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続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ5 背景事情の多様化 20210917

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はじめに

持続化給付金の不正受給について、一般の方や、全国で同種事案の弁護人をされる先生方の参考になるよう、持続化給付金の判決について、情報収集を行い、分析を続けている。前回の記事から、さらにいくつかの判決に関する情報を入手した。
これまでの過去記事は以下をご覧いただきたい。
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続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ2 20210616
【速報】 持続化給付金詐欺 の判決まとめ 20210429
前回から約1箇月半を経過し、新たな事案が集積されてきたため、さらに分析を行いたい。
報道発表から読み取れる範囲で一覧表を作成しており、役割や被害弁償、分け前などについては一部、推測に渡るものも含まれている。また、本稿掲載時点で検察官による求刑まで行われ、判決言渡未了のものについても参考のために掲載した。
ちなみに、これらの判決の中で、当職が弁護人などとして関与しているものは存在しない。

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判決内容

前回から8件(判決6件、求刑まで2件)増加し、執行猶予付判決が30件、実刑判決が12件となった。8件のうち、4件が高裁所在地の地方裁判所、1件がそれ以外の地方裁判所本庁、3件が支部における判決であり、徐々に都市部の事件が増えているものの、一般的な刑事事件の傾向に比較すると、支部の事件も相当程度多いように思われる。

判決の分析

  • 判決38は、持続化給付金100万円と、それ以外の給付金60万円を自己名義で申請した事案であるが、懲役1年8箇月の実刑判決が宣告されている。もっとも、報道発表によると、被告人は暴力団関係者であるようであり、実刑判決が選択された理由として、前科の存在なども考えられる。後に述べる判決43を見る限り、暴力団関係者であるからといって、取り立てて量刑が重くなるということはなく、犯行において果たした役割と、被害額が重視されていることに変わりはないと思われる。
  • 判決39及び40は同一事件の共犯者であり、被害額1,200万円と、本稿で検討している事案の中では現時点での最高額である。返金の状況などは不明であるものの、件数及び被害額からみると、実刑判決はやむを得ないものと思われる。興味深いのは、判決39の被告人は勧誘役、判決40の被告人は申請書類の作成役であると認定された上で、判決39の被告人の方が、若干、重い量刑とされていることである。量刑に差がついた事情は判然としないものの、一般的には、勧誘役と書類作成役は同程度の役割ではないかとも思われるところであり、どのような理由から判決39の被告人の方が重い刑を言い渡されたのか、気になるところである。もしかすると、返金額が異なったのかもしれない。
  • 判決42は、被害額1,000万円と高額の事案であるにもかかわらず、検察官の実刑求刑に対して執行猶予付判決が言い渡された事案である。判決では、被告人の関与は従属的であるとされており、被告人が100万円を返金していることや、犯行当時22歳の大学生であり、大学を退学処分になるなど相応の社会的制裁を受けたことなどの一般情状も考慮して、恐らく前科前歴もないと思われることから、実刑を選択することには躊躇されたのではないかと推察されるところである。但し、やはり決め手となったのは犯行への関与の程度であると考えられ、詐欺グループの中核を占める者の場合、金額がこの程度になってくると、若年であるとか社会的制裁を受けたといった事情だけでは、実刑判決を回避するのは困難ではないかと思われるところである。
  • 判決43は、現職の暴力団員による不正受給の事案である。自己が暴力団員であり、受給資格が無いことから、親族名義で不正受給を行ったというものである。1件であるが、具体的な返還の目処は立っていないという状況で、執行猶予付の判決が選択されている。以前に紹介した、仙台地裁の判決25-判決27、25の控訴審である仙台高裁の判決28と比較すると、軽い印象を受ける。
  • 判決44は、大阪国税局OBを主犯格(現在公判中)とする組織的な詐欺事件について、書類作成役として関与した税理士事務所職員の判決である。件数は3件であり、執行猶予付判決が選択されている。犯行を主導した者が別にいることから、書類作成役は単純作業がメインであり、関与の程度は従属的であると認定されたのではないかと推察される。

