ここでは、交通事故の中でも悪質な類型に分類される、ひき逃げや当て逃げ、危険運転致死傷罪について見ていきます。通常の交通事故については、こちらをご覧下さい。
交通事故を起こした場合には、事故を起こした運転者は、負傷者を救護すると共に、警察に通報する義務があるものとされています。これは、人身事故だけでなく、物損事故を起こした場合も同様です。この救護義務を果たすことなく、現場から逃走を図るのが、いわゆるひき逃げや当て逃げであり、単純に事故を起こした場合と比較して、悪質であると評価されることが多いといえます。
救護義務違反が認められる場合、比較的勾留されやすく、また起こした事故の態様や結果にもよりますが、これがない場合と比較して重く処罰される傾向にあります。
もっとも、一口に救護義務違反といっても、逃走した上で車を廃車にしたり、盗難届を出したり、アリバイ工作をしたりするなど周到に証拠隠滅を図ろうとする悪質な類型もあれば、事故を起こしたことで気が動転し、とっさに現場を離れてしまったものの、すぐに現場に戻り、あるいは携帯電話で110番通報した類型など、一概に悪質とまではいえない類型もあるため、個別の事例を丁寧に検討する必要があります。
なお、酒酔い運転や薬物使用による運転で事故を起こした後に、飲酒や薬物の反応が出ないようにするために大量に水を飲むなどした場合には、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪という別の犯罪が成立するため、注意が必要です。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律では、一定の類型の運転行為を危険運転とし、危険運転行為によって人を死傷させた場合には、通常の交通事故よりも重く処罰することとされています。
危険運転行為には、6種類の類型があります。
危険運転致死傷罪は、比較的勾留されやすい類型であるといえます。もっとも、事実関係には大きな争いはなく、被害者との示談成立も早期に見込まれるような事案もあるため、身体拘束からの解放に向けて積極的に活動すべきであるといえます。
危険運転致死傷罪の法定刑に罰金刑は定められていないため、略式命令による罰金刑となることはありません。もっとも、捜査段階で危険運転行為の該当性を争い、検察官が危険運転致死傷罪での立件を断念したような場合には、略式命令による罰金刑となることがあり得ます。
危険運転致死傷罪で公判請求したされた場合、傷害の程度が軽いものや、被害者が寛大な処分を求めているような場合には、執行猶予付の判決となることもしばしばです。一方、死亡事案の場合には、初犯でも相当長期の実刑判決となる場合があり、特に複数の死亡者が出たような事案では10年を超える懲役刑が言い渡されることも珍しくありません。また危険運転致死罪で公判請求された場合、裁判員裁判対象事件となるため、公判には特別の対応が必要になってきます。
危険運転致死傷罪は、世論の強い後押しを受けて、危険な態様の運転行為の中からごく一部を取り出して重く処罰しようとするものであり、過度に世論に迎合した立法であるという批判もあります。また制定されてから比較的日が浅い法律であるため、個々の条文の解釈や具体的な事案への当てはめについても、問題となる事例が多いといえます。このため、事実に関する調査もさることながら、関係法令を丁寧に検討する作業も必要であり、刑事事件の中でも特に難しい部類のひとつであると思われます。