裁判所電気事件にみる「高野イズム」 ある裁判員裁判を振り返って |福岡の刑事事件相談、水野FUKUOKA法律事務所

福岡の刑事事件に強い弁護士

初回相談無料 092-519-9897 24時間、即時無料相談対応
メールでのお問い合わせはこちら

裁判所電気事件にみる「高野イズム」 ある裁判員裁判を振り返って

カルロス・ゴーン氏の弁護人を務めるなど、刑事弁護で有名な高野隆弁護士が、横浜地裁の裁判官から、裁判所の電気の使用を制限されたことを不服として、東京高裁に抗告したことが話題になっている。

これについては、名古屋の金岡先生のブログなど、色々と物議を醸しているようである。

私はこの話をきいて、あるエピソードを思い出した。それは、高野先生の基本的な姿勢、すなわち、裁判所の一挙手一投足も見逃さず、敢然と立ち向かうべし、という考え方である。


私は、以前にある裁判員裁判に、被害者参加弁護士として参加したことがある。期日において被害者の証人尋問が行われ、その後、休廷を挟んで被告人質問を行うことになった。

そのとき、裁判長は、直前まで被害者が着席していた椅子を、職員に指示して別の椅子に交換させた。被告人の弁護人は、この点を見逃さなかった。

休廷が終わり、被告人質問に移行する直前、弁護人はおもむろに立ち上がって、裁判長の訴訟指揮に対して異議を述べた。曰く、「被告人はバイ菌ではない。そのような訴訟指揮は、断固として承服しかねる」と。裁判長は、「被害者の感情にも配慮したんですけどね・・・」などとゴニョゴニョ言いながら、最終的には正式な異議として公判調書に記載されていたかと思う。

その時の弁護人は、高野先生の事務所のとある先生であった(公開の法廷でのやり取りであるものの、具体的な名前はここでは明かさないこととする)。

確かに、裁判長がどのような意図で椅子を入れ替えたのか、理解に苦しむところではある。だが、訴訟手続の法令違反を構成するというわけではないし、さすがにそれが裁判員に悪印象を与えて量刑に影響すると言うことも考えにくいであろう。おおかたの弁護人は「失礼なことをする裁判長だなあ」と思いつつも、スルーしてしまうのではないかと思うし、そもそも、気にもとめない弁護人も少なくあるまい。しかし、このときの弁護人は、そうした細かい点を見逃さなかった。当時、私は相手方当事者という立場ながら、たいへん感銘を受けたことを記憶している。そして、高野先生の考え方が、事務所の弁護士全体に共有され、各自がそれを実践しているのだろうと言うことが、今回の件で再確認された次第である。


確かに、公判前整理手続程度の時間であれば、内蔵バッテリーの電力で十分、PCを稼働させることは可能であろう。しかしながら、裁判官が、刑事弁護人の職務を私的なものだと断定し、国の電気であるから使わせないと言ったことの意義は軽視できない。それは公判手続にも当てはまることであるし、検察官はもちろん「公的」な存在であるので、電気は使い放題であるという結論につながりかねない。極めて官尊民卑な発想に立脚している。

高野先生が切り開いた刑事弁護における実務慣行は、実は随所に存在しており、私もその恩恵にあずかる場面が多々ある。それも、小さなことも見逃さず、刑事弁護人の矜恃を持って、適正手続のために立ち向かうという、日々の基本姿勢の積み重ねであると言えよう。

訴訟指揮に異議を述べるのは胃の痛い話である。それで被告人が不利益に取り扱われたらどうしようと思えば尚更である。裁判所のやり方に唯々諾々と従うのは楽である。しかしそれで何を失うことになるのか、よく考えた上で臨まねばなるまい。

その他のコラム

司法試験のPC入力への変更に思うこと 人間の能力は道具によって引き出される

司法試験が手書きからPC入力へ 司法試験が、手書きによる答案作成からPC入力に移行するという報道がなされた。 私が司法試験を受けた頃は、受験用にモンブランのボールペンや万年筆を購入することも珍しくなかった。手が疲れるとか肩が凝るとか、実に意味のない苦労を強いられた。それがなくなるというわけだ。   方向性には基本的に賛成 だから、手書きを辞めてPC入力にするという方向性自体には、基本的に賛成である。...

4年前の広島地検検察官自殺 公務災害に認定

以前(2021年12月1日) に 広島地検検察官公務災害に思うこと という記事で紹介した、広島地検公判部所属の29歳男性検察官が自殺した事件について、公務災害が認定されたという報道がなされた。 4年前の広島地検の検察官自殺 法務省が「公務災害」認定 4年前、広島地方検察庁の男性検察官が自殺し、遺族が「公務災害」の認定を求めていた問題で、法務省が時間外勤務の状況などをもとに「公務災害」に認定したと、遺族の...

年末年始の営業について

水野FUKUOKA法律事務所刑事事件特設サイトはこちら 事務所公式HP LINE公式アカウント 当事務所では、年末年始の営業について、下記の通り対応いたします。 12月28日まで 通常通り 12月29日~1月4日 対面でのご相談はお休みさせていただきます。 ZOOMでの相談は、12月28日までに日程調整をいただいたものについて対応いたします。 お電話は、刑事事件など、緊...

仙台弁護士会横領事件 弁護士会で横領が発生するメカニズムを考える【明日は我が身】

  仙台弁護士会において、事務職員が会の経費約5000万円を横領したとして起訴され、内3500万円の横領が認定されて、懲役4年6ヶ月の実刑判決を受けるという事件が発生した。   https://news.yahoo.co.jp/articles/29cf18ffc8b7976374f9a06695aa9f728e80c436   約3500万円横領 仙台弁護士会元...

続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ12 新たな展開

はじめに 持続化給付金の不正受給について、一般の方や、全国で同種事案の弁護人をされる先生方の参考になるよう、持続化給付金の判決について、情報収集を行い、分析を続けている。前回の記事から、さらにいくつかの判決に関する情報を入手した。 これまでの過去記事は以下をご覧いただきたい。 続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ11 重い量刑が続く 続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ10 実刑と執行猶予の狭間で 続報 ...

刑事事件はスピードが命!
365日24時間即時対応

24時間即時無料相談対応 092-519-9897 弁護士が直接対応 六本松駅から好アクセス

メールでのお問い合わせはこちら