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【日本人よ、これが検察だ!】プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付審判決定(中編)【断罪】

導入

さて、前回までで、プレサンス社元社長冤罪事件の概要や、特別公務員暴行陵虐罪、付審判請求の仕組み、大阪地検特捜部の検事による心も品もあったもんじゃない、ヤクザ映画のワンシーンやビ○グモ○ターの思い出蘇る取調べをご紹介した。今回は、これについて裁判所がどのような評価を行ったか、決定文をみてみよう。

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決定文の検討(8日の取調べ)

(2)特別公務員暴行陵虐罪の該当性

ア 8日の取調べについて

(ア)原決定は、おおむね次のとおり説示し、陵虐行為に該当すると判断した(略)。

田渕検事は、既に収集していた証拠(メモ)と整合しない供述をし、なお弁解を重ねようとしたKに対し、その話を遮るように机を叩いたことについて、取調室の構造や被疑者と取調官の関係、供述の矛盾点を追及されている当時の状況等に照らすと、上記行為は、Kに驚きや畏怖の念等を抱かせる性質の行為であり、様々な働きかけを試みてKの真意を確認する必要性があったことを考慮に入れても、Kに不当な精神的苦痛を与える行為である。

そして、田渕検事は、上記に引き続き、約50分間にわたりほぼ一方的に責め立て続け、約15分間は、大声で怒鳴り続けており、その発言内容も、Kを執拗に責め立てて、虚偽供述があるはずである、証拠は十分で、責任は逃れられないなどと述べ、威圧的な言葉を交え、Kの人間性に問題があり、あるいは、その人格を貶める趣旨の侮辱的な発言を行うなどしており、Kから事実を引き出す前提のやり取りというより、威迫して、田渕検事の意に沿う供述を無理強いしようと試みていると評価できる。

そのような言動に出る必要性も相当性も見出せないのに、机を叩き、その後一定時間にわたって怒鳴り、時には威迫しながら、Kの発言を遮って、長時間一方的に同人を責め立て続けた田渕検事の一連の言動は、陵虐行為に当たり、田測検事には、特別公務員暴行陵虐罪の嫌疑が認められる。

(イ) このような原決定の認定、判断は、その説示するところをも含めて相当である。

若干補足すると、田渕検事の取調べは、机を叩き、大きな声を上げて詰問するなどの威圧的な言動、Kを嘘つき呼ばわりし、嘘をついても謝りもしない非常識な人間などという人格を傷つける侮辱的な言動、検察官は人の人生を狂わせる権力を持っている、Kの人生を預かってるのは自分なんだと述べる脅迫的な言動を約50分間にわたって行っている。このような検察官の言動は、捜査対象となり、身体拘束されて取調べを受けている被疑者を畏怖させる程度が相当に高く、被疑者に対し、自己の処分がどうなるかについて不安を抱かせ、公訴官でもある検察官に迎合する虚偽供述を誘発する危険性が大きい。その侮辱的な言葉は、それ単体だけを捉えても人格攻撃というほかないもので、身体拘束下でこのような言葉を強い口調で言われれば、弁解を述べようとする気力も奪われ、上記虚偽供述を誘発する危険性を一層高めるものである。田渕検事によるこのような一連の言動は、脅迫としても態様や程度は著しいものがあり、陵虐行為に該当するといえる。

(ウ) なお、原決定は、本件当時、Kが客観的証拠と整合しないと思われる供述を続けており、田渕検事としては、その真偽を確かめ、そのような供述をする理由を理解するために様々な働きかけを試みる必要があったこと自体は否定できないなどとも説示をしている。この点、田渕検事が、逮捕から間がない8日の取調べの段階で、「お試しで逮捕なんてあり得ないんだよ。まず捕まえてみて、どうなるか分からないから、調べてみて、しゃべったら起訴しようとかじゃないんだよ。」「だから、慎重に慎重を重ねて、証拠を集めて、その上であなたほどの人間を逮捕してるんだ」などと述べていることに加え、その後の田渕検事とKとのやり取りをみても、Kを起訴する方針を固めた上で、本件スキームに沿った供述を、強引に、あるいは屈服させて引き出そうとしていたと考えるのが自然である。いずれにしても、Kの取調べにおいて、上記のような威圧的・侮辱的、脅迫的な言動に出る必要性、・相当性を見出すことはできない。

