【日本人よ、これが検察だ!】プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付審判決定(完結編)【補論 未だ生ぬるい】 |福岡の刑事事件相談、水野FUKUOKA法律事務所

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【日本人よ、これが検察だ!】プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付審判決定(完結編)【補論 未だ生ぬるい】

はじめに

最後に、本決定は、「補論」として、本件の背景事情に言及している。その説示には、賛同できる部分も多数あるものの、私の感想としては、まだまだ表面的というか踏み込みが足りないように思う部分が散見された。最後にこの部分を紹介して終わりにしたい。

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(1) これまでに付審判請求が認容された事例をみると、本件とは類型を異にするものがほとんどである。その背景には、捜査官による取調べは真実迫及の場面であり、厳しく被疑者に迫るのは当然のことであるとの考えが、捜査の一翼を担い被疑者取調べを担当する検察官に根強く残っており、そのことが、公訴官としてこの種事犯を立件・起訴する場面での意識の低さにつながっていたように思われる。より大きな要因としては、取調べ状況の録音録画が導入される前は、取調べにおける捜査官の言動が、往々にして言った言わないの「水掛け論」になり、非言語的なニュアンスも含め、取調べでのやり取りを正確に把握することがかなり困難であったということも、犯罪の成否に関し、公判立証に耐え得る程度の嫌疑の存在を認める上でのネックになっていたと考えられる(その意味では、録音録画制度の導入の持つ意味は大きい。.) 。

(2)かつて大阪地検特捜部における一連の事態を受け「検察の在り方検討会議」が立ち上げられ、平成23年3月に、「検察の再生に向けて」、という提言が取りまとめられたが、その中では、検察官の職権行使に関し、次のような指摘がされている。

検察官は、捜査活動を通じて真相を解明する捜査官としての権限と、起訴・不起訴を決し公判活動を行う公訴官としての権限とを併せて有しているところ、いずれの権限をもおろそかにすることなく、公正かつ適切に行使しなければならない職責を負っている。このような職責を全うするためには、検察官が自ら捜査活動に従事する過程で、捜査官として処罰の実現を追求するあまり、公訴官として期待ざれている冷静な証拠評価や法律問題の十分な検討等の役割を軽視してはならない。(第1 の1))

検察官は、警察等からの送致・送付事件においては、警察等の行う捜査をチェックしつつ自ら捜査・公訴提起を行うのに対し、特捜部の独自捜査においては、捜査の初めから公訴提起までを特捜部に所属する検察官のみが担うため、いわば「一人二役」を兼ねることとなる。そのため、特捜部の独自捜査では、検察官の意識が捜査官としての側面に傾きがちになって捜査に対する批判的チェックという公訴官に期待される役割が軽視されるという危うさが内在していると考えられる(第3の2(1))。

取調べは、それが適正に行われる限りは、真実の発見に寄与するものであり、被疑者が真に自己の犯行を悔いて自白する場合には、その改善更生に役立つとの指摘もある。しかし、その一方で、取調べには、取調官が自白を求めるのに熱心なあまり過度に追及的になったり不当な誘導が行われたりして、事実とは異なる供述調書が作成される結果となる危険性も内在する。特に、社会状況や人々の意識の変化により、取調べによって供述を獲得することが困難化しつつある中において、検察官が証拠獲得へのプレツシャーを感じ、無理な取調べをする危険がより高くなっており、今般の事態は正にその危うさが露呈したものにほかならない。(中略)一般の国民が裁判員として刑事裁判に参加するようになりたことなどを含め、検察、ひいては刑事司法を取り巻く環境は大きく変化した。人権意識や手続の透明性の要請が高まり、グローバル化、高度情報化や情報公開等が進む21世紀において、「密室」における追及的な取調べと供述調書に過度に依存した捜・査・公判を続けることはもはや、時代の流れとかい離したものと言わざるを得ず、今後、この枠組みの中で刑事司法における事実を解明することは一掃困難なものとなり、刑事司法が国民の期待に応えられない事態をも招来しかねない。(第4 の3(1))

