持続化給付金不正受給の判決をみる
まずはこちらの記事をご覧いただきたい。
沖縄タイムス元社員に有罪判決 コロナ給付金不正「安易かつ身勝手」 那覇地裁
沖縄タイムス社の元社員が、持続化給付金の不正受給を行っていたとして起訴された事件で、那覇地裁は、懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡したとのことである。
記事によれば、被告人は自ら警察に出頭し、全額を返還したとのことであり、執行猶予付判決となったこと自体は妥当と思われる。ただ、懲役1年6月執行猶予3年というのは、だいたい覚醒剤の初犯と同じくらいの量刑であり、そういう意味ではかなり重いといえる。
もっとも、前科前歴がない(と思われる)被告人について、受け取った給付金を全額返還したにもかかわらず、あえて公判請求した理由についてはなんともいえない。報道内容から読み取れる範囲で推測すれば、知人に不正受給を勧誘したと認定されている(ただし、知人の件について立件されているかどうかは不明である)こと、申請に必要な書類などを全て自ら用意しており、確定的な故意が認められることなどが考慮されたのではないかと考えられるところである。沖縄テレビの記事を見ると、
那覇地方裁判所の森田千尋裁判官は「自ら書類を作成し、知人も勧誘するなど積極的に犯行に関わった」と悪質性を指摘。
と指摘されている。
このため、他人から勧誘されて書類を渡し、受け取った給付金の一部を手数料として支払ったというように、関与の程度が従属的なものに留まる者や、詐欺であることについて未必的な認識を有していたに留まる者などについては、速やかに受領した金額を返還することで、起訴猶予処分を獲得することも不可能ではないのではないかと思われるところである。特に、首謀者などから、書類を出せばお金がもらえるなどと勧誘され、なんとなく怪しいとは思いつつも、書類一式を渡し、相当額の手数料を首謀者に渡していたような事案については、必ずしも本件と同様の悪質性が認められるというものではないと思われるため、結論も異なってくるのではないかとも思われる。
これとは逆に、受け取った給付金を既に使ってしまっていて、返還できなかったような場合に、実刑判決が選択されるのかどうかも難しいところである。これについては、いかんせん前例のない事例であるため、今後の裁判例の集積を見守るよりほかないであろう。
いずれにしても、不正受給を行ってしまったことがわかった場合には、警察への自主的な申告と、返還を行うことが必要不可欠である。早めに弁護士に相談することが重要である。
その他のコラム
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ5 背景事情の多様化 20210917
はじめに 持続化給付金の不正受給について、一般の方や、全国で同種事案の弁護人をされる先生方の参考になるよう、持続化給付金の判決について、情報収集を行い、分析を続けている。前回の記事から、さらにいくつかの判決に関する情報を入手した。 これまでの過去記事は以下をご覧いただきたい。 続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ4 徐々に増える実刑判決 20210804 続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ3 不可解な地域...
持続化給付金の不正受給(詐欺)について
はじめに 新型コロナウイルスにより、売上高が減少した個人事業主などを救済するための、持続化給付金という制度が悪用されている。困ったことに、犯罪組織などの反社会的集団が、言い金儲けの手段として目を付け、普段は犯罪とは無縁な一般人を言葉巧みに誘い、犯罪に走らせるという出来事が全国で無数に発生している。今回は、持続化給付金の不正受給について、手口や、万一関わってしまった場合の問題点、国の対応に対する疑問などについて述べていきたい。...
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ10 実刑と執行猶予の狭間で
持続化給付金はじめに 持続化給付金の不正受給について、一般の方や、全国で同種事案の弁護人をされる先生方の参考になるよう、持続化給付金の判決について、情報収集を行い、分析を続けている。前回の記事から、さらにいくつかの判決に関する情報を入手した。 これまでの過去記事は以下をご覧いただきたい。 続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ9 第一波と第二波の端境期 続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ8 役割分担の評価の難しさ 続...
一部執行猶予
執行猶予とは、有罪判決の場合に、判決を直ちに執行することなく、しばらく様子を見ることを言う。簡単に言えば、今すぐ刑務所というわけではなくて、しばらくの間、社会の中できちんとやっていけるかどうか様子を見て、大丈夫そうならそのまま社会で暮らしてください、というものである。法律上は、罰金にも執行猶予は可能であるが、実際に使われることは稀である。 さて、平成28年6月1日から、刑の一部執行猶予と呼ばれる制度が始まった。これは「一...
ほんとうにあった怖い事例 蛇~ローテーション
判例を調べていると、こんな事例が本当にあったのか!と思うような事例にでくわすことがしばしばある。今回は、そのような事例をひとつご紹介する。 大判昭和7年10月10日大刑集11巻1519頁である。 事件が発生したのは昭和6年12月24日。満州事変が発生したのが昭和6年9月18日であるから、その約3箇月後、徐々に戦争の足音が聞こえてきているような時代である。もちろん、現代のように、12月24日だからと言ってのんきにクリ...