(エ)以上の次第であり、8日の取調べ時の田湖検事の言動が陵虐行為に該当するとした原決定の判断に誤りはない。Kが、このような取調べが苦痛とは思っていなかったなどと述べている点については、後で検討する。

 

この部分の感想としては、裁判所は適確な評価をしたと思う反面、もっと早く気付いて欲しかったと思うし、他の事件でも多かれ少なかれ同様の取調べは行われており、こういう検察官は決して少数派ではないということを前提に、日頃の審理を行って欲しいと思う次第である。

 

さて、特に評価したい部分をいくつか挙げておく。

本決定も是認する、原審の「Kから事実を引き出す前提のやり取りというより、威迫して、田渕検事の意に沿う供述を無理強いしようと試みていると評価できる。」という説示について、本件の評価として極めて妥当である。

刑事弁護人としてみても、似たように感じる場面を、否認事件における捜査機関のやり方として、決して少なくない頻度で遭遇する事態である。そういう取調べが令和の世の中に実際に行われていることを裁判所が認識したことは、遅きに失する面もある一方、それ自体は評価すべきではないかと思う。

本決定は、さらに踏み込んで、今回の取調べについて、「Kを起訴する方針を固めた上で、本件スキームに沿った供述を、強引に、あるいは屈服させて引き出そうとしていたと考えるのが自然である。」と断罪した。このように、捜査機関がまず結論ありきに「真実」を決めてかかり、それに沿うように供述調書を作ろうとするというのは、もう何十年も前から、弁護士や学者が延々と言い続けてきたことである。裁判所が、実際にそういう取調べがされている事実を認識し、今後の事実認定に活かすことを期待したい。

 

「このような検察官の言動は、捜査対象となり、身体拘束されて取調べを受けている被疑者を畏怖させる程度が相当に高く、被疑者に対し、自己の処分がどうなるかについて不安を抱かせ、公訴官でもある検察官に迎合する虚偽供述を誘発する危険性が大きい。その侮辱的な言葉は、それ単体だけを捉えても人格攻撃というほかないもので、身体拘束下でこのような言葉を強い口調で言われれば、弁解を述べようとする気力も奪われ、上記虚偽供述を誘発する危険性を一層高めるものである。田渕検事によるこのような一連の言動は、脅迫としても態様や程度は著しいものがあり、陵虐行為に該当するといえる。」

という説示についても、やっと分かってくれたか、やればできるじゃないかという風に思う。今まで同様の主張をしてきて、何度自白の任意性・信用性が肯定されてきたことだろうか。その中には再審無罪になったものもあるし、処刑台の露と消え、未だ汚名を着せられたまま眠っている事件もあるはずである。

決定文の検討(9日の取調べ)

イ 9日の取調べについて

(ア) 原決定は、おおむね次のとおり説示し、陵虐行為該当性を否定した。

田渕検事は8日の取調べのように、図に対して大声や怒鳴り声を交えることも、Kの言い分を聞こうとせずに一方的に話し続けることもなく、当時把握していた証拠を挙げるなどしながら、質問、答えのやり取りを交わし続けている中で、あなたはP社の評判を服めた大罪人ですよ、例えば会社とかから、今回の風評被害、営業損害、株価の低下等を理由に損害賠償請求された場合、10億、20億では済まないが、それを背負う覚悟で話をしているのかなどと発言しているところ、「大罪人」という言葉は大げさで侮辱的であるし、損害賠償額が「10億、20億」というのも事前に確たる調査を踏まえていない思い付きの表現であると解されるが、上記の発言は、詐欺と言ゎれても仕方ない旨を供述するKに対して、様々な点からその供述内容の不合理さを指摘して供述の再考を促そうとしたものであると認められ、侮辱的な発言も継続的になされたものではない。上記言動については、そのような表現を選択したことについての当否の問題があり、また、必要以上に強く責任を感じさせる動機を生じさせかねず、供述の信用性を担保するような取調べ方法といえるかについては疑問があるものの、客観的・外形的にみて、精神的又は身体的に苦痛を与える行為である陵虐行為に当たらないとした大阪地検の担当検察官の判断が不合理であるとはいえず、上記発言がKに対する人格攻撃や害悪の告知に等しいことなどから陵虐行為に当たるとする申立人の主張は採用できない。

