制度の不備にとどめの一撃を与えた経産省官僚による給付金詐欺 |福岡の刑事事件相談、水野FUKUOKA法律事務所

福岡の刑事事件に強い弁護士

初回相談無料 092-519-9897 24時間、即時無料相談対応
メールでのお問い合わせはこちら

制度の不備にとどめの一撃を与えた経産省官僚による給付金詐欺

事務所公式HP

友だち追加

はじめに

持続化給付金の不正受給による詐欺事件が、全国的に大きな問題となっていることは、当事務所のコラムで繰り返し掲載してきた。

続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ2 20210616
持続化給付金の不正受給(詐欺)について

そのような中、同種の家賃支援給付金を不正に受給したとして、現職の経済産業省の官僚2名が逮捕されたという衝撃的なニュースが飛び込んできた。本稿では、この事件に関して考察すると共に、新型コロナウイルス対策の給付金に潜む根本的な問題点を指摘したい。

事件の概要

時事通信の報道を引用する。いつもの通り、逮捕段階であるため、被疑者の氏名については*で置き換えてある。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で売り上げが減った中小企業などを支援する国の「家賃支援給付金」をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は25日、詐欺容疑で、いずれも経済産業省経済産業政策局のキャリア官僚で、産業資金課係長の*(28)=東京都千代田区一番町=、産業組織課の*(28)=文京区向丘=両容疑者を逮捕した。捜査2課は認否を明らかにしていない。
家賃支援給付金は経産省中小企業庁の所管だが、審査などを簡素化したため不正受給が続発していた。同課は同日午後、同省を家宅捜索した。
逮捕容疑は昨年12月ごろ、虚偽の賃貸契約書などを添付して家賃支援給付金を中小企業庁に申請。今年1月ごろ、2人が設立した「新桜商事」(文京区)名義の口座に約550万円を振り込ませてだまし取った疑い。
同課によると、2人は高校の同級生で、虚偽書類の準備や申請は新井容疑者が行ったとみられる。詐取金の大半は桜井容疑者の口座に入金され、高級時計などを購入した際のクレジットカードの支払いに充てられていたという。
桜井容疑者は高級住宅地に住み複数の外車に乗るなど、収入に見合わない生活を送っていたとされる。口座の金の動きに不自然な点があり、同課は他にも給付金などを詐取した可能性があるとみて捜査を進める。
家賃支援給付金は、事業のために建物などの賃料を支払っている中小企業や個人事業主が対象。最大で中小企業に600万円、個人事業主に300万円を給付する。申請受け付けは終了しており、経産省はこれまで3法人、5個人事業主が計約1100万円を不正受給したと認定した。
経産省の話 職員が家賃支援給付金の詐欺の疑いで逮捕されたことは誠に遺憾。全容の解明を踏まえて、厳正に対処したい。

家賃支援給付金とは

家賃支援給付金は、持続化給付金の家賃バージョンのようなものであり、緊急事態宣言等により売上げが減少した法人や個人事業主に対して、家賃の負担額に応じた給付金を支給するというものである。
具体的には、売上高が減少した企業について、家賃をもとに計算した給付額を支給するというもので、例えば家賃30万円を支払っている株式会社であれば、120万円が支給される。法人の最大支給額は600万円、個人の最大支給額は300万円と、持続化給付金よりも高額の給付が受けられるようになっている。
詳細は経済産業省のウェブサイトを見てもらいたい。
逮捕された2名は、このことを悪用し、実態のない会社が親族の管理する不動産に対して家賃を負担していたように見せかけ、形式だけの書類を整えて給付金を不正に受給したようである。被害額が約550万円になるというのであるから、持続化給付金5人分以上である。

どう考えても詐欺をしてくれと言っているようにしか見えない審査体制

しかしながら、そのような高額の給付金を得られるにもかかわらず、審査は恐ろしいくらいザルである。先ほどの経済産業省のサイトによると、必要書類は、
1 賃貸借契約書
2 直近3ヶ月分の賃料の支払を証明する書類
3 本人確認書類
4 売上高の減少を証明する書類
のたったの4点である。
このうち、3の本人確認書類は、運転免許証などのことであるので、用意するのは簡単である。4の売上高の減少を証明する書類については、持続化給付金の場合と同様、虚偽の確定申告を行い、Excelなどで適当に売上げを記載したものを提出しても審査を通過しているのではないかと思われるので、こちらも適当に用意しようと思えばできるのではないかと考えられる。
問題は1と2であり、これは持続化給付金の場合は必要のない書類である。しかし、そもそも存在しない土地や建物をでっち上げるというのであればともかく、実在する土地や建物を賃借しているという体裁を取り繕うだけであれば、家主の協力を得るなどすれば、虚偽の賃貸借契約書と領収証を作成するというのは、それほど困難ではないのではないかと思われる。現に逮捕された2名も、親族名義の不動産を借りているということにしていたようである。
このように、国民の血税を一件あたり何百万とつぎ込んでいる割には、節穴のような審査しかしていないというのがこの給付金の実態である。これでは詐欺をしてくれと言っているようにしか思えない。なんともお粗末極まりないものであり、納税者に対する責任は重大である。

