一部執行猶予 高相祐一氏の判決から
タレントの酒井法子さんの元夫である高相祐一氏に対し、令和3年3月24日、東京地裁は懲役1年8月、うち4月について保護観察付執行猶予2年とする判決を言い渡した。
これについては、いくつかの報道記事が判決の意味を正しく理解していないのではないかと思われるので、ここで詳しく解説する。
刑の一部執行猶予制度は、平成28年に施行されたもので、一定の要件(全部執行猶予の場合とかなりの部分が重複する)を満たす場合に、刑の一部を執行猶予するというものである。
これだけでは何のことかわからないのでわかりやすい例を挙げると、「懲役2年、うち半年は執行猶予3年」という判決を受けた場合、何はともあれ、まずは刑務所に行かなければならない。ただ、2年全部を刑務所に行くわけではなく、1年半経過したところで一旦、出所し、残りの半年は、社会の中で3年間様子を見ましょう、というのが一部執行猶予である。
そして、覚醒剤などの薬物事犯の場合は薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律という特則があり、一部執行猶予判決をするための要件が他の犯罪に比べて緩和されている一方で、一部執行猶予の期間中は必ず保護観察に付することになっている。この場合の保護観察は、非行少年などと同様、定期的に保護司と面会するといったやり方が実施されている。
これまでは、刑務所の中で真面目にしていれば、仮釈放で出てくるというのが一般的であった。しかし、仮釈放というのは、行政機関のさじ加減次第であるのに対して、一部執行猶予については、あらかじめ判決で期間を明確に定める点に大きな意義がある。
また、薬物事犯の場合、現状では刑務所に入れても再犯防止のための働きかけが十分になされているとは言えない現状にあり、満期まで服役した後にいきなり社会に戻すよりも、社会内で更生するための「助走期間」を付けることによって、再犯を防止しようとする狙いがある。実際にも、一部執行猶予付の判決が言い渡されるのは、ダルクなどの支援団体の支援を受けることが約束されている事案が多いようである。
ただ、一部執行猶予の場合、執行猶予期間が明けるまでの期間は、執行猶予なしの判決を受けて満期まで服役する場合に比べて、かえって長くなることも多い。前科が多数ある被告人などの場合は、このことを嫌がる場合もあり、一概に早く出所することだけを考えているわけでもなかったりするのが難しいところである。
さて、高相氏について報道されているところによると、平成21年に覚醒剤取締法違反で執行猶予付判決を受け、その後、平成28年に薬機法違反(危険ドラッグ)で懲役1年の実刑判決を受けていたというので、同種前科2犯、出所後約3年での犯行ということで、一般的には重い処分が見込まれる。
他方、報道によれば、高相氏は危険ドラッグで服役した後に、ダルクに入寮して更生に取り組んでおり、本件当時はダルクを退寮して、居酒屋でアルバイトをしている矢先のことだったという。今後もダルクの支援を受けることを約束していることが、一部執行猶予につながったものと思われる。
酒井法子さんの事件の時に大きく報道されたことで、世間からは「ノリピーを悪の道に誘い込んだ極悪人」というレッテルを貼られているものの、現在の報道内容を見ている限り、彼もまた薬物を辞めようと苦闘しているうちのひとりなのだと痛感させられる。今回の事件も、バイト先の居酒屋で同僚から罵倒されたことなどをきっかけに、知人から覚醒剤を譲ってもらったということであり、このような形で薬物を再使用してしまうことを「スリップ」と呼び、実際上もしばしば見かける。
私が国選弁護で担当した覚醒剤取締法違反の被告人も、執行猶予中にまた逮捕されたなどの噂を耳にすることは珍しくない。薬物は一度手を付けてしまうと、辞めるのは本当に難しい。ただ、薬物を辞められない人の背景には、その人なりの「生きづらさ」があり、これを適切に発散できないことで、薬物にはけ口を求めているというパターンが多い。周りの支援がプラスになることは間違いない。
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