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最判令和6年12月23日令和5年(受)1583号 ログイン情報の開示範囲

事案の概要

本件は、Instagramによって自己の権利を侵害されたとするXが、権利侵害者Aのアカウントへのログイン情報8回分について、経由プロバイダであるYに対し、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を求める事案である。

原審は、投稿が令和3年改正法施行前に行われていたことから、改正前の同法4条1項の規定が適用され、ログインした者と投稿者が同一人であることからすれば、いずれのログイン情報も「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるとして、8回分全部について開示を認めた。

これを不服として、Yが上告した。

判旨

一部破棄自判、請求棄却。一部上告棄却。

「令和3年改正法附則には、改正前法4条2項の規定による意見の聴取を改正後法6条1項の規定によりされた意見の聴取とみなす旨の定めがあるものの(2条)、令和3年改正法その他の法令において、そのほかに、権利の侵害を生じさせた特定電気通信及び当該特定電気通信に係る侵害関連通信が令和3年改正法の施行前にされた場合について、改正後法の規定の適用を排除し、改正前法の定めるところによる旨の経過措置等の規定は置かれていない。また、令和3年改正法は、改正後法5条において、発信者情報の開示請求権の要件を一部整理するなどしたものであって、発信者情報の開示請求権そのものを新たに創設したものではない。
以上によれば、改正後法5条2項の規定は、権利の侵害を生じさせた特定電気通信及び当該特定電気通信に係る侵害関連通信が令和3年改正法の施行前にされたものである場合にも適用されると解するのが相当である。」

「もっとも、前記事実関係等によれば、本件各ログインが改正後法5条2項にいう「侵害関連通信」といえるのであれば、本件請求は同項が規定する要件を全て満たすといえる。そして、本件各ログインは施行規則5条2号に掲げる符号の電気通信による送信に当たるところ、これが本件各投稿との関係で同条柱書きにいう「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たる場合には、本件各ログインは「侵害関連通信」ということができるから、以下、この点について検討する。
ア 改正後法5条1項、2項は、侵害情報の発信者の特定のためには当該侵害情報の送信に係る発信者情報の開示を認めるのが最も適切と考えられるものの、これにより当該発信者を特定することができない場合にログイン通信等に係る情報の開示を求めることができないとすれば侵害情報の流通により権利を侵害された被害者の救済が不十分になる一方で、ログイン通信等それ自体は権利侵害性を有しないことから、被害者の権利救済の必要性と通信者等のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との均衡を踏まえた要件の下で、被害者が、侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を明示的に規定したものと解される。改正後法5条3項は、このような趣旨の下で、上記の開示請求の対象範囲を画する侵害関連通信について、侵害情報の発信者が行った当該侵害情報の送信に係るログイン通信等であって、当該「侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるもの」としてその具体的内容を総務省令に委任しているものと解され、これを受けて施行規則5条柱書きは、侵害関連通信について、同条各号に掲げる符号の電気通信による送信であって、それぞれ「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」としている。
施行規則5条柱書きの上記文言や被害者の権利救済のために侵害関連通信に係る発信者情報の開示請求権を規定した改正後法の上記趣旨に照らせば、少なくとも他のログイン通信等に係る情報により侵害情報の発信者を特定できない場合にまで、侵害情報の送信との間に一定の時間的間隔があるなど当該送信との関連性を低下させ得る事情があることを理由として、一律に「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」といえないと解することは相当でない。
他方で、ログイン通信等は、それが侵害情報の発信者によって行われたものであるとしても、それ自体に権利侵害性はない上、開示対象となる情報の内容は、通信がされた時期や通信に利用された機器等によって異なることがあり、通信の時間・場所など当該発信者の行動等まで推知させる情報や、当該発信者が利用したインターネット接続サービスに関する契約を締結している第三者の情報等も含み得るから、その開示によりこれらの者の権利利益が制約されることは否定できない。そして、上記の制約の程度は、開示の対象となるログイン通信等の数が増加するに従ってより大きなものとなる一方で、被害者においては、ログイン通信等のうちの一つに係る情報により侵害情報の発信者を特定できるのであれば、更にその余のログイン通信等に係る情報の開示を求める必要性があるということはできない。
以上に鑑みると、施行規則5条柱書きが侵害関連通信を「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」としたのは、同条各号に掲げる符号の電気通信による送信それぞれについて、開示される情報が侵害情報の発信者を特定するために必要な限度のものとなるように、個々のログイン通信等と侵害情報の送信との関連性の程度と当該ログイン通信等に係る情報の開示を求める必要性とを勘案して侵害関連通信に当たるものを限定すべきことを規定したものであると解される。そして、上記各送信のうち、施行規則5条2号に掲げる符号の電気通信による送信(以下「ログイン通信」という。)についてみれば、時間的近接性以外に個々のログイン通信と侵害情報の送信との関連性の程度を示す事情が明らかでない場合が多いものと考えられるところ、そのような場合には、少なくとも侵害情報の送信と最も時間的に近接するログイン通信が「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たり、それ以外のログイン通信は、あえて当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情があるときにこれに当たり得るものというべきである。
イ 本件について、本件投稿①~④との関係でみると、これらの投稿と本件各ログインとの関連性の程度を示す事情は両者の時間的近接性以外にうかがわれないところ、本件各ログインの中では、本件投稿①~④の21日後にされた本件ログイン②が、これらの投稿と最も時間的に近接する。また、本件投稿①~④と本件ログイン②との間には本件介在ログインが存在するが、上告人は自らが保有する通信記録の中から本件介在ログインに対応するものを特定できておらず、本件介在ログインに係る情報からこれらの投稿をした者を特定することは困難であって、あえて本件ログイン②に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情があるといえる。
したがって、本件ログイン②は、本件投稿①~④との関係で、施行規則5条柱書きにいう「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるというべきである。
他方で、本件ログイン①、③~⑧は、本件ログイン②と比べ、本件投稿①~④と時間的に近接していない。そして、上告人は本件ログイン②に係る発信者情報を保有しており、これに加えて、あえて本件ログイン①、③~⑧に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情はうかがわれない。
したがって、本件ログイン①、③~⑧が、本件投稿①~④との関係で、施行規則5条柱書きにいう「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるということはできない。
また、本件投稿⑤との関係でみても、当該投稿がされた日時は不明であって、本件各ログインのいずれがこれと最も時間的に近接するかは明らかでなく、ほかに両者の関連性の程度を示す事情もうかがわれないことからすれば、本件ログイン①、③~⑧が、当該投稿との関係で、上記「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるということはできない。
5 以上によれば、本件ログイン②に係る別紙目録記載2の情報の開示請求を認容すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができ、この点に関する論旨は採用することができない。他方、本件ログイン①、③~⑧に係る同目録記載1及び3の各情報の開示請求に関する原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、この点に関する論旨は理由がある。」

