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持続化給付金の不正受給(詐欺)について

はじめに

新型コロナウイルスにより、売上高が減少した個人事業主などを救済するための、持続化給付金という制度が悪用されている。困ったことに、犯罪組織などの反社会的集団が、言い金儲けの手段として目を付け、普段は犯罪とは無縁な一般人を言葉巧みに誘い、犯罪に走らせるという出来事が全国で無数に発生している。今回は、持続化給付金の不正受給について、手口や、万一関わってしまった場合の問題点、国の対応に対する疑問などについて述べていきたい。

 

恐ろしく簡単な手口

持続化給付金の不正受給は、とても単純な手口で行われている。このことは、本件を語る上では見逃せない。

その前提として、まず、正規の手続ではどのように申請が行われるのかを見てみよう。持続化給付金は、売上高が前年同月比で半分以下になった事業者を対象にしている。しかし、そのことを証明する資料として国が提出を求めているのは、前年の確定申告書と、今年の売上に関する資料のみである。特に後者に関しては、特に様式は問われておらず、Excelでササッと作った表などでもよいとされている。あとは、振込先口座の情報と、本人確認のための住民票の写しくらいであり、これらをウェブ上で提出することで、手続きは完了する。

要は、売上げが正しいかどうかの裏付け資料など、全く必要ないわけである。これが、詐欺師に目を付けられたポイントである。

つまり、ウソの確定申告を行い、前年度から個人事業主であったかのように装う。その上で、ウソの売上票をExcelなどで作成すれば、不正受給に必要な資料は全て揃うわけである。最大100万円もの給付が得られる手続にしては、あまりにずさんである。

 

狙われる一般市民

しかし、持続化給付金の不正受給には、大きなリスクがある。それは、個人情報を国に全て提出しているわけであるから、インチキをすれば証拠は全て国が保有しているため、一瞬でバレてしまうことである。振り込め詐欺は大きな社会問題になっているが、そもそもだまされたことに気付いていない被害者も多数存在する。しかし、持続化給付金の不正受給は、ちょっと本気を出して調べようと思えば、すぐに調べることが可能であるし、証拠を保全することも可能である。つまり、簡単に足がつくのである。

そして、制度上、ひとりで何回も申請できないという問題もある。

そこで、犯罪組織が目を付けるのは、よく分かっていない人を操って、代わりにやらせるという方法なのである。

現在、SNS等を中心に、学生や働いている10代~20代の若者、主婦、会社員などに対し、簡単に金が稼げる話があるとして、持続化給付金の不正受給を持ちかける例が急増している。試しに、Twitterなどでそれらしい用語を検索してみると、この手の勧誘が大量にヒットする。そして、ウソの確定申告をするために、税務署で電子申告のIDとパスワードを取らせ、住民票や口座の写しなどと一緒に送るだけで、100万円が入金されるので、手数料としてその一部を払え、という具合に勧誘するのである。実際には、ウソの確定申告や、売上票の作成は、組織の側が行っていることが大半であり、税理士や行政書士などの士業が関与していると疑われる事案もあるようである。

逆に言えば、勧誘された側から見ると、税務署に行って確定申告のIDとパスワードを取得し、住民票や通帳のコピーを送るだけで大金が手に入るわけであるし、個別の行為自体は日常生活を送る上で通常、行っているようなものであるから、実行することに対する心理的なハードルは低い。このため、知り合いから誘われるなどして、安易に不正受給を行ってしまう人が多発している。

 

大きな代償1 刑事責任

しかしながら、これは言うまでもなく犯罪であり、しかも重大犯罪である。自分では虚偽の書類作成などを行っていないとしても、事実と異なる申告をして、給付金を受け取ることについて認識があれば、詐欺罪が成立すると考えられる。振り込め詐欺に関する判例の多くは、いわゆる受け子や出し子の、「荷物を受け取るだけの簡単な仕事だと思っており、詐欺とは知らなかった」「頼まれてお金を引き出しただけで、詐欺に関わっているとは夢にも思わなかった」といった弁解をなかなか認めない。そのことから考えると、「書類を渡せばお金が手に入ると聞いていただけで、詐欺とは思わなかった」という弁解は、ほぼ通らないと考えておいた方がよい。

持続化給付金の不正受給については、組織的な背景があることから、共犯者との口裏合わせの可能性があるとされると、逮捕・勾留される可能性も低いとはいえない。さらに、手数料としていくら組織に払っていようと、詐欺の被害額は100万円である。100万円の損害というのは、詐欺の中でも高額な部類に入ると思われる。同じ財産犯で見ても、例えば100万円の万引きとか、100万円のカツアゲというのはなかなかお目にかかれない。そうすると、前科前歴がなくとも、実刑となる可能性も否定できない。

 

大きな代償2 民事責任

さらに、当然ながら、本来は受け取ることのできない給付金を不正に受け取っているわけであるから、その分は返還をしなければならない。これは、手数料で組織にいくら払っていても、そのことは一切考慮されない。また、規則上は、不正請求の場合は20%を上乗せした上、年利3%の延滞金を付けて返さないといけないのであるが、今のところ、自ら申告して返還する場合には、100万円の返還のみでよいということにされているようである。

犯罪組織は、このことをよく分かっており、バレたときには受給者本人に責任を全てなすりつけることを前提に、このスキームを組んでいることが容易に推察できる。書類を出すだけで大金が手に入ると思っていたら、実はそれ以上の負債を負わされていた、ということになりかねないわけである。