前回以降、判決原文を入手できたものの解説

これまで、報道発表をもとに解説を行っていたもので、前回以降、判決原文に当たることができたものについて、解説を追加する。

  • 判決7は、被告人が、自己名義での申請、少年名義での申請、申請名義人の紹介(幇助)を行ったという事例である。判決では、従属的な立場であったとはいえないとされたものの、被告人が若年で前科前歴がなく、父親の支援を受けて被害弁償の準備をしていることが重視されている。役割が従属的でないことも考慮して、長めの執行猶予期間を設定したようである。
  • 判決4は、自己名義での申請1件、勧誘2件で実刑判決が選択された判決である。被害弁償については、1件について共犯者が全額を返金し、もう1件については報酬として得た10万円を共犯者に返還している。しかしながら、結果的には実刑判決が選択されており、その量刑の理由を見ても、他の同程度の件数の事件と比較して、重すぎるという印象を拭えない。やはり、仙台と盛岡が取り立てて重いという傾向があることは否定できないように思われる。ちなみに、本件は詐欺罪であるため、通常は裁判官1名の単独体で審理されるものであるが、本件では裁定合議により裁判官3名で審理が行われている。
  • 判決5は、自己名義での申請1件と、知人を勧誘した1件の事案である。被告人は、上位者から、不正受給に協力すれば、100万円のうち20万円を渡す、申請名義人を紹介した場合、同様に20万円を渡すので、申請名義人と自由に分けて良いと言われて犯行に加担したとされており、不正受給した金銭のほとんどを上位者が持って行く仕組みであったことがうかがえる。これに加え、判決では、「書類に記入する内容や入手する書類、共犯者への伝達内容など、犯行全般にわたって、上位者に指示されるまま行動して」いるとされており、さらに、約束された報酬をそもそも受け取っていないことなども指摘され、被害弁償は全くなされていないものの、若年で前科前歴がないことなども考慮して、執行猶予付の判決が選択されている。
  • 判決6は、自己名義での申請1件、勧誘2件の事案である。判決では、犯情悪質であり、「基本的には実刑を選択すべき事案」としつつ、被告人が勧誘した共犯者が被告人に返金を求め、これに応じて被告人が共犯者に返金したこともあって、共犯者の申請した分については返金がなされていること、被告人が申請した分については返金手続を進めていることや、若年で前科前歴がなく、両親が監督を誓約していることを考慮して、直ちに実刑に処するのが相当であるとはいい難いとし、結論としては執行猶予付判決が選択されている。一般的に、他の財産犯でも、被害額300万円程度であれば、被害弁償の有無が実刑と執行猶予の分水嶺になると思われるところであり、本件が基本的には実刑が相当であると判示したことが、取り立てて重いとは思われない。
  • 判決9は、自己名義での申請1件と、母親及び妹名義での申請2件を行った事案である。被告人は、元々は共犯者から犯行を指南されていたところ、手数料を払いたくないということで、自ら創意工夫して申請書類を作成するなどしていたことが認定されている。一方で、全額が返金されていることや、前科前歴がないことなどから、執行猶予付判決が選択されている。
  • 判決14は、妻名義での申請1件の事案である。共犯者(沖縄県内で組織的に持続化給付金の詐欺を働いている税理士及びコンサルタント)の発案を発端として不正受給を考えついたものの、書類の作成等、主導的に関与していたと認定されている。もっとも、全額の返金がなされていることなどから、懲役1年6月執行猶予3年の判決が宣告されている。1件で全額返金の場合、一部の特殊な地域を除いては、基本的には懲役1年6月執行猶予3年程度が選択されるようである。
  • 判決15、判決16は、他人の不正受給3件に関する事案である。判決では、被告人の量刑が若干、異なっているが、これは、被告人Y1が、被告人Y2に比較して、申請役と直接、連絡を取りうる立場にいるなど関与の程度が大きく(判決では、Y1は「仲介役・勧誘役のまとめ役」、Y2は「仲介役」と認定されている)、また、Y1の方がY2よりも多額の報酬を受け取っていることから、Y1の方が責任が重いとされている。その上で、被告人らには実刑判決も十分考えられるとしつつ、被害額300万円のうち200万円が返金されており、残り100万円についてもその準備が進められていることや、前科前歴がないことなどを踏まえ、Y1に懲役3年執行猶予5年、Y2に懲役2年6月執行猶予5年が宣告されている。

