ある日突然、家族が警察に逮捕されてしまった。ドラマや映画の世界のことと思われるかもしれませんが、決して他人事ではありません。もし、そのようなことが実際に起こってしまった場合、どうするのがよいのでしょうか。
まず、弁護士に依頼して、警察署に接見に行ってもらうことです。現在の日本では、逮捕直後、勾留されるまでの間に家族などが被疑者本人に面会することは原則としてできません(警察署によっては、着替えなどの日用品の差し入れに限り、1回だけ認めていることもあるようです)。これに対して、弁護士であれば、夜間や休日であっても、被疑者と接見することができ、被疑者が取り調べを受けている場合でも、原則的に取調べを中断して接見させなければならないものとされています。
早期に依頼するメリット1
日本の制度では、警察官が被疑者を逮捕した場合、警察官は逮捕後48時間以内に検察官に事件を送致し、検察官は送致を受けてから24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に、被疑者を釈放するか、裁判官に勾留を請求しなければならないとされています。ここで裁判官が勾留を認めてしまうと、原則10日間、延長された場合にはさらに10日間(合計20日)、留置場などに拘束されてしまいます。
逮捕直後に弁護人がつき、検察官に対して勾留請求しないように働きかけたり、裁判官に対して検察官の勾留請求を認めないように働きかけるなどすることによって、被疑者が勾留されなければ、その時点で釈放されますので、拘束される期間を最小限にとどめることができます。これに対して、一旦勾留されてしまった場合は、準抗告という不服申し立ての制度があるものの、勾留前に弁護人がついた場合と比較して初動対応が遅れてしまうことは否定できません。
上記のような勾留させない活動をするためには、逮捕の翌日までに検察官に対して勾留請求しないよう求める意見書を提出し(必要に応じて検察官と面談)、逮捕の翌々日までに裁判官に対して勾留請求を却下するよう求める意見書を提出する(こちらも裁判官と面談することを積極的に検討します)必要がありますが、意見書の作成や、裏付け資料の収集には時間がかかるため、可能な限り逮捕直後に弁護人が選任されることが望ましいといえます。
早期に依頼するメリット2
逮捕=有罪ではありません。逮捕されたからといって、その人が罪を犯したかどうかは分かりません。しかし、現在の日本の捜査機関は、まだまだ自白の獲得に重きを置いており、そのために被疑者に対する取調べが行きすぎてしまうこともしばしばです。
他方で、被疑者には、黙秘権があり、取調べに対して何も答えないことが憲法上保障されています。一般的な感覚からすると、「黙っていると言うことはなにかやましいことがあるのだろう」と思われるかもしれませんが、憲法上、黙秘していることを理由に不利益に扱ってはいけないとされています。また、捜査機関は取調べを行った後に、供述調書と呼ばれる話の内容をまとめた書面に署名・押印することを求めてきますが、これについても、署名・押印するかどうかは自由で、拒否したことを理由に不利益に取り扱ってはならないとされています。
否認事件の場合、原則として黙秘することが重要ですが、一般の方の場合、弁護人がついていない状態では、上記のような黙秘権の制度を理解していないことが通常と思われますし、疑いを晴らしたい一心で、色々と話したくなると言うのは人情です。このような場合、速やかに弁護人と接見を行い、黙秘するかどうかを含めて今後の取調べに対する対応を検討する必要があります。また、違法・不当な取調べが行われている場合には、捜査機関に抗議する必要があります。また、事実関係を認めている場合でも、特に余罪などに関しては、取調べにどこまで応じるかは慎重に検討しなければなりません。
早期に依頼するメリット3
先ほども述べたように、逮捕後、勾留までの間は、弁護士以外の接見は原則として認められていません。勾留後は、面会や手紙のやり取りが可能になりますが、時間や人数の制限があり、また面会時には立会がされます。さらに、接見等禁止決定がされた場合には、面会自体できなくなってしまいます。
他方、弁護人であれば、時間の制限もなく、立会もない状態で接見することが可能ですので、家族や勤務先への伝言などを速やかに行うことができます。事案にもよりますが、例えば家族にお願いして被害者への示談金を用意してもらったり、勤務先に事情を説明して、釈放後の復職をお願いし、身元引き受けを行ってもらうなどの活動をすることができるため、早期の釈放や有利な処分を得るという観点からも、早期に協力者と連絡をとることは重要です。
もちろん、弁護士には守秘義務がありますので、例えば勤務先に事件のことを黙っておいてほしい、と言ったご要望がある場合に、無断で勤務先に事件のことを話すようなことはありません。
例えば、ご家族が車にはねられたり、急病で倒れたと言った場合に、救急車を呼ぶことをためらう人はいないと思います。刑事事件もこれと同様で、1分、1秒でも早く動くことが、その後の展開を大きく変えることもあります。まずは慌てず、落ち着いて弁護士に相談することが何よりも重要です。