(イ) このような原決定の判断は、8日と9日の取調べが一体のものであるとしながら、両日の取調べを分断して個々的に判断し、8日の取調べが9日の取調べにどういう影響を与えたかについての検討を欠いている点や、結論として陵虐行為該当性を否定した点において是認できない。

順次みていくと、まず、「大罪人」などという言葉が侮辱的であるというのは原決定のいうとおりであるが、9日の取調べだけをみると、全体として口調は穏やかであり、原決定のいうとおり、表現として穏当さを欠く面があることは否定できないものの、通常の取調べの中で許容される範囲内とみることもできなくはない。しかしながら、この発言は、その前日の8日の取調べにおける言動があった翌日のもので、8日の取調べによる心身への影響が強く残っている状態で発せられたことを重視すべきであり、9日にこれ以外に侮辱的な発言がないとか、その発言自体は、通常の取調べといえる穏当な雰囲気の中でなされたものであるからといって、これを8日の言動と切り離して評価すべきではない。

その上で、続く発言内容も含めてみると、Kが申立人に対する詐欺を行ったことになるとか、KはP社の評判を貶めた大罪人である、10億円、20億円では済まない損害賠償請求を受けることになる旨の発言は、それ自体、Kの恐怖心をあおる脅迫的な内容といえる(なお、本件付審判請求においては、上記のKが詐欺を行った云々という点も含めて、田渕検事がKを脅迫した、というのを「犯罪事実」として掲げているが、原決定は必ずしもこれに的確に応答していない。)。田渕検事がこの日の発言でKに伝えたかったことは、申立人が業務上横領に関与していなかったとすれば、Kが自分の利益のために、申立人に諮らず独断で犯行を行ったこととなり、刑事責任はもとより、P社が被った損害についての責任を一手に背負い、P社から巨額の賠償を請求されることとなるがそれでもいいのか(責任を負えるのか)、申立人が関与していたことを認めないと大変なことになるのではないかというものであったと推認される。本件スキームに沿った供述をするよう強制しているという点では8日の取調べから共通しており、8日の取調べにおける威圧的、侮辱的、脅迫的言動による影響が残った状態で行われたものであることも併せ考えると、9日の上記連の発言についても、陵虐行為該当性が認められる。

次に、原決定と本決定とで判断が分かれたのが、9日の取調べについての評価である。原決定は、9日の取調べ自体は穏やかな口調で行われたことや、「大罪人」といった表現は問題であるものの、あくまで表現の選択の問題に留まることなどから、「陵虐」にあたらないとした捜査担当検察官の判断を誤りであるとは言えないと判断した。

これに対して、本決定は、「その前日の8日の取調べにおける言動があった翌日のもので、8日の取調べによる心身への影響が強く残っている状態で発せられたことを重視すべきであり、9日にこれ以外に侮辱的な発言がないとか、その発言自体は、通常の取調べといえる穏当な雰囲気の中でなされたものであるからといって、これを8日の言動と切り離して評価すべきではない。」と指摘した。

従前から、例えば警察官において違法な取調べがなされた結果自白がされ、その後に検察官の前で同様の自白がなされた際に、後行の自白について証拠能力や信用性をどのように考えるべきか、という問題は議論されてきた。本件の事例は、連日に渡って同一の検察官が行った取調べが問題とされているのであるから、一連一体のものとして、前日の取調べの経過を考慮すべきというのは至極当然である。

また、いじめた後に優しくすることで相手を手懐けるというのは、パワハラや児童虐待などをする人の常套手段であるから、9日の取調べが穏やかな口調であったことは、むしろそういう意味ではマイナスに評価する余地もあるのではないかと思う。

KはP社の評判を貶めた大罪人である、10億円、20億円では済まない損害賠償請求を受けることになる旨の発言についても、原決定の評価は非常に表層的な印象を受ける。原審の言うように「様々な点からその供述内容の不合理さを指摘して供述の再考を促そうとした」というのであれば、大罪人などという大げさな表現を使う必要性はないのであり、また一般人からしたら天文学的な金額を挙げる必要もない。本決定の言うように、この部分は、「申立人が業務上横領に関与していなかったとすれば、Kが自分の利益のために、申立人に諮らず独断で犯行を行ったこととなり、刑事責任はもとより、P社が被った損害についての責任を一手に背負い、P社から巨額の賠償を請求されることとなるがそれでもいいのか(責任を負えるのか)、申立人が関与していたことを認めないと大変なことになるのではないかという」趣旨でなされたものであり、わかりやすく言えば、Kが否認を続けるのであれば、Kは会社を裏切った謀反人ということになり、個人では到底返しきれない損害賠償を払うことになるぞ、という「えげつない脅し」以外のなにものでもない。これを言われたKにしてみれば、巨額の賠償金を請求されるということはもちろん、会社を裏切った謀反人として、生涯後ろ指を指されることになるのではないかと気が気でなかったであろう。