このような提言等も踏まえ、法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会が設けられて調査審議が行われ、その結果に基づき、その後の刑事司法制度改革が進め・られた。その中で、取調べの録音録画の導入が決定され、検察官独自捜査事件については、取調べの全過程が録音録画の対象となったものである(刑訴法301条の2第1項3号、4項)。立案担当者の解説によると、その趣旨は、「被疑者の取調べ等が専ら検察官によって行われるため、被疑者の供述が異なる捜査機関による別個の立場からの多角的な質問等を通じて吟味される機会に欠けることとなり、取調べ等の状況をめぐる争いが生じた場合、裁判所は、その判断に当たり、異なる捜査機関に対する供述状況を踏まえることができず、司法警察員が送致し又は送付した事件と比較して判断資料が制約されることとなる」とされている・(法曹時報70巻2号76 頁参照)。

今回の事案が上記のような経緯を経て導入された録音録画下で起きたものであることを考えると、本件は個人の資質や能力にのみ起因するものと捉えるべきではない。あらためて今、検察における捜査・取調べの運用の在り方について、組織として真剣に検討されるべきである。

忖度王国日本における検察官

まず、本件は、特捜部の検察官の行為を問題とするものであるから、

「特捜部の独自捜査においては、捜査の初めから公訴提起までを特捜部に所属する検察官のみが担うため、いわば「一人二役」を兼ねることとなる。そのため、特捜部の独自捜査では、検察官の意識が捜査官としての側面に傾きがちになって捜査に対する批判的チェックという公訴官に期待される役割が軽視されるという危うさが内在していると考えられる」

として、特捜部が独自捜査を行う事件に内在する問題点を指摘すること自体は、おかしなことではない。

しかしながら、それ以外の事件においても、同程度か、場合によってはそれ以上の問題点が内在していることについては、裁判所はどの程度意識しているのだろうか。「検察官は、警察等からの送致・送付事件においては、警察等の行う捜査をチェックしつつ自ら捜査・公訴提起を行う」というが、それはあくまで警察官の捜査の足りないところをある程度客観的に指摘できるという程度に過ぎず、有罪獲得のために無理をするインセンティブは、警察から持ってこられた事件だろうと、特捜部の独自捜査だろうと何ら違いはない

むしろ、暴力団事件とか、ストーカー事件とか、特殊詐欺事件などのように、警察がメンツをかけて、ことのほか力を入れている事件については、検察官は警察の顔色を過剰にうかがっているんじゃないかと思う場面が散見される。警察がせっかく力を入れて捜査した事件を、不起訴処分にするなどとして「潰して」しまったら、警察のメンツを潰すことになり、今後の関係性が悪くなるなどと忖度して無理な起訴をしていると感じる場面は、刑事弁護人であれば一度は経験したことがあるのではないかと思う。だから警察の捜査をチェックするから大丈夫なんてことは決してない。しかも、重要な事件では、あらかじめ警察官から事前相談という形で検察官に事案の概要が持ち込まれ、そこで必要な証拠や捜査手法に関して検察官が助言を行うといったことも実際上広く行われている。

また、検察庁内部における忖度も激しいように思う。一般的な傾向として、都市部では、捜査部と公判部が分かれており、同じ事件の捜査と公判は別の検察官が行うことが多い一方で、地方に行けば行くほど、同じ人が捜査から公判まで担当することが多い。

このうち、後者については、当然、自分が起訴した事件で有罪にできなかったら面目丸つぶれだから、無理な捜査を行って負けないような証拠を作ってしまおうというインセンティブがあり得る。しかし、私は、むしろ前者の方が、問題が根深いように思う。

日本の公務員はとにかく忖度できる人が出世する。先の警察の例もしかり、検察庁内部もそうなのではないかと思う。だから、「公判担当検事に迷惑をかけないように」、無理な捜査を行うインセンティブは、自分で起訴して自分で公判を担当する事件に勝るとも劣らないと思う。特に、当地もそうであるが、大都市圏の公判部検察官は疲弊している。人員不足、事件の複雑化、弁護人・被告人の「徹底抗戦」の激化など、要因は様々だろう。そうであればあるほど、公判部の検察官に迷惑をかけないようにするインセンティブは上昇するはずである。

民間企業では、コーポレートガバナンスが重要視されるようになって久しい。しかし、最もガバナンスが重視されるべきであるのに、ガバナンスがガバガバなのが、警察と検察である。それはまさしく、医者の不養生、紺屋の白袴である。

