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制度の不備にとどめの一撃を与えた経産省官僚による給付金詐欺

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はじめに

持続化給付金の不正受給による詐欺事件が、全国的に大きな問題となっていることは、当事務所のコラムで繰り返し掲載してきた。

続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ2 20210616
持続化給付金の不正受給(詐欺)について

そのような中、同種の家賃支援給付金を不正に受給したとして、現職の経済産業省の官僚2名が逮捕されたという衝撃的なニュースが飛び込んできた。本稿では、この事件に関して考察すると共に、新型コロナウイルス対策の給付金に潜む根本的な問題点を指摘したい。

事件の概要

時事通信の報道を引用する。いつもの通り、逮捕段階であるため、被疑者の氏名については*で置き換えてある。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で売り上げが減った中小企業などを支援する国の「家賃支援給付金」をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は25日、詐欺容疑で、いずれも経済産業省経済産業政策局のキャリア官僚で、産業資金課係長の*(28)=東京都千代田区一番町=、産業組織課の*(28)=文京区向丘=両容疑者を逮捕した。捜査2課は認否を明らかにしていない。
家賃支援給付金は経産省中小企業庁の所管だが、審査などを簡素化したため不正受給が続発していた。同課は同日午後、同省を家宅捜索した。
逮捕容疑は昨年12月ごろ、虚偽の賃貸契約書などを添付して家賃支援給付金を中小企業庁に申請。今年1月ごろ、2人が設立した「新桜商事」(文京区)名義の口座に約550万円を振り込ませてだまし取った疑い。
同課によると、2人は高校の同級生で、虚偽書類の準備や申請は新井容疑者が行ったとみられる。詐取金の大半は桜井容疑者の口座に入金され、高級時計などを購入した際のクレジットカードの支払いに充てられていたという。
桜井容疑者は高級住宅地に住み複数の外車に乗るなど、収入に見合わない生活を送っていたとされる。口座の金の動きに不自然な点があり、同課は他にも給付金などを詐取した可能性があるとみて捜査を進める。
家賃支援給付金は、事業のために建物などの賃料を支払っている中小企業や個人事業主が対象。最大で中小企業に600万円、個人事業主に300万円を給付する。申請受け付けは終了しており、経産省はこれまで3法人、5個人事業主が計約1100万円を不正受給したと認定した。
経産省の話 職員が家賃支援給付金の詐欺の疑いで逮捕されたことは誠に遺憾。全容の解明を踏まえて、厳正に対処したい。

家賃支援給付金とは

家賃支援給付金は、持続化給付金の家賃バージョンのようなものであり、緊急事態宣言等により売上げが減少した法人や個人事業主に対して、家賃の負担額に応じた給付金を支給するというものである。
具体的には、売上高が減少した企業について、家賃をもとに計算した給付額を支給するというもので、例えば家賃30万円を支払っている株式会社であれば、120万円が支給される。法人の最大支給額は600万円、個人の最大支給額は300万円と、持続化給付金よりも高額の給付が受けられるようになっている。
詳細は経済産業省のウェブサイトを見てもらいたい。
逮捕された2名は、このことを悪用し、実態のない会社が親族の管理する不動産に対して家賃を負担していたように見せかけ、形式だけの書類を整えて給付金を不正に受給したようである。被害額が約550万円になるというのであるから、持続化給付金5人分以上である。

どう考えても詐欺をしてくれと言っているようにしか見えない審査体制

しかしながら、そのような高額の給付金を得られるにもかかわらず、審査は恐ろしいくらいザルである。先ほどの経済産業省のサイトによると、必要書類は、
1 賃貸借契約書
2 直近3ヶ月分の賃料の支払を証明する書類
3 本人確認書類
4 売上高の減少を証明する書類
のたったの4点である。
このうち、3の本人確認書類は、運転免許証などのことであるので、用意するのは簡単である。4の売上高の減少を証明する書類については、持続化給付金の場合と同様、虚偽の確定申告を行い、Excelなどで適当に売上げを記載したものを提出しても審査を通過しているのではないかと思われるので、こちらも適当に用意しようと思えばできるのではないかと考えられる。
問題は1と2であり、これは持続化給付金の場合は必要のない書類である。しかし、そもそも存在しない土地や建物をでっち上げるというのであればともかく、実在する土地や建物を賃借しているという体裁を取り繕うだけであれば、家主の協力を得るなどすれば、虚偽の賃貸借契約書と領収証を作成するというのは、それほど困難ではないのではないかと思われる。現に逮捕された2名も、親族名義の不動産を借りているということにしていたようである。
このように、国民の血税を一件あたり何百万とつぎ込んでいる割には、節穴のような審査しかしていないというのがこの給付金の実態である。これでは詐欺をしてくれと言っているようにしか思えない。なんともお粗末極まりないものであり、納税者に対する責任は重大である。

今回の事件が意味するもの

しかも、図らずも、制度を作っている経済産業省の現職官僚が、制度を悪用して給付金を不正受給していたことが明らかになったことで、新型コロナウイルス給付金の審査がいかにお粗末であるのか、全国に知らしめることとなってしまった。
給付金の制度がスタートしたとき、政治家は、「新型コロナウイルスで困っている国民を迅速に救済することが重要である」として簡素な審査を要求し、不正受給の可能性については性善説であると強弁した。しかしながら、金の絡む話に性善説など通用する余地がないことは、社会生活を営んできた人間であれば当然わかる話である。そのような無責任な制度設計のために、不正受給の調査や改修手続、捜査手続、公判手続などに多大なる人的資源が忙殺されているし、それによるコストは計り知れない。
現職の官僚が自らの所属官庁の給付金をだまし取るなど前代未聞であり、その悪質性や被害額をみると、実刑も十分に考えられる事案である。持続化給付金も、多くの若者が犯罪に手を染める結果になっている。勿論、詐欺を働く人間が悪いのはその通りであるが、このような適当な審査をしていなければ、多くは未遂に終わっていたのではないかと思われることを考えると、制度設計をした人間の責任は問われないのか、なんとも釈然としないところである。

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