また、このような検察官のロジックは、KとP社ひいては申立人とを明確に分断させる意図をもってなされたものとみることができ、兵法にいうところの「離間の計」を画策するものであると言える。

思えば、ヤクザの抗争事件などでも、同様の手法で、捜査官が子分をときに脅し、ときに餌で釣って、親分の関与を認めさせようとする手法がとられてきた。裁判所はそうした問題意識についてはこれまでほとんど耳を貸して来ずに、極めて不明瞭なロジックで共謀共同正犯を認めてきた。暴力団排除という政策を大義名分に、適正手続の原則や、疑わしきは罰せずの大原則がないがしろにされてきたのである。

そのような裁判所の姿勢が、結論ありきで捜査機関の考える「真実」に強引にほんとうの真実をこじつけようとする捜査手法にお墨付きを与えていたことは、銘記されるべきなのではないだろうか。

最後に、これは個人的な印象でもあるのだが、おそらく裁判官は、実際の取調べ動画をみて絶句したのではないだろうかと思う。これまで、なんだかんだ言いながら、取調べが少々キツくなるのは仕方ない。被疑者・被告人が何とか処罰を免れたいとの一心で、取調べの様子を「盛って」話しているに違いない。我らが親方日の丸の公務員である検察官が、司法試験に合格して憲法やら何やら人権についてちゃんと学んできたはずの検察官が、まさかそんな取調べをするはずがない。と、純粋無垢にも本気で信じていたのではないだろうか。

百聞は一見にしかずということで、実際の取調べをみて、現実に、この令和の世の中に、ここまで下品で悪辣な取調べがなされていた事実に直面し、従前の裁判所のけんもほろろな対応からは考えられない、検察からしてみれば手のひらを返したような判断になったのではないかと思われる。

やっと気付いたことには評価したいが、数十年の単位で遅すぎた

決定文の検討(情状面)

次に、情状面について説示した部分を検討してみる。

田渕検事は、8日の取調べの際には、本来であれば、被疑者から話を聞くべき場であるのに、被疑者であるKが話そうとするのを遮るなどして、約50分間にもわたり、机を叩き、怒声ともいえる大声を上げ、威圧的、侮辱的な言動を一方的に続けており、相手に与える精神的苦痛の程度には軽視できないものがある。しかも、翌9日にも、Kに前日の取調べによる心理的影響が残っているとみられる中、前日に引き続いて侮辱的な発言に及び、また、両日にわたってその職務権限を背景に、検察官に迎合する虚偽供述を誘発しかねない言動に出ている。このようなことからすれば、本件の犯情が軽いとは到底いえない。

原決定は、捜査官の取調べには様々な手法による裁量が認められるなどというが、本件のような言動は、取調官の職権行使の範ちゅうに収まらない不法なものであることは明らかである。

田渕検事は、9日以降の取調べにおいて、声を荒げたことを気にしている言動をKに対して示す態度こそみられたものの、少なくとも大変なことをしてしまったという態度は示しておらず、自己の言動の問題の大きさについて、深刻に受け止めていた様子はうかがわれない。本件取調べは、録音録画されており、田渕検事も、取調べ開始のたびに録音録画がされている点をKに繰り返し説明するなどしており、事後的に検証されることを十分理解している中で、このような言動が行われている。そして、田渕検事の取調べについての録音録画をしかるべき時期に確認したであろう、他の検察官も、本件取調べについて問題視し、検察庁内部で適切な対応が取られた形跡はうかがえない。この点、原決定が、「録音録画された中でこのような取調べが行われたこと自体が驚くべき由々しき事態である。」と述べているのは、当裁判所も同じ問題意識を持っているが、更に言えば、田渕検事個人はもとより、検察庁内部でも深刻な問題として受け止められていないことがうかがわれ、そのこと自体が、この問題の根深さを物語っている。

