最決令和7年1月27日令和6年(あ)753号 監護者性交等罪と「身分」

判旨
18歳未満の者を現に監護する者(以下「監護者」という。)の身分のない者が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて当該18歳未満の者に対し性交等をした場合、監護者の身分のない者には刑法65条1項の適用により監護者性交等罪(令和5年法律第66号による改正前の刑法179条2項)の共同正犯が成立すると解するのが相当である。被告人は、当時16歳であった本件児童の監護者ではないが、監護者である同児童の実母と意思を通じ、被告人との性交に応じるよう同実母から説得等された同児童と性交をしたというのであるから、被告人に監護者性交等罪の共同正犯が成立することは明らかである。
解説
監護者性交等、監護者わいせつ罪は、「その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じ」ることを要件として、同意の有無を不要としている。
本罪の趣旨は、一般的には、「一般に18歳未満の者は監護者に対し精神的・経済的な依存関係にあるところ、監護者がその影響力に乗じて、わいせつな行為ないし性交等に及ぶ場合、監護されている者(被監護者)がそれに抵抗することなく応じたとしても、それは監護者の影響力が作用したもので、自由な意思決定とはいえ」ないという点に着眼したものであるなどと説明されている(ハイブリッド刑法各論〔第3版〕82頁)。また、ここでの「監護者」というのは身分(刑法65条1項)であると理解されている(同83頁)。
本件は、被告人自身が監護者には該当しなかったものの、監護者である被告人の実母と共謀の上で性交等に及んだと認定されており、このような場合に刑法65条1項を適用して被告人にも監護者性交等罪が成立するという結論には、特に異論のないところであろう。
児童相談所などの実務においては、児童に対する性的虐待事件において、児童の監護を行っている者(実母であることが多い)が、多くは交際相手である虐待加害者に迎合して、虐待加害者の気を引きたいとか、経済的な援助を期待する見返りなどの思惑から、児童を「差し出す」ような行為は、そこまで珍しいものではない。本件で、実母が起訴されたのかどうかは判然としないものの、上記のような目的で、児童の説得等(本当に「説得」の枠内に収まるのかどうか疑問であるが)を行っていたとすれば、相応の当罰性がある事案であると思われる。
なお本件の弁護人は、児童ポルノ処罰法などで有名な奥村徹弁護士である。ウエストローには、上告理由までは掲載されていなかったものの、どのような理由で上告したのか、たいへん気になるところである。
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