最決令和8年1月28日令和7(マ)244 訴状が最高裁判所に提出された場合に、当該訴えが訴訟上の信義則に反するとして却下された事例
判旨
1 記録及び当裁判所に顕著な事実によれば、本件の経緯等は、次のとおりである。
⑴ 原告は、令和7年5月、A弁護士(以下「本件弁護士」という。)を訴訟代理人として、本件弁護士が作成した「遍く女性が光り輝く令和光の離婚等請求事件訴状(19:47)(令和管轄:仙台家庭裁判所)」と題し、その提出先を「遍く女性が光り輝く令和光の最高裁判所」とする書面(以下「本件訴状」という。)を当裁判所に提出した。
⑵ 本件訴状には、原告について、「光り輝く令和原告」の肩書が付され、その住所として北九州市内にある本件弁護士の法律事務所の所在地が記載されており、被告について、福島県いわき市内に住所を有する旨の記載がある。また、本件訴状には、請求の趣旨として、原告と被告の離婚を請求する旨などと記載されており、「令和管轄の利益」と題する項目において、「令和管轄の利益を享受致したい次第である」、「仙台家裁での本件完遂が可能である。」との記載がある。なお、本件訴状には印紙が貼付されておらず、貼用印紙額の欄には「訴訟救助申立中」と記載されているが、実際には、訴訟救助の申立てはされていないし、郵券も予納されていない。
2 本件訴状の記載によれば、本件訴状は、北九州市内に住所を有する原告が、福島県いわき市内に住所を有する被告に対し、離婚等を求める訴えを提起する趣旨で当裁判所に提出されたものであると解される。
3⑴ しかしながら、離婚等を求めて提起された訴えが最高裁判所の管轄に属する旨の法令上の定めはないから、本件訴えが当裁判所の管轄に属しないことは明らかである。
⑵ そして、本件訴状には本件訴えに係る訴訟(以下「本件訴訟」という。)を仙台家庭裁判所に移送することを求める旨の記載があるが、本件訴訟が仙台家庭裁判所の管轄に属することをうかがわせる事情はないから、仮に本件訴えが同裁判所に提起されたとするならば、本件訴訟は同裁判所から管轄裁判所に移送されることが見込まれるものである。そうであるにもかかわらず、本件訴状は、前記1のとおり、原告の訴訟代理人である本件弁護士によって作成され当裁判所に提出されたものであるから、本件訴えは、最高裁判所の管轄に属しないことを十分認識しながら、あえて最高裁判所を経由し、本来、管轄のない裁判所への訴訟係属を求めて当裁判所に提起されたものというべきである。こうした訴えを最高裁判所に提起することは、人事訴訟法及び民訴法の予定する正当な権利の行使とはいい難く、是認し得るものではない。そうすると、本件訴えは、現行法規に則って訴えを提起し訴訟手続を追行するという意思を欠いた不当な目的によるものというべきであり、本件訴訟を移送することによって原告の救済を図る必要があるということはできない。 また、当裁判所が本件訴訟を管轄裁判所に移送しなければならないと解すると、当裁判所は、本件訴訟の管轄裁判所を調査することを余儀なくされ、その調査について負担を負うこととなる。この負担は、上記の不当な目的に基づくものであり、原告が当裁判所にこれを課すことに法的正当性を見いだすことはできない。その上、本件訴えの審理が開始されるためには本件訴訟が当裁判所から管轄裁判所に移送されなければならず、その経緯が迂遠であることは明らかである。このような訴訟についてまで当裁判所が管轄裁判所に移送しなければならないと解することは、最高裁判所を最終審裁判所とする訴訟制度の運営を維持する観点から許容し難い。 以上に加えて、本件弁護士が本件訴えの提起以前にも殊更にこれと同様の行為を繰り返してきたことは当裁判所に顕著であることを併せ考えると、本件訴えの提起は、訴訟制度の趣旨、目的に照らして著しく相当性を欠き、訴訟上の権利の行使として到底是認することができないというべきである。
⑶ 上記の事情を総合すれば、本件訴えは、訴訟上の信義則に反するとして却下すべきものである。このように解したとしても、原告が本件訴えにおいて主張する実体的権利の有無について、法の予定する訴訟手続に則って裁判を受ける機会が失われるものではないから、原告の権利を過度に制約するものではない。
4 したがって、本件訴えは不適法なものとして却下を免れない。そして、以上に説示したところによれば、当裁判所が本件訴えを却下するに当たっては民訴法317条1項の趣旨が妥当するから、本件訴えについては、同項を類推適用して、決定で、これを却下することができると解するのが相当である。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
解説
本件は、離婚訴訟の訴状が最高裁判所に提出された場合において、最高裁判所がこれを管轄裁判所に移送することなく不適法却下した事例である。
離婚訴訟の管轄は、当事者の住所地を管轄する家庭裁判所に属する(人訴法4条1項)。本件の事例では、原告は福岡県北九州市、被告は福島県いわき市であることが読み取れ、管轄は福岡家裁小倉支部または福島家裁いわき支部にあるものと思われる。
このため、通常であれば、管轄裁判所に移送することになると思われるところ、最高裁は、そのような処理をせずに訴えを不適法却下するという選択をした。これは異例なことである。最高裁がこのような決定をしたのには、以下のような極めて特殊な事情があるようである。
まず、本件では、訴状の記載を合理的に解釈すると、原告代理人であるA弁護士が、何らかの理由によって本件を福岡家裁小倉支部や福島家裁いわき支部ではなく、仙台家裁で審理してもらいたいために、あえて一旦最高裁に訴状を提出し、最高裁から仙台家裁に移送させることを企図して訴状を提出したことが読み取れるものと認定されている。A弁護士は、弁護士である以上、裁判管轄については相応の知識を有しているものと思われ、にもかかわらず、何らかの理由で最高裁判所を経由して、自らの希望する裁判所に移送させようとするというのは、弁護士倫理上も問題になりうるし、民事訴訟法上も、正当な手続上の権利行使ではないとの評価を免れないであろう。最高裁は、「本件訴えの提起以前にも殊更にこれと同様の行為を繰り返してきたことは当裁判所に顕著である」としており、どうも本件以前にも同様の行為が反復継続されていたようである。その際の最高裁がどのような対応をしていたのかは定かでないが、「当裁判所が本件訴訟を管轄裁判所に移送しなければならないと解すると、当裁判所は、本件訴訟の管轄裁判所を調査することを余儀なくされ、その調査について負担を負うこととなる。」「このような訴訟についてまで当裁判所が管轄裁判所に移送しなければならないと解することは、最高裁判所を最終審裁判所とする訴訟制度の運営を維持する観点から許容し難い。」と判示されていることを踏まえると、最初のうちは管轄調査を行って移送していたものの、あまりにしつこいのでついに堪忍袋の緒が切れたのではないかと予想される。従って、裁判制度をよく理解していない一般人が間違って訴状を提出したような場合にまで、本件の射程が及ぶとは考えにくい。
本件と同日には、同じ弁護士によるものと思われる、許可抗告に関する最高裁決定も出されており、極限的な事案において具体的に妥当な結論を導くための手続法解釈という点において、実務上はともかく理論上は参考になる。
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