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【日本人よ、これが検察だ!】 プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付審判決定

はじめに

我が国の刑事司法の転換点となるような事件が報道されている。
事件のもととなったプレサンス社元社長冤罪事件とは、ある学校法人の経営・買収に関連して業務上横領が行われ、それに関与したとして、資金提供元のプレサンス社の社長であった山岸忍氏が共犯として逮捕・起訴されたというものである。
この事件では、まず、捜査を担当していた大阪地検特捜部によって、プレサンス社の従業員K及び不動産管理会社代表取締役Yが逮捕され、これらの者の供述をもとに、山岸氏も逮捕されたというものである。もっとも、その後の裁判で、山岸氏は無罪となった。
今回、問題になったのは、当時従業員のKに対して、当時、大阪地検特捜部の検察官として捜査にあたった田渕大輔検事が行った取調べが、特別公務員暴行陵虐罪に当たるとして、山岸氏が田渕検事に対して、付審判請求を行ったという事案である。
プレサンス社元社長冤罪事件自体の詳細な経過については、日弁連のウェブサイトを参照して欲しい。

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特別公務員暴行陵虐罪とは

まず、本論に入る前に、特別公務員暴行陵虐罪について説明しておこう。

刑法195条には、以下のような規定がある。

(特別公務員暴行陵虐)
第百九十五条裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の懲役又は禁錮に処する。
2法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。

本罪については、一定の職務にある公務員について、「その職務上,人の自由や権利を侵害する職権を与えられており,それゆえ,その濫用により容易に権利侵害を引き起こしうること,および,そのことにより同時に。その公務の執行の適正に対する国民の信頼をも侵害する」ことから、特別な処罰規定を置いたものと説明されている(西田典之「刑法各論(第7版)」511頁)。「暴行又は陵辱若しくは加虐の行為」というのは、「侮辱的言動を弄する、食事をさせない、用便に行かせない、わいせつな行為等の手段により,肉体的・精神的に苦痛を与えることをいう」(同512頁)と理解されている。

本罪の典型例は、刑務所の看守が囚人に暴力を振るうとか、警察官が女性の被疑者に性的な加害行為をするようなものであり、検察官の取調べにおける発言が問題となった事例は、おそらく初めてのことではないかと思われる。

付審判請求とは

刑事訴訟法262条では、公務員の職権濫用に関する一定の犯罪について、これを告訴した者は、検察官の不起訴処分に不服がある場合、裁判所に対して事件を裁判所の審判に付するように請求することができるとされている。審判を受けた裁判所は、自ら審理を行い、請求に理由があると判断される場合には、検察官の不起訴処分にかかわらず、起訴されたものとして取扱い、刑事裁判が裁判所に係属するという法的効果をもたらすというものである。これを付審判請求と呼んでおり、研究者によっては準起訴手続と呼ぶこともある。

我が国では、起訴するか否かの判断にあたっては、検察官に広範な裁量が認められている。これを訴追裁量主義などと呼んでいる。付審判請求の手続は、かかる原則に対する重要な例外である。

なぜ、このような規定が置かれたかというと、公務員の職権濫用に関する犯罪について、起訴するか否かの判断を検察官に委ねてしまうと、馴れ合いや忖度などから身内に甘い処分が頻発され、適正な処罰がなされない可能性が特に懸念されるからである。

本件もまさにそのような懸念が現実化した事案であると言える。

この点については、少し古い文献であるが、江家義男「刑事訴訟法教室上巻」226頁を少し長めに引用しておく。

では、なぜ、これらの事件について特別の起訴手続を設けたかというに、公務員は国民の公僕であると言う民主主義思想からすれば、公務員がその職権を濫用して国民に或る事を供与したり、あるいは逮捕監禁したり暴行陵虐を加えるということ、つまり、人権じゅうりんの犯罪は、厳重に処罰されなければならないからである。それで、昭和二十三年の刑法の一部改正で、これらの犯罪に対する刑罰が重くなったのであるが、たとえ刑法で刑罰を重くしても、実際に犯人が刑責を免れるようでは何んにもならない。犯人がその刑責を不当に免れることのないようにするためには、まず、これらの事件については公訴の提起を厳しく行う必要があるのである。

