最決令和6年10月23日令和6年(許)1号 文化功労者年金法所定の年金に対する強制執行の可否
事案の概要
本件は、文化功労者年金法所定の文化功労者である相手方を債務者Yとして、債権者Xが国に対する年金再建の仮差押えを申し立てたという事案である。
原審(大阪高決令和 5年11月24日令5(ラ)483号)は、文化功労者自身が現実に本件年金を受領しなければ本件年金の制度の目的は達せられないから、本件年金の支給を受ける権利は、その性質上、強制執行の対象にならないと解するのが相当であり、上記権利に対しては強制執行をすることができないというべきであると判断し、上記権利の仮差押えを求める本件申立ては理由がないとして、これを却下した。これを不服としてXが許可抗告を申し立てたものである。
判旨
原決定取消し、差戻し。
文化功労者年金法は、1条において、同法は文化の向上発達に関し特に功績顕著な者(文化功労者)に本件年金を支給し、これを顕彰することを目的とする旨を、3条1項において、文化功労者には、終身、本件年金を支給する旨を、同条2項において、本件年金の額は、文化の向上発達に関する功績に照らし、社会的経済的諸事情を勘案して、文化功労者を顕彰するのにふさわしいものとなるようにしなければならない旨をそれぞれ定めているところ、同法その他の法令において、本件年金の支給を受ける権利に対して強制執行をすることはできない旨を定めた規定は存しない。そして、文化功労者年金法の上記の各定めによれば、本件年金は、文化功労者の功績等を世間に知らせ、表彰することを目的として支給されるものと解される。そうすると、国が文化の向上発達に関し特に功績顕著な者を文化功労者として決定することにより、その者に本件年金の支給を受ける権利が認められることで、上記の表彰の目的は達せられるものといえ、その者が現実に本件年金を受領しなければ上記目的が達せられないとはいえない。したがって、本件年金の支給を受ける権利は、その性質上、強制執行の対象にならないと解することはできない。
以上によれば、本件年金の支給を受ける権利に対しては強制執行をすることができるというべきである。
解説
債権者が債務者から債権の回収を図る場合、債務者の全財産が引き当てとなるのが原則である。しかしながら、一定の財産については、主として社会福祉の観点から、差押えが禁止され、または制限されている。例えば、生活保護受給権(生活保護法58条)、年金(国民年金法24条)、恩給の受給権(恩給法11条3項)などが挙げられる。これらの受給権は、社会保障として給付されるものであるから、受給者が現実に支給を受けなければ、目的を達成できないと考えられるからである。
これに対して、文化功労者年金は、文部科学大臣が選定した文化功労者に、毎年、年金を支給するというものである。
最高裁は、条文上、同法に差押えを禁止する規定がないことや、同法の趣旨はあくまで文化功労者の功績等を世間に知らせ、表彰することを目的とするものであるから、現実に受給権者が受給を受けなければ目的が達成できないようなものではないとして、差押禁止債権にはあたらないと判断した。
文化功労者年金が顕彰を目的とすることは、法1条に明記されており、社会保障的な性質を有することをうかがわせるような規定は存在しない。また、差押禁止債権は、例外的な措置である以上、債権者の回収に対する合理的な期待を奪う結果とならないように、明文にない差押禁止債権を解釈により創出することには慎重であるべきである。特に、被保全債権が養育費や婚姻費用などである場合には、債権者の生活にも直結するものであるから、その弊害は顕著である。そのような意味で、本決定は妥当なものであると言えよう。
実際に、文化功労者に対して強制執行を行う場面は稀であると思われるものの、同様の国からの受給権に対して強制執行を行うに際して、実務上参考になる事例であると思われる。
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