 

持続化給付金の不正受給に関わってしまったら

では、万一、自分が不正受給をしてしまった、あるいは家族や友人が持続化給付金の不正受給に関わっている、という事態が判明した場合にはどうしたらよいか、ということである。

まず、刑事手続との関係では、逮捕・勾留を回避するというのが第一の目標になる。そのためには、捜査が開始されていない状況であっても、弁護士を弁護人として選任した上で、警察署に赴き、事情を説明しに行くという流れになる。つまりは自首である。

犯罪であっても、証拠がなければ立件できない。しかし、持続化給付金の不正受給に関して言えば、証拠のほとんどは既に国の手中にあるので、警察がその気になればいつでも証拠が揃うものと考えられる。

家族や勤務先の協力が得られる場合には、これらの身元引受書を提出するなどして、逃亡・罪証隠滅の可能性がないことを立証することが有用である。また、勧誘してきた者とのSNSのやり取りなどは、スクリーンショットを取るなどして証拠化し、資料として提出することも検討すべきである一方、口裏合わせと疑われないよう、以後、そうした者とは連絡を取り合わないことも重要である。

警察に行くことで、背後の組織からお礼参りをされるのではないかという不安もあるかも知れないが、これについては、警察に相談の上、場合によっては自宅付近の巡回を強化してもらうなどの対策を取ってもらうよう交渉することが考えられる。いずれにしても、警察とのやり取りを一般の方が自分で行うのは負担が大きいので、弁護士に依頼した方がよい。但し、逮捕されていない状態では、国選弁護人の制度は存在しないので、私選弁護人として自費で依頼する必要がある。

警察に赴いて自首を成立させた上で、持続化給付金の事務局に連絡し、返金の手続を進める必要がある。これは、必ず本人が行う必要があるようである。具体的には、コールセンターのようなところに電話をかけて、返金したい旨と自分の情報を伝えれば、数週間で振込用紙が送られてきて、そこに書いてある振込先に返金する、という流れになる。重要なのは、先に持続化給付金事務局に連絡してしまうと、事務局が警察に通報する可能性があるので、自首が成立しない可能性があると言うことである。このため、返金の手続については、一度警察に行って、一通り話をしてから、ということになる。返金した際には、そのことを証拠と共に警察に報告することも必要である。

100万円の詐欺であっても、全額が返金されており、関与の程度が薄い場合には、起訴猶予処分となる可能性も十分考えられるところである。

なお、以上は成人の場合であり、不正受給を行ったのが未成年者の場合は、少し異なる対応が必要になる。

 

国の対応のいい加減さ

国は、全国的に不正受給が頻発している事態に対し、「迅速に給付が受けられることを優先した、性善説でやっていた」などと、呆れてものも言えないような弁解をしている。国の言う「迅速な給付」のために、不正受給が横行し、現在、警察、税務署、持続化給付金事務局は、その対応でパンク寸前である。そして、金が絡む話に性善説などあり得ない。頭の中にお花畑が咲き誇っているような発想は、どこから出てくるのか。官僚が頭の中で考えただけの制度であることが容易に推察できる。

持続化給付金の不正受給によって失われるものは大きい。まず、大量の税金が不正にだまし取られ、国民の税金が無駄遣いされている。しかも、犯罪組織の懐を潤している。あれだけ熱心に、暴力団の排除や振り込め詐欺の撲滅を掲げたところで、チャラになってしまうのではないかといわんばかりの話である。

そして、そうした犯罪組織にそそのかされ、犯罪に手を染める一般人を大量に作り出してしまったことへの責任も大である。もちろん、不正受給をするのも悪いのはその通りである。しかし、いとも簡単に不正受給ができたこと、不正受給への心理的なハードルが低かったことの原因は、あまりに単純な申請方法で、証拠もろくに検討せず、ザルな審査で安易に給付金を支払ってきた国のやり方にも原因の一端がある。それを、迅速な給付だの性善説だのといった美辞麗句でごまかすことなどナンセンスと言うほかない。

さらに、返金を巡る国の姿勢にも、ただただ呆れるばかりである。現在、国は、不正受給に対する返金について、100万円の一括払い以外受け付けないという対応を取っているようである。法律上、一括払いで返還するのが原則なのはその通りである。しかし、債権を回収する場合、回収不能を避けるためには、回収できる範囲で少し筒回収していくというのが当然の戦略である。普通に考えて、100万円を貸している相手がいつ夜逃げするか分からない状態だったら、とりあえず5万円でも10万円でも、一部だけ返させるというのが当然の発想である。国のやり方を見ていると、本気で不正にだまし取られた税金を回収しようとしているのか、甚だ疑問である。

 

おわりに

先日、あるテレビ局の記者と一緒に、福岡市内でも若者が多く集まる警固公園を巡回し、持続化給付金の不正受給についてインタビューを試みたことがある。そこでは、自ら不正受給をしている人こそ見つからなかったものの、周囲の人間がやっているとか、自分も勧誘されたという人が少なからずいた。それくらい、この犯罪は我々の身近に迫っている。

楽して金が儲かる話などめったにないことを、改めて肝に銘じておく必要がある。そして、万一関わってしまった場合には、そのこと自体を取り消すことはできないのであるから、早期に弁護士に相談することにより、可能な限りのリカバリを図ることが重要である。

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