保釈にまつわる話~よくある誤解~
はじめに
衆議院議員の河井克行さんについて、東京地裁は令和3年3月3日に保釈を認める決定を行った。
今回は、保釈に関して、一般の方がしばしば誤解されている点を説明しておきたい。そんなの言われなくても知ってるよ!という方にはつまらない内容になるので、あらかじめご容赦いただければと思う。
①保釈請求は何度もできる
保釈は一発勝負ではない。実際、河井克行さんの場合は5回、妻の河合案里さんの場合も5回目の保釈請求で保釈が認められている。保釈を巡る状況は、裁判の進行によって時々刻々と変わるので、その都度、適時に保釈請求を行うというのはよくある話である。具体的には、起訴後すぐ、第一回公判期日後、主要な証人の尋問が終了した後、被告人質問なども全て終わり、結審したタイミングなどが節目である。
②たくさん保釈金を払えば保釈が認められるわけではない
法律上の判断順序としては、まず、保釈の要件を満たしているかどうかを検討し、これが認められるとされて始めて、では保釈金をいくらにしようか、という点の検討に移るというのが建前である。このため、どうやっても保釈の要件を満たさないだろうという人については、何億積もうが認められないものは認められないわけである。
もちろん、保釈の要件が微妙な場合、例えば共犯者が複数いるとか、実刑判決の可能性が高いと言った場合については、その分保釈金は高めに設定されることが多いと言える。また、実際には、保釈金額に関して、裁判官と電話や面談でやり取りをすることもある。但し、市場で魚の競り落としをするみたいに、うまく立ち回れば値切れるというものではない。
③有罪判決でも保釈金は戻ってくる
保釈金については、有罪判決であっても、それだけで戻ってこないと言うことはない。逃亡や罪証隠滅など、一定の行為に該当しなければ、保釈金は全額戻ってくるというのが法律の仕組みである。この点は、有罪だと戻ってこないとか、実刑だと戻ってこないと誤解している人も意外に多いので、注意してほしい。
逆に言うと、本当は無実であっても、保釈の際に裁判所から指定される条件に違反するとか、逃亡して連絡がつかないとか、口裏合わせをしようとしたと言った事情があれば、保釈が取り消された保釈金が戻ってこないと言うことはありうるし、これは、後に無罪判決を受けたからといってひっくり返るわけではない。カルロスゴーンさんが有罪なのか無罪なのかはおそらく未来永劫決着がつかないと思われるものの、取り上げられた総額15億円の保釈金が戻ってくることはないのである。
おわりに
捜査段階での釈放が難しい事案であっても、起訴後早期の段階で保釈の請求をすることは重要である。これについても、迅速に対応することが求められるし、必要な身元引受書などの証拠収集や、場合によっては裁判官との交渉などを行う必要があることもしばしばである。
弁護人は起訴後から依頼することもできるので、早期の保釈を検討されている方は、一度相談してみることをおすすめする。
その他のコラム
最決令和6年11月15日令和6年(し)761号 不服申立て期間の起算点

決定要旨 弁護人からの証拠開示命令請求を棄却した決定に対しては、弁護人は、検察官又は被告人以外の者で決定を受けたものとして即時抗告をすることができるほか、被告人のため即時抗告をすることもできる。そして、弁護人が被告人のため即時抗告をする場合、その提起期間は、証拠開示命令請求を棄却した決定の謄本が被告人本人に送達された日から進行する。 弁護人からの証拠開示命令請求を棄却した決定の謄本が先に弁護人に送達され、その後に被...
週刊東洋経済9月9日号がしょうもない記事である理由

0 はじめに 週刊東洋経済9月9日号で、「揺らぐ文系エリート 弁護士 裁判官 検察官」という記事が掲載されていた。「司法制度の基盤が揺らいでいる。弁護士は「食えない」「AIが代替」と敬遠され、若手裁判官は続々退官。冤罪続きの検察は信頼回復の糸口が見えない。」などとセンセーショナルな冒頭のフレーズで煽っているので、どうせまたしょうもない記事なのだろうと思って読んでみたら、案の定であった。読む価値無しである。厳密に言うと、東京の...
裁判所電気事件にみる「高野イズム」 ある裁判員裁判を振り返って
カルロス・ゴーン氏の弁護人を務めるなど、刑事弁護で有名な高野隆弁護士が、横浜地裁の裁判官から、裁判所の電気の使用を制限されたことを不服として、東京高裁に抗告したことが話題になっている。 これについては、名古屋の金岡先生のブログなど、色々と物議を醸しているようである。 私はこの話をきいて、あるエピソードを思い出した。それは、高野先生の基本的な姿勢、すなわち、裁判所の一挙手一投足も見逃さず、敢然と立ち向かうべし、という...
最判令和6年10月31日令和5年(受)906号 大学教員の任期

はじめに 本件は、大学の教員の職が大学の教員等の任期に関する法律4条1項1号所定の教育研究組織の職に当たるとされた事例である。 事案の概要 Xは、羽衣国際大学(Y:学校法人羽衣学園が設置、運営)人間生活学部人間生活学科生活福祉コース専任教員であった者である。 Yは、同コースの専任教員4名のうち1名が退任したことに伴い、後任の専任教員を募集していたところ、Xがこれに応募した。募集要項で...
【速報】 持続化給付金詐欺 の判決まとめ 20210429
はじめに 持続化給付金の不正受給を巡る詐欺罪について、公判請求され、判決が相次いで言い渡されている。そこで、本稿では、令和3年4月28日までの報道記事や判例データベースをもとに、持続化給付金不正受給に関する裁判例の傾向を検討することにした。 報道発表から読み取れる範囲で一覧表を作成しており、役割や被害弁償、分け前などについては一部、推測に渡るものも含まれている。また、本稿掲載時点で検察官による求刑まで行われ...