郵便局の前時代的なしくじり 郵便料金を値上げする前に制服を廃止せよ!
郵便料金の大幅な値上げが発表された。
令和3年10月には、普通郵便の翌日配達が廃止されたことで、サービスの切り下げが行われたから、この変化は立て続けである。
そのような中、以下のような報道が飛び込んできた。
「制服への着替えは労働時間」、日本郵便に320万円の支払い命じる判決…神戸地裁
出勤・退勤時に制服に着替える時間の賃金が支払われていないのは不当だとして、兵庫県内や大阪府内の郵便局の従業員ら44人が日本郵便を相手取り、計約1500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が22日、神戸地裁であり、島岡大雄裁判長は「着替えに要する時間は労働時間に該当する」と認め、日本郵便に計約320万円の支払いを命じた。
判決では、就業規則で制服着用を義務づけていることなどから、着替えは「被告の指揮監督命令下に置かれた行為」と指摘。一方、原告側は「1日平均14分かかる」と主張したが、「的確な証拠がない」などとして一部を認めるにとどめた。
そういえば、郵便局の職員は、制服で応対をしている。制服に着替えるためには毎日、相応の時間を要する。その分の賃金は日本郵便が負担しなければならない。
塵も積もれば山となる、である。なんと無駄なことだろう。
いっそ制服を廃止すれば、こうした余計な人件費を支払う必要はなくなる。制服を発注し、製作するコストもなくなる。せめて、コンビニの店員のように、私服の上に会社のロゴが入った上着を羽織るようなスタイルにすれば、大幅なコストの削減が見込まれるだろう。
郵便局の職員について、制服を廃止することで、何か弊害はあり得るだろうか。そのことを考える上でのヒントが、かつて郵便局が犯したしくじりにある。
神戸地判平成22年3月26日労判 1006号49頁は、郵便局の職員(民営化前の勤務を含む)が、長髪やヒゲなどを理由に不当に低い人事考課をなされ、上司から執拗にヒゲを剃るよう求められたことが違法であるとして損害賠償を請求した事案である。
裁判所は、
被告の郵便窓口を利用する顧客は,老若男女様々な利用者であることは認められるものの,それらの利用者は,郵便窓口では,通常の礼儀正しい応対を受けることを期待しているものとはいえ,職員が特別に身なりを整えて応対をすることまでは予定していない
として、顧客に不快感を与えるようなヒゲや長髪でない限り、これを制限することは不合理であり、人事考課の誤りと上司の指導を違法であると認めて原告の請求を一部認容した。
同じ神戸地裁の判決であるというのも数奇なものである。
この判決の論理を当てはめると、制服についても同じようなことが言える。通常の礼儀正しい応対を受けることを期待しているものとはいえ、職員が特別に身なりを整えて応対をすることまでは予定していないということであれば、職員が制服を着用して応対することの合理性は特にないということになる。庶民の感覚からすれば、そんなことをする暇があれば郵便料金を値上げするなというのが至極当然の感情ではないだろうか。
明治時代、郵便局の職員は拳銃で武装することが許可されており、公権力の行使という側面があった。このため、警察官などと同様に、公権力の行使という側面を明示するために、制服を着用するということには合理性があったかもしれない。しかし、郵政民営化がなされた現代にあっては、そのような理由付けはもはや維持できまい。
また、戦後の我が国は、大蔵省を主導とする護送船団方式で、銀行等の金融機関が統制されていた。そこでは、行員の制服に至るまで、国が細かく口出しをしていた(まるで共産主義的独裁国家である)。その時の名残から、今でも多くの金融機関では制服の着用が行われている。郵便局も同じような発想なのかもしれない。しかし、それは顧客の目線に立ったものと言えるのだろうか。
また、労働者の服装や髪型などの私的領域に、雇用主があれこれ口を出すことのリスクも看過できない。そうした私的領域に対する介入は、セクハラやパワハラの温床となり得るからである。
郵便料金の値上げという形で、一般消費者に負担を転嫁する前に、まずはこのような無駄を排除することからはじめるべきではないのだろうか。郵便局の前時代的な姿勢こそ、消費者の利益を損ねる一番の害悪である。ネット販売やキャッシュレス決済の導入などの改革を進めることができているのであるから、制服の廃止くらいトップの一声でできそうなものである。
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