裁判所電気事件にみる「高野イズム」 ある裁判員裁判を振り返って
カルロス・ゴーン氏の弁護人を務めるなど、刑事弁護で有名な高野隆弁護士が、横浜地裁の裁判官から、裁判所の電気の使用を制限されたことを不服として、東京高裁に抗告したことが話題になっている。
これについては、名古屋の金岡先生のブログなど、色々と物議を醸しているようである。
私はこの話をきいて、あるエピソードを思い出した。それは、高野先生の基本的な姿勢、すなわち、裁判所の一挙手一投足も見逃さず、敢然と立ち向かうべし、という考え方である。
私は、以前にある裁判員裁判に、被害者参加弁護士として参加したことがある。期日において被害者の証人尋問が行われ、その後、休廷を挟んで被告人質問を行うことになった。
そのとき、裁判長は、直前まで被害者が着席していた椅子を、職員に指示して別の椅子に交換させた。被告人の弁護人は、この点を見逃さなかった。
休廷が終わり、被告人質問に移行する直前、弁護人はおもむろに立ち上がって、裁判長の訴訟指揮に対して異議を述べた。曰く、「被告人はバイ菌ではない。そのような訴訟指揮は、断固として承服しかねる」と。裁判長は、「被害者の感情にも配慮したんですけどね・・・」などとゴニョゴニョ言いながら、最終的には正式な異議として公判調書に記載されていたかと思う。
その時の弁護人は、高野先生の事務所のとある先生であった(公開の法廷でのやり取りであるものの、具体的な名前はここでは明かさないこととする)。
確かに、裁判長がどのような意図で椅子を入れ替えたのか、理解に苦しむところではある。だが、訴訟手続の法令違反を構成するというわけではないし、さすがにそれが裁判員に悪印象を与えて量刑に影響すると言うことも考えにくいであろう。おおかたの弁護人は「失礼なことをする裁判長だなあ」と思いつつも、スルーしてしまうのではないかと思うし、そもそも、気にもとめない弁護人も少なくあるまい。しかし、このときの弁護人は、そうした細かい点を見逃さなかった。当時、私は相手方当事者という立場ながら、たいへん感銘を受けたことを記憶している。そして、高野先生の考え方が、事務所の弁護士全体に共有され、各自がそれを実践しているのだろうと言うことが、今回の件で再確認された次第である。
確かに、公判前整理手続程度の時間であれば、内蔵バッテリーの電力で十分、PCを稼働させることは可能であろう。しかしながら、裁判官が、刑事弁護人の職務を私的なものだと断定し、国の電気であるから使わせないと言ったことの意義は軽視できない。それは公判手続にも当てはまることであるし、検察官はもちろん「公的」な存在であるので、電気は使い放題であるという結論につながりかねない。極めて官尊民卑な発想に立脚している。
高野先生が切り開いた刑事弁護における実務慣行は、実は随所に存在しており、私もその恩恵にあずかる場面が多々ある。それも、小さなことも見逃さず、刑事弁護人の矜恃を持って、適正手続のために立ち向かうという、日々の基本姿勢の積み重ねであると言えよう。
訴訟指揮に異議を述べるのは胃の痛い話である。それで被告人が不利益に取り扱われたらどうしようと思えば尚更である。裁判所のやり方に唯々諾々と従うのは楽である。しかしそれで何を失うことになるのか、よく考えた上で臨まねばなるまい。
その他のコラム
最決令和6年10月23日令和6年(許)1号 文化功労者年金法所定の年金に対する強制執行の可否
事案の概要 本件は、文化功労者年金法所定の文化功労者である相手方を債務者Yとして、債権者Xが国に対する年金再建の仮差押えを申し立てたという事案である。 原審(大阪高決令和 5年11月24日令5(ラ)483号)は、文化功労者自身が現実に本件年金を受領しなければ本件年金の制度の目的は達せられないから、本件年金の支給を受ける権利は、その性質上、強制執行の対象にならないと解するのが相当であり、上記権利に対しては強制執行をす...
【日本人よ、これが検察だ!】 プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付審判決定
はじめに 我が国の刑事司法の転換点となるような事件が報道されている。 事件のもととなったプレサンス社元社長冤罪事件とは、ある学校法人の経営・買収に関連して業務上横領が行われ、それに関与したとして、資金提供元のプレサンス社の社長であった山岸忍氏が共犯として逮捕・起訴されたというものである。 この事件では、まず、捜査を担当していた大阪地検特捜部によって、プレサンス社の従業員K及び不動産管理会社代表取締役Yが逮捕され、これらの...
控訴審 新井浩文さんの事例をもとに考える
はじめに 俳優の新井浩文こと朴慶培さんについて、東京高裁は令和2年11月17日、懲役5年の実刑とした第一審判決を破棄し、懲役4年の実刑判決を言い渡した。今回は、刑事控訴審の構造や、本判決に関する検討を行うこととしたい。 控訴審の構造 日本では、3回、裁判が受けられるということは、小学校の社会科の授業などでも習うので、広く一般に知られている。しかし、ボクシングの試合などとは異なり、裁判の第一ラウンドから...
最決令和6年10月7日令4(あ)1059号 没収を追徴に変更することと不利益変更禁止原則
はじめに 本判決は、控訴審判決が、第1審判決が言い渡した組織犯罪処罰法の規定による没収に換えて追徴を言い渡しても、刑訴法402条に定める不利益変更禁止原則には違反しないとしたものである。 事案の概要 第一審判決及び控訴審判決の原文を入手できていないので、詳細は不明であるものの、第一審判決は、被告人に組織犯罪処罰法違反の罪で有罪判決を言い渡すにあたり、暗号資産(仮想通貨)(正確には、仮想通貨交換所に対する仮想通...
【児相警察まっしぐら】子どもに顔面ケーキの代償【やめよう児童虐待 子どもの権利を守る弁護士が徹底解説】
【児相警察まっしぐら】子どもに顔面ケーキの代償【やめよう児童虐待 子どもの権利を守る弁護士が徹底解説】 X(Twitter)共有&フォローお願いします! Tweet Follow @mizuno_ryo_law お問い合わせは、LINE友だち追加が便利! 事務所ホームページ https://mizunolaw.web.fc2.com/index.html 刑事事件特設サイト http...





