立川ホテル殺人事件に関する雑感
事案の概要
報道されているところによると、東京都立川市にあるラブホテルの一室で、デリヘル嬢が19歳の少年に刺殺され、男性従業員が重傷を負うという事件が発生したとのことである。
現在、少年法の改正が議論になっているものの、本件については現時点では改正による影響はない。
今後の見通し
16歳以上の少年が、殺人などの重大事件を起こした場合、原則として検察官に送致(これを逆送と呼んでいる)することとされている。もっとも、実際に逆送率は毎年、かなりの変動があり、殺人の場合は概ね50%台~70%台で推移しているため、「原則」という言葉から受けるイメージとはいささか異なる。またここで指摘しておくべきは、少年による殺人事件は、年間で10~20件あれば多い方であり、ここ最近では一桁の年も少なくないということである。マスコミが騒いでいる「少年の凶悪化」などというのは幻想に過ぎない。中高年による殺人事件の方が件数的には圧倒的に多いのである。
さて、このため、少年についても、少年院などの保護処分とするか、刑事処分を相当とするか、検討することになると思われるのであるが、報道によれば、「「人を殺す動画を見て刺激を受け、無理心中を撮影しようと思ったが、女性に断られけんかになった」と供述」しているとか、「少年は高校でいじめにあい通信制の高校に転校していて、卒業後は仕事を転々としましたがいずれも長く続かず、「世の中おかしい。学校の先生が駄目だ。日本に生まれて損をした」などと話していた」という情報があるところであり、発達障害や何らかの精神疾患などの存在が否定できないところである。そうである以上、安易に刑事処分に訴えるのではなく、医療少年院などの保護処分を積極的に検討すべきであるようにも思われる。
ただ、現在の少年法では、処分が決まるまでに成人してしまうと、もはや保護処分を行うことができなくなるという仕組みになっている。本件では、責任能力について調べるために鑑定留置(勾留をいったん停止して精神科病院に入院させ、精神科医の診察を受けさせること)が行われることが予想され、場合によっては数ヶ月を要することもあり得るため、この間に成人してしまう可能性もありうる。ここは、現在、少年が19歳になりたてなのか、19歳11箇月くらいなのかによって、方針がかなり異なってくる。ただ、よく考えれば、偶々事件を起こしたときに19歳何ヶ月だったかによって、天と地ほども方針が変わるというのも不合理であり、この点についてこそ改正が必要であろう。
被害者の実名報道に対する疑問
さて、これとは別の観点からの疑問として、被害者の氏名を一部メディアが実名で報道していることがあげられる。またとある非常識なメディアは、被害者の住所付近にわざわざ出かけていって、近所の人に取材するなどしているというからあきれ果てたものである。
デリヘルで働くこと自体は違法でもなんでもないものの、多くの人は自分がデリヘルで働いていることは隠しておきたいと思うのが通常の心理であろうと思われる。にもかかわらず、殺人事件の被害者になった瞬間に、全国に氏名をさらされるというのではたまったものではない。既にネットでは、被害者の顔画像を特定してまとめるサイトなどが開設されている。
実際、元風俗店勤務のVTuberである「金美館通りの藤村さん」も、同様の立場から疑問を述べており、接客中のデリヘル嬢の安全確保と言った建設的な議論をすべきでないかという指摘を行っている。
京都アニメーションの放火事件の際も同様であったが、マスコミの大義名分は、事件報道を実名交えてリアルに行うことこそが、事件の検証と再発防止につながるのであり、それがメディアの使命であるというものである。しかしながら、日本のマスコミの事件報道は、残念ながら事件に関する冷静な検証も、再発防止に向けた議論も何ら行っていない。記者クラブに所属しては、御用聞きのごとくに警察発表を我先にと垂れ流し、新型コロナウイルスで鬱屈する民衆に、ひとときの正義感を提供するエンターテインメントとしてしか事件報道を捉えていない。そのようなマスコミが、自らの使命を声高に叫んだところでむなしいだけである。
その他のコラム
【ニュースの感想】除名になった弁護士を調べて思ったこと
はじめに また衝撃のニュースが飛び込んできた。 強制わいせつ事件など示談金1316万円を着服、弁護士を除名処分…第一東京弁護士会 強制わいせつや盗撮事件などの被害者から示談交渉の依頼を受け、加害者側から計約1300万円を受け取ったのに着服したなどとして、第一東京弁護士会は23日、同会所属の岸本学弁護士(51)を除名の懲戒処分とした。 発表によると、岸本弁護士は2021~23年、強制わいせつや盗撮、痴漢などの性被害を受け...
【無抵抗・無条件降伏】B型肝炎訴訟弁護団横領事件裁判傍聴記【ヒーローのなれの果て】
X(Twitter)共有&フォローお願いします! Tweet Follow @mizuno_ryo_law はじめに 以前に紹介した事件の続報である。 B型肝炎訴訟熊本弁護団における横領事件について現時点で分かっていることをまとめてみた(2024/1/16 19:30更新) B型肝炎弁護団横領事件の続報 【予告するのはホームランだけにしてくれ】 【速報】B型肝炎訴訟弁護団長逮捕 ...
個人情報流出に備える LINEヤフーも明日は我が身
日本人の多くが利用しているYahoo!とLINEが、個人情報流出で揺れている。 LINEヤフーの個人情報流出 韓国経由で不正アクセス、44万件か(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース LINEヤフーは27日、LINEアプリの利用者情報など計約44万件の個人情報が外部に流出した恐れがあると発表した。うち39万件は実際の流出を確認した。大株主・韓国IT大手ネイバー傘下企業の委託先がnews.yahoo...
【法科大学院生 司法修習生 若手弁護士必見】ヤバい事務所に気をつけろ! Part2
Part2 日本よ、これがヤバい事務所だ! セクハラ、パワハラ、オーバーワーク・・・ 世の中には、入ってはいけない弁護士事務所が厳然と存在する。 それは、スタッフの基本的人権を無視し、人間の尊厳をないがしろにするような職場だ。 そのような職場は、経営者に問題がある。 Part.2では、ヤバい事務所の特徴を説明する。 ジャニーズにおけるジャニー喜多川の性加害問...
【そんなうまい話があるか?!】グローバル闇バイト【リテラシーなきテクノロジーの落とし穴】
【そんなうまい話があるか?!】グローバル闇バイト【リテラシーなきテクノロジーの落とし穴】 X(Twitter)共有&フォローお願いします! Tweet Follow @mizuno_ryo_law お問い合わせは、LINE友だち追加が便利! 事務所ホームページ https://mizunolaw.web.fc2.com/index.html 刑事事件特設サイト https:/...






