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最判令和7年2月17日裁時1858号18頁 特別交付税の額の決定の取消訴訟が法律上の争訟にあたるとされた事例

事案の概要

本件は、地方交付税法15条2項の規定による特別交付税の額の決定に対する取消訴訟は、「法律上の争訟」に該当するとしてこれを適法であるとした事例である。

本件訴訟の背景として、国は、いわゆる「ふるさと納税」の返礼品が多額になるなど競争が過熱している現状に鑑みて、ふるさと納税の納付額が多い自治体の特別交付税を減額するという措置を執った。これに対してX(泉佐野市)が、取消を求めて出訴したものである。

第一審(大阪地判令和4年3月10日判時2532号12頁)は、「地方交付税は,地方団体が自らの事務を処理するために交付されるものであって,国の地方団体に対する支出金の性質を持ち,また,その額の算定方法等が地方交付税法によって規定されているものであること等に照らせば,地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることができるか否かに関する紛争は,地方団体と国との間の具体的な権利ないし法律関係の存否に関するものであるということができる」として法律上の争訟に該当するとの中間判決(大阪地判令和3年4月22日判時2495号14頁)を経た上で、処分性や原告適格、訴えの利益についても肯定し、本件処分は地方交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱した違法なものであるとして、本件処分を取消した。

これに対して、原審(大阪高判令和5年5月10日判時2576号57頁)は、「地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることができるか否かに関する紛争は、国と地方団体が、それぞれ行政主体としての立場に立ち、地方団体全体が適正に行政事務を遂行し得るように、法規(地方交付税法)の適用の適正をめぐって一般公益(地方団体全体の利益)の保護を目的として係争するものというべきである。

そうすると、本件訴えは、行政主体としての被控訴人泉佐野市が、法規の適用の適正をめぐる一般公益の保護を目的として提起したものであって、自己の財産上の権利利益の保護救済を目的として提起したものと見ることはできないから、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらない」として、第一審判決を取消して訴えを却下した。

これを不服としてX上告。

 

判旨

破棄差戻し。

(1)裁判所法3条1項にいう法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものをいう(最高裁昭和51年(オ)第749号同56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁参照)。

(2)地方団体は、国とは別個の法人格を有し、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものであるところ(地方交付税法2条2号、地方自治法1条の2、1条の3第1項、第2項、2条1項、2項)、地方交付税は、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的として、地方団体がひとしくその行うべき事務を遂行することができるよう、国が、地方団体に対し、条件を付け又はその使途を制限することなく、交付するものである(地方交付税法1条、2条1号、3条2項)。そして、特別交付税は、このような地方交付税の一種であり、交付されるべき具体的な額は、総務大臣がする決定によって定められるものである(同法4条2号、6条の2第1項、15条1項、2項、16条1項)。そうすると、特別交付税の交付の原因となる国と地方団体との間の法律関係は、上記決定によって発生する金銭の給付に係る具体的な債権債務関係であるということができる。したがって、地方団体が特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えは、国と当該地方団体との間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に当たるというべきである。

また、特別交付税の額の決定は、地方交付税法及び特別交付税に関する省令に従ってされるべきものであるから、上記訴えは、法令の適用により終局的に解決することができるものといえる。

 

解説

「法律上の争訟」に関しては、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものであるというのが確立した判例(リーディングケースとして、板まんだら事件の最判昭和56年4月7日民集35巻3号443頁)である。

第一審、原審とも、法律上の争訟の定義については見解を同じくしたものの、本件への事案の当てはめにおいて見解が分かれたところであった。

原審は、地方交付税について、法律の規定に従って国から地方団体に配分される金員であるから、行政主体同士の権限行使を巡る紛争であると捉えて、法律上の争訟に該当しないと解釈したものと思われる。原判決その用語こそ用いていないものの、講学上の「機関訴訟」(行政事件訴訟法6条,42条)に引き寄せて考えたものと理解されうる。

これに対して、最高裁は、特別交付税の交付の原因となる国と地方団体との間の法律関係は、地方交付税法に基づく総務大臣(国)の決定によって発生する金銭の給付に係る具体的な債権債務関係であり、かつ地方交付税法及び特別交付税に関する省令の適用によって解決できるものであるとして、法律上の争訟に該当すると判断し、本案についての審理を行うために原審に差し戻した。

地方交付税は、法律に基づいて金額が算定されて国から地方団体に配分される金員であることはその通りである。しかし、地方交付税には用途の制限がなく(地方交付税法4条2項)、もらったお金をどのように活用するのかは地方団体の自由である。そのように考えると、地方交付税については、民間企業や個人が科研費などの補助金を受け取るような場合と同視して考えられ、その交付を巡る紛争は裁判所における解決になじむと言える。