原則黙秘時代を迎えて

「社会状況や人々の意識の変化により、取調べによって供述を獲得することが困難化しつつある中において、検察官が証拠獲得へのプレッシャーを感じ、無理な取調べをする危険がより高くなっており、今般の事態は正にその危うさが露呈したものにほかならない」という指摘も考えさせられる。

私が司法修習の頃、神山啓史弁護士が司法研修所の上席教官に就任していた。神山先生は、「黙秘が原則」と常日頃から主張され、少なくとも否認事件においては、黙秘することがスタンダードであるとの認識は、私以降の弁護士であれば共通理解になってきていると言ってよいだろう。私自身も、否認事件では、第一に黙秘を選択することが基本であり、供述した方が有利になるというのは例外的な場面であろうと考えている。

他方、時を同じくして、厚労省職員の冤罪事件(上記の大阪の事件である)があり、私が修習をしていた際の指導担当の検察官は、「少し前までは、口を割らせることが検察官の腕の見せどころだと誰もが思っていたのが、あの事件を契機に変わった。割らせろといわない人が増えてきた」と言っていた。他にも、検察庁全体で、少なくとも修習生に対しては、「自白がなくとも、客観証拠で有罪を立証するのが本来の検察の在り方であり、今はそうなってきている」と口を揃えて言っていた。振り返ってみると、あれはウソだったのだろうか。そう言われてみると、日本の役所がよくやる二枚舌を見せられていたような気もする。

おわりに~苛政は虎よりも猛し~検察組織全体の腐敗という大問題

弁護士にも、依頼者の財産に手を付けて刑事事件になるような事例はあるので、どの業界にも一定程度、道を踏み外す人がいること自体はその通りである。しかしながら、本件は、単に個別の検察官が道を誤ったというよりも、検察という組織全体の腐敗を示唆しているという点において、より重大である。裁判所は「本件は個人の資質や能力にのみ起因するものと捉えるべきではない。」と明言しているのである。

しかも、弁護士と依頼者との関係は民間人同士のものであるのに対して、検察官は国家権力を担っている。「苛政は虎よりも猛し」(孔子)というように、国家権力の暴走が人々にもたらす災厄は、横領犯はもとより、連続殺人犯のそれとも全く比較にならない。

しかし、思えば、私の同期を見ても、検察官に任用されたのは、熱心で能力の高い人が多かったように思う。いわゆる大手渉外事務所の内定を断って任官した人もいる。事件を通じて知り合った検察官も、概ね、基本的には、熱心で優秀な人が多かったように思う。

ただ最近は、能力や資質に疑問を感じるような検察官に出くわす機会が増えている。先日も、私が弁護人を務めている事件で、とある検察官が、自ら秘匿決定を申し立てておきながら、被害者の勤務先(秘匿事項)を、反対尋問でうっかりしゃべってしまうという事故が発生した。

とりわけ、新人の検察官に対する指導の在り方に問題があるのではないかと思わされる場面に遭遇したことが一度や二度ではない。新人検察官が、刑事訴訟法や刑事訴訟規則を十分に理解しておらず、法廷技術としても極めて拙劣な訴訟活動をしているのに、適切な指導がなされていないため、いつまで経ってもスキルが上がらないのではないか、そもそも、新人検察官を指導する体制や意欲が、中堅以上の検察官に欠如しているのではないかと思わされることがしばしばある。

先日も、被告人質問において検察官の個人的見解をとうとうと語るなど、聞くに堪えないような質問がなされていたのを経験したばかりである(あまりにアホらしかったのと、被告人本人がうまいことかわしていたので、あえて異議を出しもしなかった)。

満足に下を育てられなければ、組織はいずれ衰退する。これは検察庁という組織が金属疲労のごとくに劣化していることを示しているのではないだろうか。

とにもかくにも、検察官の中から、本件のように、悪辣で下品と言うしかない取調べを行う者が出てきた、しかも特捜部という出世街道を駆け上がってきたエリート検察官だったという事実は、重大なこととして受け止めなければならないだろう。そのメカニズムはどこにあるのか。組織全体の腐敗の根本はどこにあるのか。腐敗はどの範囲まで広がっているのか。自浄作用により解決できるのか。

法務省・検察庁は、本気で見直しをしなければならないときに来ていると思うのである。

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