被疑者は、起訴された後は被告人となりますが、被疑者段階で勾留されていた場合、起訴後も引き続き勾留されることが通常です。事実関係に争いのない事件でも、起訴されてから第1回の公判が開かれるまでには1ヶ月程度かかることがあるため、長期にわたって身柄を拘束(勾留)されることがあります。また否認事件や共犯者が多数いるなどの複雑な事件では、審理終結までに長期間を要することもあるため、その分、社会生活に影響が出てしまいます。
もっとも、起訴された後は、保釈の請求を行うことができ、保釈が認められた場合には、日常生活を送りながら、裁判の期日に出頭して裁判を受けることが可能です。このため、できるだけ早い段階で保釈を勝ち取る試みが必要です。ここでは、起訴後勾留から一時も早く保釈されるための対策を紹介します。
刑事訴訟法88条では、勾留されている被告人や弁護人などは保釈の請求をすることができると規定されています。起訴後の被告人は、刑事訴訟においては検察官と対等な立場で訴訟を行う地位にあること、有罪判決が出るまでは無罪の推定が働くことなどから、被告人の身体拘束を解除した上で、充実した訴訟の準備ができるようにしようとする趣旨です。
保釈には、一定の除外事由に当てはまらない場合には必ず保釈を認めなければならないとする権利保釈と、権利保釈は認められないものの、裁判所が職権で保釈を認める裁量保釈とがあります。
刑事訴訟法89条は、同条1号~6号までに該当する場合を除いては、保釈を認めなければならないことを規定しており、これを権利保釈と呼んでいます。このうち1号~3号までは、事件自体の重大性や、前科、常習性などについての規定であり、6号は氏名不詳または住所不定ですので、これらに該当することはさほど多くないのですが、実際上問題となるのが、4号(罪証隠滅の可能性)、5号(事件関係者に危害を加える可能性)です。特に否認事件や共犯事件などでは、後述する裁量保釈との関係でも、この要件を満たさないと主張することは容易ではありません。
実際には、権利保釈が認められることは稀であり、保釈の主戦場は裁量保釈が認められるか否かということになります。
刑事訴訟法90条は、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し」、保釈の可否を判断するものとされています。例えば、病気で治療が必要である、勤務先を解雇されてしまう可能性がある、親族の介護をしなければならないと言った事情があれば、そうした事情を丁寧に説明して、保釈を認めてもらうように裁判官に働きかけることが考えられます。
裁判所が保釈を認めるときは、保釈金を定めなければならないとされており、保釈を許可する裁判が出ても、実際に保釈金を納めなければ釈放されないこととなっています。
保釈金の金額は、事件の性質や前科前歴、被告人の資産などに応じて設定されますが、初犯で事実関係に争いのない事件であれば、100~150万円程度とされることが多いようです。保釈金額についても、裁判官と交渉することがあります。
保釈金についてよくある勘違いとして、高額の保釈金を支払えば必ず釈放されるというわけではないということが挙げられます。あくまで保釈を認めるかどうかの判断が先にあり、保釈金額の設定はその後の判断になりますので、この点は注意が必要です。また、保釈金は、逃亡や罪証隠滅などを行った場合には、取り上げられる可能性がありますが、起訴されている事件で有罪になったというだけでは、取り上げられることはありません。
保釈請求が却下されてしまった場合、不服の申立が可能です。これを準抗告と呼んでいます。また、保釈請求自体は何度でもできるため、証拠調べが終わった段階や、重要な証人の尋問が終わった段階などで改めて保釈請求をするということも可能です。裁判が進行して行くにつれ、証拠隠滅の可能性は減っていきますから、それだけ保釈も認められやすくなります。
勾留に関する裁判所の審査同様、保釈に関する裁判所の姿勢も変化しつつあります。以前は、否認事件などでは、罪証隠滅の可能性があるとしてなかなか保釈が認められませんでしたが、最近は、公判準備の必要性や社会生活に与える不利益などを考慮して、保釈を柔軟に認めるようになってきました。
国際人権規約でも、「裁判に付される者を抑留することが原則であってはならない」とされており、保釈を原則とすることは国際的にもスタンダードであるといえます。とはいえ現状では、いくらか改善されたとはいえ、やはり専門的知識を有する弁護士に依頼した上で、保釈が認められるように働きかけていくことが、早期の社会復帰のためには必要不可欠であるといえます。