より実質的には、原審は「本件のように地方交付税の配分をめぐる紛争は、地方交付税相当額全部が当該年度において配分され、各地方団体の財政に組み入れられ、支出されることを考慮すれば、当該年度の後年度において、その配分を取り消し、やり直すことは非常に困難であるとともに、この点をおくとしても、当該年度の財政需要・財政収入の状況に応じた解決とならない嫌いがある。本件の本案の論点自体は、裁判所の審理にふさわしいものということができるが、紛争の解決をそのまま民事訴訟を基本とする行政訴訟による解決に委ねることは必ずしも相当とはいえず、裁判所における解決に委ねるのであれば、法律によって(適切な仕組みとともに)特に権限が定められることが相当である。このことに照らしても、前記判示のとおり解するのが相当である。」と判示しており、地方交付税を巡る処分について、裁判所がこれを覆したときの事後処理の困難性を挙げている点が注目される。確かに、原審の言うように、地方交付税の交付に関する処分が取り消されると配分のやり直し等により一定の混乱が生じうることはその通りであろう。しかしながら、だからといって、地方交付税の交付に関する紛争解決を裁判所が拒否するということは正当化されないし、そうした混乱に対しては、事情判決(行政事件訴訟法31条)をした上で、損害賠償による解決に委ねると言った方法も考えられるところであるから、原審の判示は国家運営に対して過剰に忖度しているものといえ、適切なものとは言いがたい。

本件では、泉佐野市を狙い撃ちにするかの如き総務大臣の恣意的なふるさと納税に関するルール作成がそもそもの発端であると主張されており、恣意的なふるさと納税に関する行政権行使について裁判所が一定の歯止めをかける余地を認めた最高裁の判断自体は妥当なものである。本案についての審理が続けられており、その結論が待たれるところである。

なお、本件の上告代理人のひとりは、行政法の大家として有名な、学者出身の阿部泰隆弁護士である。

 

参照条文

地方交付税法

(この法律の目的)

第一条 この法律は、地方団体が自主的にその財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能をそこなわずに、その財源の均衡化を図り、及び地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障することによつて、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的とする。

(用語の意義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 地方交付税 第六条の規定により算定した所得税、法人税、酒税及び消費税のそれぞれの一定割合の額並びに地方法人税の額で地方団体がひとしくその行うべき事務を遂行することができるように国が交付する税をいう。

二 地方団体 都道府県及び市町村をいう。

第三条

2 国は、交付税の交付に当つては、地方自治の本旨を尊重し、条件をつけ、又はその使途を制限してはならない。

(総務大臣の権限と責任)

第四条 総務大臣は、この法律を実施するため、次に掲げる権限と責任とを有する。

二 各地方団体に交付すべき交付税の額を決定し、及びこれを交付すること。

(交付税の種類等)

第六条の二 交付税の種類は、普通交付税及び特別交付税とする。

(特別交付税の額の算定)

第十五条 特別交付税は、第十一条に規定する基準財政需要額の算定方法によつては捕捉されなかつた特別の財政需要があること、第十四条の規定により算定された基準財政収入額のうちに著しく過大に算定された財政収入があること、交付税の額の算定期日後に生じた災害(その復旧に要する費用が国の負担によるものを除く。)等のため特別の財政需要があり、又は財政収入の減少があることその他特別の事情があることにより、基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる基準財政需要額の算定過大又は基準財政収入額の算定過少を考慮しても、なお、普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体に対して、総務省令で定めるところにより、当該事情を考慮して交付する。

2 総務大臣は、総務省令で定めるところにより、前項の規定により各地方団体に交付すべき特別交付税の額を、毎年度、二回に分けて決定するものとし、その決定は、第一回目は十二月中に、第二回目は三月中に行わなければならない。この場合において、第一回目の特別交付税の額の決定は、その総額が当該年度の特別交付税の総額のおおむね三分の一に相当する額以内の額となるように行うものとする。

(交付時期)

第十六条 交付税は、毎年度、左の表の上欄に掲げる時期に、それぞれの下欄に定める額を交付する。ただし、四月及び六月において交付すべき交付税については、当該年度において交付すべき普通交付税の額が前年度の普通交付税の額に比して著しく減少することとなると認められる地方団体又は前年度においては普通交付税の交付を受けたが、当該年度においては普通交付税の交付を受けないこととなると認められる地方団体に対しては、当該交付すべき額の全部又は一部を交付しないことができる。

交付時期

交付時期ごとに交付すべき額

四月及び六月

前年度の当該地方団体に対する普通交付税の額に当該年度の交付税の総額の前年度の交付税の総額に対する割合を乗じて得た額のそれぞれ四分の一に相当する額

九月

当該年度において交付すべき当該地方団体に対する普通交付税の額から四月及び六月に交付した普通交付税の額を控除した残額の二分の一に相当する額

十一月

当該年度において交付すべき当該地方団体に対する普通交付税の額から既に交付した普通交付税の額を控除した額

十二月

前条第二項の規定により十二月中に総務大臣が決定する額

三月

前条第二項の規定により三月中に総務大臣が決定する額

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