自分、あるいは身近な方が刑事事件の当事者になってしまった場合、今後の事件の展開について不安を抱えるのは当然のことであると思います。また、テレビや新聞などの報道を見ていても、必ずしも正確な情報が提供されているとはいえない現状にあります。
刑事事件には大きく分けて、捜査(警察・検察による取り調べなど)、公訴(公訴の提起)、公判手続という3つのプロセスがあります。ここでは、それぞれのプロセスの概要、さらに各プロセスで弁護士が果たす役割について紹介します。
捜査は、犯罪の証拠を集めたり、被疑者となった人を取り調べたりして、起訴や刑事裁判に向けた準備を行う段階です。
事件の種類や状況によっては、取り調べのため、逮捕や勾留といった形で警察に身体を拘束されてしまうことがあります。
逮捕は、被疑者と思われる人の身体をとりあえず強制的に拘束する手続きです。最初の48時間は警察で、次の24時間は検察で取り調べが行われます。
逮捕後の72時間は外部との連絡が一切取れず、身柄の拘束を受けた本人と面会できるのは弁護人または弁護人となろうとする者だけです。弁護士は、速やかに接見に行くことで、黙秘権について説明するなど被疑者の権利擁護を図り、かつ、家族との連絡役になる、あるいは取り調べに対するアドバイスを行うなどして、被疑者を精神面でサポートします。
また、身柄拘束の長期化を防ぐため、勾留をしないように裁判官に働きかけるなどの活動を行います。
逮捕から72時間以内に、検察官は被疑者を釈放するか、裁判官に対して勾留請求を行います。裁判官が勾留を認めると、原則10日間、身体拘束を受けることになり、やむを得ない理由があるときはさらに10日間延長が認められ、合計20日間の身体拘束が続く可能性があります。
このとき、弁護人は「逃亡や罪証隠滅の可能性もないので勾留をする必要性がない」と主張するなどして身柄の解放活動を行い、一刻も早く身柄が解放されるように働きかけます。
身体拘束からの解放についてはこちらをご覧下さい
さらに、被害者と示談交渉をするなどして、不起訴処分獲得に向けた活動も行います。
捜査が十分に尽くされ、起訴するかどうかを決められるだけの証拠が揃ったと検察官が判断した場合、今度は起訴するかどうかの決定が行われます。起訴の判断については、検察官に大幅な裁量権が認められています。
犯罪の嫌疑が不十分なとき、あるいは起訴の必要がない、という場合、検察官は不起訴処分を下します。
犯罪の嫌疑が不十分なときには、嫌疑不十分として不起訴処分になります。
一方、起訴するには十分な証拠が揃っている場合でも、事案の性質や被害回復の状況等によっては起訴しないということもあります。これを起訴猶予処分と読んでいます。
これらの不起訴処分が期待できる事件の場合、弁護人はまずは不起訴処分の確保を目指して弁護活動を展開することになります。
交通違反や痴漢・万引きで前科前歴がないような場合には、起訴されたとしても、略式命令による罰金刑で終了する場合もあります。
それ以外の場合には、検察官は、通常の裁判を求めて起訴します。これを「公判請求」と呼んでいます。
同じく起訴される場合でも、略式命令による罰金刑で終わるのと、公判請求されるのとでは、負担が大きく変わってくるため、不起訴処分を得ることが難しい事案であっても、法定刑に罰金刑の定めがある場合には、略式命令による罰金刑を目指した弁護活動を行っていきます。
いわゆる刑事裁判のことです。
この段階において、弁護士は、無罪獲得あるいは最終的な刑事処分を軽くする(懲役刑の求刑に対して罰金を求める、執行猶予付の判決を求める、実刑でも期間を短くする、など)ための弁護活動を行います。
なお、裁判所の判決に不服がある場合は、高等裁判所に控訴することも可能です。
身体拘束を伴う刑事事件の場合、起訴決定までの期間が最大23日間と短いことが特徴です。そのため、不起訴処分を獲得するためには、一刻も早く弁護活動を開始する必要があります。
一方、身体の拘束を伴わず、在宅で任意の取り調べを続ける在宅事件では、起訴までの流れは比較的ゆるやかに進みます。起訴までに数ヶ月以上かかるケースも少なくありません。
弁護士が行う弁護活動としては、次のようなものが挙げられます。
在宅事件の場合は身体の拘束を受けないため、自宅でほぼ通常通りの生活を送ることができます。職場や学校にも通い続けられることから、周囲の人に事件のことが知られにくいのもメリットです。
そこで、弁護士はまず逮捕や勾留といった身体拘束を避けられるように関係者を説得します。もし身体拘束された場合は、身体拘束する必要性はないことを主張し、依頼者が早く解放されるように働きかけます。
不本意な供述を取られることなどがないように、黙秘権に代表される被疑者の持つ権利の行使をサポートします。また、違法な取り調べが行われないように、捜査機関を牽制することもあります。
被害者と示談交渉をしたり、情状に関する立証を行うなどして、不起訴処分や執行猶予の獲得などに向けて働きかけます。また、冤罪の場合は、無罪判決を勝ち取るために戦います。
同じような事件であっても、どの段階でどんな弁護活動を行うかによって最終的な結論が大きく変わってくる可能性があります。ただ、刑事事件が時間との戦いであり、最初に不利な供述や自白をしてしまうとその後の展開が厳しいものになるのも事実です。早めに弁護活動を始めるためにも、できるだけ早く弁護士に相談されることをおすすめします。