続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ2 20210616
はじめに
前回、こちらの記事で、令和3年4月28日までの報道記事や判例データベースをもとに、持続化給付金不正受給に関する裁判例の傾向を検討した。その後、約1カ月半を経過し、裁判例がさらに集積されてきたので、続報という形で新たに情報提供を行うこととする。
更新後の一覧表をこちらに掲載する。数頁にまたがっていて見にくいのはご容赦願いたい。
また、判決言渡しの時系列順に並び替えたので、前回の一覧表とは順番が前後している。
報道発表から読み取れる範囲で一覧表を作成しており、役割や被害弁償、分け前などについては一部、推測に渡るものも含まれている。また、本稿掲載時点で検察官による求刑まで行われ、判決言渡未了のものについても参考のために掲載した。
ちなみに、これらの判決の中で、当職が弁護人などとして関与しているものは存在しない。
判決内容
執行猶予付判決が23件、実刑判決が1件であった。
前回以降、実刑判決になったものはない。
検察官が懲役3年6月の実刑を求刑した事案でも、懲役3年執行猶予5年と、ぎりぎりのところで執行猶予となっているものも見受けられる。これらの事案3件をみると、被害額は300万円から500万円と少なくないものの、大半が被害弁償されていたり、また被害弁償が見込まれること、共犯者の中では、役割は従属的、付随的なものに留まること、若年であったり、定職に就いていたりしていて、恐らく前科前歴がないと認められることから、実刑判決とすることまではためらわれたのではないかと思われるところである。
前回と比較して、被害額が多い事案が増加しているため、求刑、判決共に全体的に重くなっている印象である。また、前回と同程度の事案であっても、検察官の求刑がやや重くなっているのではないかと思われる事案もある。例えば、事案13と事案22を比較すると、いずれも士業による書類作成役の事案で、被害件数は1件であるものの、検察官の求刑は前者が懲役2年6月、後者は3年となっている。
年齢・職業
20代が16人、30代が6人、40代が1人、60代が1人であり、平均は29.1歳と、依然として若年者が圧倒的に多く、平均年齢も低い傾向にある(前回より上昇したのは、69歳の事案が1件存在し、これが全体を押し上げている。同事案を除外すれば平均は27.4歳となり、前回とほぼ同水準である)。
今後の見通し
依然として、単独犯に近い事案や、共犯者間でも従属的な地位に留まる者の事案がメインであり、もっとも被害額の大きい事案でも500万円であるため、今後はより件数が多く、詐欺グループの中核にいる者の公判は、これからさらに審理が行われた上で判決となるものと思われる。
また、一覧表を見ても明らかなように、現在、判決が出ている裁判所は、どちらかというと事件の件数が少ない地域のものが多く、東京、横浜、大阪、名古屋、福岡などの大都市の裁判所では、まだ判決の報道がない。当職が福岡地方裁判所で傍聴している事件を見る限りでも、検察官による追起訴が遅れるなど、捜査機関のキャパシティを上回る事件が認知されているのではないかと思われるところである。加えて、現在でもなお、持続化給付金不正受給での逮捕報道がなされていることから見て、全ての事件について判決が出るには、まだまだ年単位の期間を要するのではないかと思われるところである。
まとめ
前回も記載したとおり、持続化給付金不正受給は、初犯でも実刑の可能性がありうる事件類型である。
従って、前回も述べたとおり、公判において最大限、有利な判決を得るには、早期に弁護士に相談して、弁護人による適切な弁護活動が行われることが極めて重要であり、事案の性質上、実刑判決が見込まれる場合には特にこのことが当てはまる。
特に今後は、相対的に重い事案の審理が増えると予想され、弁護人の負担も相応のものになると思われるところであり、信頼できる弁護士に公判弁護を依頼することが重要であるように思われる。勿論、これから逮捕されるなど、捜査が開始される事案についても、早期に弁護士に依頼することにより、早期の釈放を目指すことが重要であることは言うまでもない。
判決文・報道記事提供のお願い
データベースを充実させるため、持続化給付金不正受給に関する判決文や報道記事をご提供いただける方を探しています。
こちらからお願いいたします。
その他のコラム
年末年始の営業について
水野FUKUOKA法律事務所刑事事件特設サイトはこちら 事務所公式HP LINE公式アカウント 当事務所では、年末年始の営業について、下記の通り対応いたします。 12月28日まで 通常通り 12月29日~1月4日 対面でのご相談はお休みさせていただきます。 ZOOMでの相談は、12月28日までに日程調整をいただいたものについて対応いたします。 お電話は、刑事事件など、緊...
最決令和7年5月21日令和7年(し)328号 第1審の有罪判決をした裁判官が当該被告事件の控訴裁判所のする保釈に関する裁判に関与することはできないとした事例
判旨 記録によると、頭書被告事件の控訴裁判所である札幌高等裁判所が、同被告事件の第1審の有罪判決をした裁判官を含む合議体で、保釈請求を却下する決定をし、原審が、申立人からの異議申立てを棄却する決定をしたことが明らかである。 しかしながら、控訴裁判所において、当該被告事件の第1審の有罪判決をした裁判官には、事件について前審の裁判に関与したという、刑訴法20条7号本文の定める除斥原因がある。そして、控訴裁判所のする保釈に関する...
歴史とは何か? アヘン戦争に関する「ものは言いよう」

私がよく視聴する「俺の世界史チャンネル」というYouTubeチャンネルで、アヘン戦争に関する動画が作成されていた。 以前、ロンドンの国立海洋博物館に行ったことがある。ロンドン海洋博物館は、グリニッジ天文台に併設され、海洋国家としての英国の華々しい歴史に関する展示がされている。そこでアヘン戦争はどのように解説されていたか? 以下の通りである。 BR...
【無抵抗・無条件降伏】B型肝炎訴訟弁護団横領事件裁判傍聴記【ヒーローのなれの果て】

X(Twitter)共有&フォローお願いします! Tweet Follow @mizuno_ryo_law はじめに 以前に紹介した事件の続報である。 B型肝炎訴訟熊本弁護団における横領事件について現時点で分かっていることをまとめてみた(2024/1/16 19:30更新) B型肝炎弁護団横領事件の続報 【予告するのはホームランだけにしてくれ】 【速報】B型肝炎訴訟弁護団長逮捕 ...
【日本人よ、これが検察だ!】プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付審判決定(完結編)【補論 未だ生ぬるい】

はじめに 最後に、本決定は、「補論」として、本件の背景事情に言及している。その説示には、賛同できる部分も多数あるものの、私の感想としては、まだまだ表面的というか踏み込みが足りないように思う部分が散見された。最後にこの部分を紹介して終わりにしたい。 前編【日本人よ、これが検察だ!】 プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付審判決定はこちら 中編【日本人よ、これが検察だ!】プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付...