もとより、田渕検事に本件陵虐行為についての違法性の意識がない、あるいはこれが乏しいということがあったとしても、検察官の職責の重さを考えると、少なくとも犯情を軽くするものでないことは明らかである。

以下略

エ 一般予防及び特別予防の観点について

すでに指摘したとおり、本件取調べは、被疑者をして検察官に迎合させ、虚偽供述が誘発されかねない危険性の高いものであり、このような取調べは今後繰り返されないようにすべきであるという一般予防の要請も高いものがある。

この点、原決定は、この程度の取調べでは問題がないと判断してしまうと冤罪が生まれる旨の申立人の主張に対し、あくまで不起訴処分が相当との判断をしたというにとどまり、本件取調べを許容したわけではないと強調するが、不起訴処分相当という結論を容認するのであれば、結果的には本件取調べを許容することと大差がない。本件取調べに関し、検察庁内部で田渕検事に対し、何らかの指導や処分があったことは記録上うかがわれず、特捜部内

部ひいては検察庁内部において、本件取調べがどの程度問題視されたかについても明らかではない。録音録画により、取調べの際の言動が正確かつ子細に確認できるようになってしる現状において、本件につき付審判請求を認めないことの意味は、原決定が考えるよりも大きいものがある。

なお、原決定は、田潮検事の身上関係(検察官として職務に精励してきたものであること,等をいう趣旨と思われる。) やこれまでに前科等がないことも考慮事情として掲げているが、田渕検事のような立場の公務員が、職務に関連して犯した犯罪において重視されるべき事情ではない。

本決定は、取調べの態様等を総合的にみて、悪質である旨判断しており、原審の言うような裁量の範囲に収まるようなものではないと断罪している。

また、録音録画がなされている中で、平たく言うとカメラが回っている状況下で、躊躇うこともなく本件のような取調べをしたこと自体が、本来的意味での「確信犯」的なもので、検察官の遵法意識のなさを如実に物語っているといえる(確信犯たる度合いは、フランス革命で反対派を端から処刑していった、ジャコバン派のマクシミリアン・ロベスピエールに匹敵するものがあろう)。

のみならず、そうした取調べの様子を、決裁官(≒上席)の検察官など含めてチェックしていたはずであるのに、何らの問題意識も示されずに起訴までされたということからは、単なる個別の検察官による行き過ぎた捜査として片付けられるものではなく、検察庁全体が組織として腐敗していることを推認させるに十分であろう。

私の修習時代の経験から言うと、そこまで重大でない事件でも、次席検事や検事正の決裁に持っていってチェックを受けていた。本件についても、相当程度上の立場の検察官が、起訴前に証拠を詳細にチェックしていたのではないかと思われるところである。我が国の検察官には非常に強大で広範な権限が与えられており、特に東京や大阪地検の特捜部は、検察庁でも花形・エリートとして名高い。その分、「絶対的権力は絶対に腐敗する」との公式もよく当てはまると言えよう。

そういえば、私の修習時代に、検事正から言われたことには、大阪地検特捜部による証拠偽造事件の直前の段階で、特捜部は、真実の追求などそっちのけで、「大物の首級をどれだけ挙げたか」を検察官が互いに競い合うような環境になっていたそうである。

これは、まさにマクシミリアン・ロベスピエールと同じ心根である。ロベスピエールをはじめとするジャコバン派は、フランス革命において、既存の封建勢力(アンシャン・レジーム)の打破を掲げて国民の人気とりを行い、王族など社会的地位の高い者(今風に言えば「上級国民」である)に、適当な罪をなすりつけて、次々と、文字通り首を落としていった。それにより民衆の支持を集めていったのである。特捜部が「大物の首級を挙げる」ことに腐心するインセンティブも、似たようなものではないのだろうか。それを正義と信じているという点においても同じである。そもそもロベスピエールは、元々は弁護士であった。

しかし、ジャコバン派は、マリーアントワネットに実施と近親相姦したなどという荒唐無稽な罪状を突きつけて処刑したあげく、10歳に満たないルイ17世を虐待し、死に追いやった。ロベスピエール自身も、権力闘争に敗れて処刑された。特捜部も、そろそろ意識改革をしないと、ジャコバン派と同じような末路をたどるのではないだろうか。

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