解説

本件は、SNSへの投稿が権利侵害を構成する場合に、被侵害者がログイン情報の開示を請求することができる範囲について判断した事例である。

まず、最高裁は、プロバイダ責任制限法の令和3年改正について、改正前の行為に改正法を適用しないとする明文の規定がないこと、改正法は発信者情報の開示請求権の要件を一部整理するなどしたものであって、発信者情報の開示請求権そのものを新たに創設したものではないことなどを理由に、令和3年改正法施行前の行為についても改正法が適用されるとして、この点に関する原審の法解釈を否定した。

その上で、ログイン情報が発信者情報の開示対象となるか否かは、令和3年改正法による改正後の同法5条2項、施行規則5条柱書の「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」という要件の問題であるとした。同文言の解釈として、法5条2項の趣旨を「侵害情報の発信者の特定のためには当該侵害情報の送信に係る発信者情報の開示を認めるのが最も適切と考えられるものの、これにより当該発信者を特定することができない場合にログイン通信等に係る情報の開示を求めることができないとすれば侵害情報の流通により権利を侵害された被害者の救済が不十分になる一方で、ログイン通信等それ自体は権利侵害性を有しないことから、被害者の権利救済の必要性と通信者等のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との均衡を踏まえた要件の下で、被害者が、侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を明示的に規定したもの」と理解し、一般的にログイン情報の開示については、投稿とログインとの時間的間隔が関連性の大小を基礎付ける要素であるとした上で、「少なくとも侵害情報の送信と最も時間的に近接するログイン通信が「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たり、それ以外のログイン通信は、あえて当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情があるときにこれに当たり得るものというべきである。」とし、時間的にもっとも近接するログイン情報の開示のみを認めた。

SNSは、通常、個別にユーザーがアカウントを開設し、そこにログインした状態で投稿を行うという形態が主流である。しかるところ、Instagramのように、ログイン時のIPアドレスを記録している一方で、投稿時のIPアドレスを記録していない媒体の場合、ログイン情報を取得しなければ実効的な権利救済が図られないと言える。

他方で、最高裁も指摘するように、ログイン自体は第三者の権利を侵害する行為ではない一方で、ログインに関する情報は、投稿に関する権利侵害者の特定に必要な情報よりも多様な情報を含み得るため、ログイン情報の開示の範囲についても一定の絞りをかける必要があることは否めない。施行規則5条柱書が、単なる関連性ではなく「相当の関連性」という規定となっていることも、「相当の」という要件を設け、個別具体的な事情の下で、適切な絞りをかけることを求めているものと理解される。その上で、ログイン→投稿という流れを踏まえると、通常は投稿にもっとも近接するログイン情報が「相当の関連性」を有するものと言え、それ以外のログイン情報の開示を求めるのであれば、「あえて当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情」を開示請求者において主張・立証する必要があるとしたものである。

本件では、Xが開示請求したうちで直近のログイン情報と投稿との間には、別のログインが介在しているものの、Yがこの介在ログインについて特定できていないことから、「あえて当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情があるとき」に該当すると判断された。

本件以外の事案における「あえて当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情」については、今後の事例の集積を待つことになると思われるが、例えば一度、時間的にもっとも近接するログイン情報の開示を受けたものの、何らかの理由により発信者の特定に至らなかった場合などが考えられるのではないかと思われる。

InstagramをはじめとするSNSへのログインは、PC、スマートフォンなど複数の機器で行うことが予定されており、またその際に使用するインターネット回線も、自ら契約している回線もあれば、マンションで集合的に加入している回線、街中でフリーWi-Fiとして提供されているものなど多岐にわたる。店舗のアカウントなどでは、複数のスタッフが同一のアカウントを用いて投稿を行うこともある。このように、SNSの使用に関する実態も多岐にわたっている。このため、開示の範囲を狭く理解した場合、空振りに終わるリスクがその分増大する一方で、広く解しすぎると、第三者の権利侵害の可能性や、濫用的な開示請求の弊害が出てくるという難しい問題がある。本判決は、そのような利害対立について一定の分節点を定めるものと位置づけることができ、今後の裁判例の集積による実務の洗練が待たれるところである。

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