最決令和8年1月28日令和7(許)18 再審却下決定に対する抗告許可申立事件
判旨
1 本件は、申立人が、再審却下決定に対する抗告許可の申立てをする旨の書面(以下「本件申立書」という。)を当裁判所に提出することにより、抗告許可の申立てをした事案である。
2 民訴法337条に規定する許可抗告制度は、最高裁判所に対する負担が過重にならないようにしながら、法令解釈の統一を図ることを目的として、高等裁判所の決定及び命令のうち一定のものに対し、当該裁判に最高裁判所の判例と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合に当たるとして、高等裁判所が決定により抗告を許可したときに限り、最高裁判所に特に抗告をすることができることとしたものである。そして、民訴法は、抗告許可の申立ては抗告許可申立書を原裁判所に提出してしなければならない旨を規定しており(337条6項、313条、286条1項)、上記の場合に当たるか否かは原裁判所が上記許可の決定において判断すべき事項である。そうすると、抗告許可申立書を最高裁判所に提出することは、許可抗告制度の予定しないものというべきである。 そうであるにもかかわらず、抗告許可の申立てをする者(以下、単に「申立てをする者」という。)が、単に最高裁判所に抗告許可申立書を提出したというにとどまらず、抗告許可申立書を提出すべき裁判所が原裁判所であることを認識しながら不当な目的をもってあえて最高裁判所に抗告許可申立書を提出した場合には、申立てをする者は、殊更に許可抗告制度を逸脱する意図をもって抗告許可の申立てをすることを選択したものというほかない。このような不当な目的をもってされた抗告許可の申立てを原裁判所に移送することによって当該申立てをする者を法的に保護すべき理由はないというべきである。そして、以上の検討を踏まえると、上記の場合には、当該抗告許可の申立てが不適法であることは明らかであるから、これを原裁判所による上記許可に係る決定を経るために原裁判所に移送することは要しないというべきであり、このように解したとしても許可抗告制度に抵触するものではない。 したがって、上記の場合には、最高裁判所は、抗告許可の申立てについて、抗告許可申立書が最高裁判所に提出されたことを理由として、原裁判所に移送することなく不適法として却下することができるというべきである。
3 本件申立書及びその付属書類によれば、本件申立ては、申立人がA弁護士(以下「本件弁護士」という。)を代理人として選任し、本件弁護士が作成した本件申立書を当裁判所に提出することによりされたものであり、本件申立書には、本件申立ての以前に本件弁護士が最高裁判所に抗告許可申立書を提出した抗告許可の申立てについて移送された事案が複数ある旨の記載がされている。その上、本件申立書には、仙台地方裁判所又は広島地方裁判所への移送を希望し、福岡高等裁判所管内の裁判所への移送を拒絶するとまで記載されているのであるから、本件申立てが民訴法の上記規定に反することを十分認識しながら、自らの希望する裁判所に移送されることを求めるという不当な目的をもってあえて最高裁判所にされたものであることは明らかというべきである。 以上によれば、本件申立ては、許可抗告制度を逸脱する意図をもってあえて不適法な抗告許可の申立てをすることを選択してされたものというほかないから、原裁判所に移送することなく不適法として却下すべきものである。
4 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
解説
本件は、最高裁判所になされた許可抗告が不適法却下された事例である。
許可抗告の制度は、法解釈の統一や重要な法令に関する最高裁判所の判断を行う余地を作ること等を目的として創設されたものである。特に執行・保全等に関して、高裁判例が割れていて実務に混乱が生じているにもかかわらず、最高裁判所の判断を受けられないといった不具合が発生していたことを受けて創設されたという背景がある。
本来であれば、誤って抗告許可の申立てが最高裁になされた場合には、原審裁判所に移送すべきところ、最高裁はこれを不適法却下するという異例の判断を行った。しかしながら、そこには以下のような特殊事情があるようである。
申立て代理人であるA弁護士は、「仙台地方裁判所又は広島地方裁判所への移送を希望し、福岡高等裁判所管内の裁判所への移送を拒絶する」などと申立書に記載していたようであり、A弁護士は特定の裁判所における審理を回避するために、あえて最高裁判所に抗告許可の申立てを行い、最高裁判所から移送させることを企図していたものと推認される。許可抗告は原審裁判所に抗告許可の申立てをして行うということは、少なくとも民事訴訟について最低限の知識・経験のある弁護士であれば当然知っているはずのことである。また、最高裁の認定によれば、「本件申立ての以前に本件弁護士が最高裁判所に抗告許可申立書を提出した抗告許可の申立てについて移送された事案が複数ある旨の記載がされている」とあり、どうも反復継続的にこのような手段が執られていたようである。最高裁も、最初のうちは原則通りに移送していたものの、A弁護士がいわば味を占めてしまったので、今後も同様の濫用的な申立てがなされることを懸念し、ついに堪忍袋の緒が切れたということのようである。従って、許可抗告制度についての理解が不十分であったために、誤って最高裁判所に申立書を提出してしまったような場合にまで、本件の射程が直ちに及ぶとは考え難い。
本件は、濫用的な訴訟行為に対する処理の仕方を示すものとして、実務上はともかく理論上は参考になる。
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