年齢・職業

20代が23人、30代が11人、40代が7人、50代が1人、60代が1人であり、平均は31.6歳と、依然として若年者が圧倒的に多く、平均年齢も低い傾向にある。もっとも、首謀者的地位にある者の中に、比較的年齢の高い者が含まれていることから、平均年齢は、連載を重ねるごとに、少しずつではあるが上昇傾向にある。

今後の見通し

これまでは、自己名義での申請1件の事案や、詐欺グループ内で従属的な地位にある者の事案が多かったため、量刑の傾向や考慮要素は、総じて単純であった。しかし、徐々に、中間管理職的な地位にある者、首謀者的地位にある者など、関与の程度が多種多様になりつつあることから、量刑に際しての考慮要素を、事案ごとに丁寧に分析していく必要が出てくるようになっている。
もっとも、全件に通底するものとして、やはり、量刑における考慮要素は、被害額と被害弁償の有無、共犯者間の役割分担の軽重が決定的に重要である。このうち、前者については、弁護人としては特に争う余地がないものであると思われる反面、後者については、丁寧な立証を行うことによって、関与の程度が従属的であることを強調することは、重要な弁護活動となりうるものと思われる。

まとめ

前回も記載したとおり、持続化給付金不正受給は、初犯でも実刑の可能性がありうる事件類型である。
また、他の犯罪類型と比較すると、相応の学歴や社会的地位があり、家族や安定した勤務先を有する者がこの犯罪に手を染めていることも珍しくない。こういう場合、突如として逮捕・勾留され、長期間にわたって接見禁止となることにより、家族や仕事に与える影響は甚大であり、被疑者段階あるいは起訴後の保釈段階の弁護活動も重要になってくる。これらについては機動力が求められ、弁護士によって対応が異なってくるため、依頼する弁護士は慎重に選んだ方がよい。安易に、全国展開しているとか弁護士の人数が多いとか元検事の弁護士がいると言うだけで決めるというのは、あまりおすすめしない。
今回、事件として審理されているものの背景事情が多様化していることを指摘した。逆に言うと、事案ごとに細かい事情を検討し、丁寧な情状立証を行う必要性が増加しているものと思われる。

ご依頼を検討中の方に~当事務所の方針

最後に、最近、問い合わせを受けることが多くなっているので、持続化給付金の不正受給に関する依頼を検討されている方に、当事務所の基本的な方針をお伝えしておきます。

被疑者段階

被疑者段階での依頼については、警察署等への接見が必要となってくるため、ある程度の地理的制約があります。このため、あまりに遠方の事件についてはお断りすることもあります。但し、現地に知り合いの弁護士がいる場合には、共同で受任して、接見は専ら現地の先生にお願いするという形で受任することは可能ですので、まずはお問い合わせいただければと思います。
当職が受任した場合、遠方に接見に行く場合には、交通費実費と日当をいただきます。日当については、距離や所要時間などによって異なってくるので、詳細は個別にお問い合わせください。
なお、正式に依頼するかどうかは未定であるものの、とりあえず一度接見に行った上で、今後の弁護方針に関するセカンドオピニオンを提供するということも可能です。こちらについては、日程が合う限りにおいて、全国対応が可能です。弁護士費用及び日当、交通費については、お問い合わせください。

被告人段階 第一審

起訴後からでも、勿論ご依頼は可能です。この場合、被疑者段階よりは接見頻度も少ないことが想定されるため、被疑者段階よりは、遠方のご依頼でもご負担は少ないと思います。保釈により釈放された場合には、テレビ電話等での打ち合わせも可能です。弁護士費用については、件数や認否、事案の複雑さによって変わってきますので、個別にご相談下さい。
被疑者段階同様、セカンドオピニオンのご依頼も歓迎です。この場合は、現在、依頼している弁護人から、事件に関する記録を入手した上でご相談下さい。

被告人段階 控訴審 上告審

控訴審、上告審のご依頼も可能です。
まず、第一審の判決謄本等を検討した上で、控訴に関する見通しについて意見を述べるという形でご依頼いただくことが可能です。
控訴審は、通常の事案であれば、弁論を1回開いて結審し、第2回で判決言渡しになることが多いため、遠方の事案でも、期日のために出廷する回数は2回となることが多いです。ただ、接見や保釈請求等の関係で出張が必要となることもあります。

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