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最決令和7年1月27日令和5年(あ)422号 組合活動に際して行われた犯罪に関する共謀の成否

判旨

原判決が是認する第1審判決の認定及び記録によれば、本件各行為は、被告人が執行委員長であったA労働組合B支部(以下「B支部」という。)が、バラセメント等の輸送運賃を引き上げることにより輸送業務に従事する運転手らの労働条件の改善を図るとの目的の下、近畿地方におけるバラセメント等の輸送業者の輸送業務を一斉に停止させること等を意図して、多数の組合員を動員して組織的に行った活動(以下「本件活動」という。)の一環であるところ、本件活動前の時点で、それまで連携関係にあった他の労働組合の一部が本件活動に参加しない方針であり、また、輸送業者の中には本件活動に非協力的で輸送業務を停止しないものがあるなどの事情が判明していたこと、B支部内の下部組織の会議においては、「意思統一」と称して、上記のような関係者の動向が共有された上でなお全ての輸送業務を停止させるという執行部の方針が徹底され、特に非協力的な輸送業者が出入りするサービスステーションにおける輸送車両の排除の重要性が強調されていたこと、被告人は、本件活動後、本件活動に参加した組合員らをねぎらったこと等が認められる。
以上のような本件活動をめぐる関係者の動向やこれを踏まえたB支部内の対応、被告人の言動等に鑑みれば、本件活動に当たり、輸送業務を停止させるための手段として、輸送車両の前面に立ちはだかるなど本件各行為のような違法な実力行使を伴う行為に及ぶことがあり得ること等について、被告人もこれを認識して認容し、共犯者らもこれを承知していたものと認められ、被告人と共犯者らとの間には本件各行為につき意思の連絡があり、被告人が共犯者らを通じてこれらを実行したものと評価することができる。したがって、被告人には本件各行為について共犯者らとの間に共謀が成立するとした第1審判決を維持した原判断の結論は是認できる。

解説

組織的に敢行された犯罪について、首謀者の刑事責任を追及するための理論構成として、共謀共同正犯という概念が発展してきた。

この点に関するリーディングケースは、労働争議行為に関連して警察官に暴行を加えて死亡させるなどしたという事案において、「共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがって右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、その間刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。さればこの関係において実行行為に直接関与したかどうか、その分担または役割のいかんは右共犯の刑責じたいの成立を左右するものではないと解するを相当とする。他面ここにいう「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならないから、これを認めるためには厳格な証明によらなければならないこというまでもない。しかし「共謀」の事実が厳格な証明によって認められ、その証拠が判決に挙示されている以上、共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらに進んで、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない。」とした最判昭和33年5月28日刑集12巻8号1718頁(練馬事件)である。

その後、共謀共同正犯の概念は定着していき、暴力団事件や公安事件などに広く適用されるようになっていった。象徴的なのは、暴力団組長が「スワット」と称する配下組員に警護をさせていた際に、配下組員が拳銃を所持していた事案について、「被告人は、スワットらに対してけん銃等を携行して警護するように直接指示を下さなくても、スワットらが自発的に被告人を警護するために本件けん銃等を所持していることを確定的に認識しながら、それを当然のこととして受け入れて認容していたものであり、そのことをスワットらも承知していたことは、前記1(6)で述べたとおりである。なお、弁護人らが主張するように、被告人が幹部組員に対してけん銃を持つなという指示をしていた事実が仮にあったとしても、前記認定事実に徴すれば、それは自らがけん銃等の不法所持の罪に問われることのないように、自分が乗っている車の中など至近距理の範囲内で持つことを禁じていたにすぎないものとしか認められない。また、前記の事実関係によれば、被告人とスワットらとの間にけん銃等の所持につき黙示的に意思の連絡があったといえる。そして、スワットらは被告人の警護のために本件けん銃等を所持しながら終始被告人の近辺にいて被告人と行動を共にしていたものであり、彼らを指揮命令する権限を有する被告人の地位と彼らによって警護を受けるという被告人の立場を併せ考えれば、実質的には、正に被告人がスワットらに本件けん銃等を所持させていたと評し得るのである。したがって、被告人には本件けん銃等の所持について、B、A、D及びCらスワット五名等との間に共謀共同正犯が成立するとした第一審判決を維持した原判決の判断は、正当である。」とした最決平成15年5月1日刑集57巻5号507頁が挙げられる。同判例は、読み方によってはかなり広範に共謀共同正犯を認めるようにも読め、安易な適用を懸念する見解も有力に主張されている。

本件は、具体的な活動状況や組織としての方針、被告人の事件後の行動等を間接事実としてあげ、被告人には違法な実力行使を伴う行為に及ぶことがあり得ること等についての共謀が成立するとした。共謀の成否を検討するにあたりどのような間接事実を考慮すべきかという点について、その実例を示したものとして、実務上意義を有すると思われる。

近時は、暴力団の利権に絡む殺人事件などについて、首謀者であるとして起訴された暴力団のトップについて、共謀の成否に関して第一審と控訴審が異なる判断を行った(特に、控訴審は、無罪とした事件について、第一審の共謀に関する認定の手法を誤りであるとして明確に否定した)事例も出てきており(第一審福岡地判令和3年8月24日判時2517号84頁、控訴審福岡高判令和6年3月12日令和3年(う)273号)、共謀の認定にあたっては、より慎重な検討が求められるようになってきていると言えよう。

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