刑事事件の被疑者となり、逮捕・勾留されてしまうと、場合によって約3週間ものあいだ、社会との接触が断たれてしまう可能性があります。仕事や学業など日常生活の大半から切り離されてしまうため、場合によっては失職や退学などに追い込まれるリスクもあるわけです。そのため、起訴前にできる限りの手を打って、早期釈放を目指すことが大切です。ここでは、起訴前の早期釈放を実現するための方法について紹介します。
我が国の刑事訴訟法では、犯罪を行った疑いがあり、逃亡や証拠隠滅の可能性があると判断された場合、次のように最大23日間の勾留が発生し、生活の自由を奪われます。
上記のように2日+1日+最大20日間で、最大23日間もの間、身柄を拘束されるわけです。ただし、さまざまな手続きにより、勾留期間を短くして早期釈放されることも不可能ではありません。
逮捕・勾留は、あくまで逃亡や証拠隠滅を防止するためのものであり、処罰ではありません。刑事訴訟法の第60条を見ても、勾留には次のような要件が掲げられています。
“第60条(勾留)
1.裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
1.被告人が定まった住居を有しないとき。
2.被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3.被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。”
すなわち、きちんとした住所があり、客観的な証拠が存在するなど証拠隠滅の可能性が低く、安定した勤務先や家族のサポートがあるなど逃亡の可能性が低いと判断されれば、勾留は認められず、在宅で捜査を行う(通常通り日常生活を送り、取調べの呼び出しを受けたときに警察署や検察庁に出頭して取調べを受ける)ことが法律上の原則です。
しかし実際には、検察官の勾留請求に対して、上記のような実質的な要件がチェックされることもなく安易に勾留がなされていることもしばしばです。したがって、刑事に強い弁護士の力を借り、早期釈放のために次のような手続きを行う必要があります。特に、家族や勤務先などとの調整については、被疑者本人は身柄を行動に著しい制限がありますから、何か手を打とうにも難しく、弁護士が積極的に活動する必要がとくに高いといえます。
上記のように、一度勾留されてしまうと、学業や仕事などに大きな不利益が生じてしまうため、弁護人としては、検察官に勾留請求させない、裁判官に検察官の勾留請求を認めさせないために活動することが極めて重要です。
検察官は、逮捕の翌日もしくは翌々日に、検察庁に送られてきた被疑者の言い分を聞いた上で(この手続を弁解録取と言います)、勾留請求するかどうかを決めます。ここまでに、勤務先に関する情報や、家族の身元引き受けなどを材料に検察官と交渉することで、検察官が勾留請求をせずに被疑者を釈放することもあり得ます。検察官との交渉は、どんなに遅くとも逮捕の翌々日の午前中までに証拠資料をそろえるなど準備をする必要がありますので、何よりも逮捕直後に動き始めることが重要です。
検察官が勾留請求をしても、裁判官が勾留請求を認めなければ、被疑者は釈放されます。逮捕の翌々日もしくは3日後の昼頃に、被疑者は裁判所に送られて裁判官から質問を受け(これを勾留質問と言います)、検察官の勾留請求を認めるかどうかを決定します。勾留質問までの間に、被疑者に有利な事実関係(安定した勤務先がある、家族が身元引き受けをしているなど)を裁判官に説明し、勾留請求を却下するように働きかけます。逮捕後、一番の主戦場です。
勾留請求が却下された場合、検察官が不服申し立てをしなければ、被疑者はそのまま釈放されます。実際には、当日の午後3時頃から夕方頃までに釈放されることが多いようです。
以上のような働きかけがうまくいかず、残念ながら勾留されてしまった場合や、勾留後に弁護人を選任された場合でも、まだあきらめてはいけません。刑事訴訟法上、勾留決定に対しては不服申し立てが認められており、準抗告と呼ばれています。
勾留決定自体は、裁判官1名で判断を行い、裁判所によっては、簡易裁判の裁判官や、地方裁判所でも民事部に所属する裁判官が判断している場合もしばしばです。これに対して、準抗告の手続は、裁判官3名の合議体で審査を行い、地方裁判所の刑事部に所属する裁判官が判断を行うことが通常であるため(裁判所や曜日によって異なることもあります)、準抗告の結果、原審の判断が見直され、勾留決定が取り消されて釈放されることもあり得ます。
勾留期間は原則として10日ですが、10日間では捜査が完了せず、起訴するかどうかの判断ができないと検察官が判断した場合、さらに勾留の延長を求めることができ、裁判官が延長を認めた場合には、最大で10日間延長できることとされています。
延長についても、事前に検察官に延長請求しないように働きかけ、裁判官に延長決定しないように求めるといったことができ、また延長決定がされてしまった場合には、準抗告で争っていくことが考えられます。
勾留後の事情の変化によって、勾留の理由・必要性がなくなった場合に、勾留の取り消しを求めることができます。
被疑者本人が病気や怪我をしていたり、家族が急逝したりした場合に行う手続きです。やや特殊な手続きですが、法事や冠婚葬祭などに対して一時的に身柄解放が認められる可能性があります。
かつて、日本の刑事事件では勾留から早期釈放されるケースはそれほど多くありませんでした。しかし、弁護人による身体拘束を争う地道な活動や、国内外のメディアで日本の「人質司法(刑が確定するまで人質のように身柄を拘束される司法のありかた)」が批判されるにつれ、検察官が勾留請求自体をせずに釈放したり、裁判官が検察官の勾留請求を却下したりすることにより、早期に釈放される事案が増えています。
最高裁によれば、勾留請求の却下率は2009年の1.2%から2018年の5.9%と、9年間で約5倍に増えており、裁判所によっては10%を超えるところも出てきています。つまり、それだけ身柄を拘束されなくてすむ可能性が高まっているわけです。特に、しっかりとノウハウを持った弁護士による早期釈放を目指した弁護活動は、非常に大きな効果があるといえます。長期勾留が本人や家族の人生に与える影響を考えれば、弁護士の力を借りた「早期釈放」はぜひとも検討すべきです。