今回の事件が意味するもの

しかも、図らずも、制度を作っている経済産業省の現職官僚が、制度を悪用して給付金を不正受給していたことが明らかになったことで、新型コロナウイルス給付金の審査がいかにお粗末であるのか、全国に知らしめることとなってしまった。
給付金の制度がスタートしたとき、政治家は、「新型コロナウイルスで困っている国民を迅速に救済することが重要である」として簡素な審査を要求し、不正受給の可能性については性善説であると強弁した。しかしながら、金の絡む話に性善説など通用する余地がないことは、社会生活を営んできた人間であれば当然わかる話である。そのような無責任な制度設計のために、不正受給の調査や改修手続、捜査手続、公判手続などに多大なる人的資源が忙殺されているし、それによるコストは計り知れない。
現職の官僚が自らの所属官庁の給付金をだまし取るなど前代未聞であり、その悪質性や被害額をみると、実刑も十分に考えられる事案である。持続化給付金も、多くの若者が犯罪に手を染める結果になっている。勿論、詐欺を働く人間が悪いのはその通りであるが、このような適当な審査をしていなければ、多くは未遂に終わっていたのではないかと思われることを考えると、制度設計をした人間の責任は問われないのか、なんとも釈然としないところである。

判決文・報道記事提供のお願い

データベースを充実させるため、持続化給付金不正受給に関する判決文や報道記事をご提供いただける方を探しています。

こちらのメールアドレス(クリックするとリンクが開きます)

からお願いいたします。

その他のコラム

控訴審 新井浩文さんの事例をもとに考える

はじめに 俳優の新井浩文こと朴慶培さんについて、東京高裁は令和2年11月17日、懲役5年の実刑とした第一審判決を破棄し、懲役4年の実刑判決を言い渡した。今回は、刑事控訴審の構造や、本判決に関する検討を行うこととしたい。   控訴審の構造 日本では、3回、裁判が受けられるということは、小学校の社会科の授業などでも習うので、広く一般に知られている。しかし、ボクシングの試合などとは異なり、裁判の第一ラウンドから...

立川ホテル殺人事件 少年の実名報道を繰り返す週刊新潮に抗議する

繰り返される暴挙 東京都立川市にあるラブホテルの一室で、デリヘル嬢が19歳の少年に刺殺され、男性従業員が重傷を負うという事件が発生した。この事件については、当事務所のコラムでも取り扱った。 さて、この事件に関して、週刊新潮6月17日号は、「凶悪の来歴」「70カ所メッタ刺し!立川風俗嬢殺害少年の「闇に埋もれる素顔」」などと題して、少年の実名と顔写真を大々的に掲載した。 週刊新潮が、少年事件において、少年法61条を無視して少...

一部執行猶予 高相祐一氏の判決から

タレントの酒井法子さんの元夫である高相祐一氏に対し、令和3年3月24日、東京地裁は懲役1年8月、うち4月について保護観察付執行猶予2年とする判決を言い渡した。 これについては、いくつかの報道記事が判決の意味を正しく理解していないのではないかと思われるので、ここで詳しく解説する。 刑の一部執行猶予制度は、平成28年に施行されたもので、一定の要件(全部執行猶予の場合とかなりの部分が重複する)を満たす場合に、刑の一部を執...

保釈にまつわる話~よくある誤解~

はじめに 衆議院議員の河井克行さんについて、東京地裁は令和3年3月3日に保釈を認める決定を行った。 今回は、保釈に関して、一般の方がしばしば誤解されている点を説明しておきたい。そんなの言われなくても知ってるよ!という方にはつまらない内容になるので、あらかじめご容赦いただければと思う。   ①保釈請求は何度もできる 保釈は一発勝負ではない。実際、河井克行さんの場合は5回、妻の河合案里さんの...

上訴権放棄・上訴の取下げ

日本は三審制を採っているので、第一審、第二審判決に対しては不服の申立ができ、第一審判決に対する不服の申立を控訴、第二審判決に対する不服の申立を上告と呼んでいる。控訴と上告を合わせて「上訴」と呼んでいる。 第一審判決が実刑判決であったものの、控訴しても勝算が薄い場合には、上訴権を放棄してしまうことがしばしば行われる。通常であれば、判決から2週間は上訴期間であるため、判決は確定しない。上訴権を放棄すると、その分、判決の確定が早ま...

刑事事件はスピードが命!
365日24時間即時対応

24時間即時無料相談対応 092-519-9897 弁護士が直接対応 六本松駅から好アクセス

メールでのお問い合わせはこちら