとか、被害者の落ち度を認定しなかったなど、様々な場合があり得ます。実際上、控訴の多くは量刑不当を主張するものです。
第一審判決自体には何の問題もないものの、第一審判決後に生じた事情を考慮して、第一審判決の量刑が重すぎると判断された場合に、控訴審において刑が軽くなることがあります。これを「二項破棄」と呼んでいます。代表的なのは、第一審判決後に被害者と示談が成立したような場合があります。
控訴審は、第一審と同じ手続を一からやり直すものではなく、第一審判決の内容を見た上で、おかしなところがないかどうかをチェックするという仕組みになっています。このような仕組みのことを「事後審」と呼んでいます。
このため、控訴審になってから、新たな証拠を提出したり、新たな事実を主張するというのは困難な場合が多いといえます。また量刑についても、第一審判決の判断が尊重される傾向が高まっています。特に原審が裁判員裁判の場合には、控訴審の破棄率が低いことが指摘されています。
例外的に、第1審が死刑判決の場合には、控訴審も慎重になる傾向があり、精神鑑定を追加で実施するなど積極的に事実の取り調べが行われることもあります。
控訴審においても、保釈の申請は可能です。詳しくは*保釈*をご覧下さい。
控訴審の判決については、最高裁判所に上告することができます。上告理由は憲法違反と判例違反に限られていますが、事実誤認や量刑不当の場合でも、上告審が職権で破棄できる場合があります。上告審は書面審査が原則であり、証人尋問や被告人質問が行われることはまずありません。
これまでに述べてきたのは、第一審判決に不服がある場合の不服申立手続ですが、判決自体に不服がなくても、上訴した方がよい場合があります。
執行猶予中の再犯の場合、執行猶予期間経過前に禁錮以上の実刑判決が確定してしまうと、執行猶予が取り消されてしまい、執行猶予になっていた部分についても服役しなくてはならなくなります。これを防ぐために、とりあえず控訴して確定時期を遅らせ、確定後に控訴を取り下げるという方法をとることがあります。
判決が確定した場合でも、その後に新たな証拠が発見されるなどした場合に、裁判をやり直す手続があり、これを再審請求と呼んでいます。近年、我が国でも、殺人などの重大事件について再審無罪となる事例が報告されています。
また、確定判決に法令の違反がある場合に、検事総長が最高裁判所にその判決を改めるよう求めることができ、これを非常上告と呼んでいます。交通違反で罰金とした略式命令について、実は反則金の通告が必要だったにもかかわらず、これがなされていなかった場合などに行われています。