ところで、検察官が公訴権を一手に握り、しかも、起訴不起訴の決定権を持っている制度の下では、公務員の職権濫用事件が不起訴(起訴猶予)になる可能性がどうしても大きいのである。とくに、同僚である検察官の事件とか捜査にたずさわる警察官の事件がそうである。旧刑事訴訟法時代には、警察官の人権じゅうりん事件は、よほどの場合でなければ起訴されなかった。それは、旧法時代には検察官は捜査の指揮者であり、警察官はその検察官の指揮に従って捜査をしたので、警察官の人権じゅうりん事件を起訴しにくかったわけである。新刑事訴訟法の下では、すでに述べたように、検察官と司法警察職員とは捜査については協力関係ということになっているから、旧法時代とはだいぶ趣きを異にするが、それでも、実際には、警察官が検察官の手足となって活動することが多い。そのため、人権じゅうりん事件が不起訴処分になりがちであると考えなければならない。それで、新刑事訴訟法は、裁判による起訴という特別の制度を創設したのである。

決定文を読んでみる

では、以上を踏まえて、実際の決定文を読んでみよう。決定分は、代理人のウェブサイトからお借りした。

 

1) 本件取調べに至る経緯等
一件記録(当審における事実取調べの結果をも含む。) によると、本件の事実経過等は次のようなものであったと認められる。
ア 業務上横領事件の概要は、M学院の経営権取得を目論むOが、その経営権取得に向けた活動資金として巨額の借入れを行い、M学院の経営権取得後にM学院が所有する土地を売却し、その代金からこれを返済することを企図し、Kら他の共犯者と共謀の上、経営権取得後の平成29年7月頃、M学院所有の土地(以下「本件土地」といぅ。)につき、M学院を売主、PG社「(共犯者である*(以下Yという。)が経営する会社)を買主、売買代金を31億9635万1 0 00円とする売買契約を締結し、M学院名義の銀行口座に本件土地売買の手付金21億円の振込入金を受け、これをM学院のために業務上預かり保管中、前記借入金の返済など自己の用途に充てる目的で、他の共犯者の関係会社名義の銀行口座を経由して順次振込送金して横領した、というものである。
特捜部は、業務上横領事件について捜査を進める中で、申立人がこれに関与していたのではないかとの嫌疑を深めた。すなわち、本件土地の実質的な買主はP社であり、申立人は、本件土地の取得について以前から意欲を示しており、OがM学院の経営権を取得するために必要な資金については、申立人の個人的な財産から18億円を捻出し、Yが経営するT社を介するなどしてO個人に貸し付けられ、その後、本件土地の売買においてM学院が得た手付金21億円から、上記18億円の回収が図られている事実を把握した。これらの事実から、申立人は、本件土地の売買契約を進めていたKやこれに協力していたYと話し合うなどして、O個人に対する貸付金については、M学院の土地の売却代金から返済を受けることを事前に認識した上でOヘの貸付けを行ったもので、そうであれば、申立人も業務上横領事件の共犯に当たると考えられた(以下、この特捜部の見立てた業務上横領事件の構図を「本件スキーム」ということがある。) 。

 

特捜部は、本件のような複雑な経済事犯などを担当するために設置されたエリート集団である。この見立て自体は、まあ分からなくもない。しかし、次の部分から、雲行きが怪しくなってくる。

特捜部は、令和元年12月5日、O,Y,Kらを業務上横領の被疑事実で逮捕した。なお、申立人は任意の取調べにおいて、貸付先がO個人であることは知らなかった旨の供述をしており、この時点では逮捕されなかった。
田渕検事は、Kの取調べ担当となり、逮捕当日の令和元年12月5日午後から、勾留決定、勾留期間延長決定を経て同月24日までの間、ほぼ連日にわたって大阪拘置所内の取調室において、おおむね3時間ないし5時間程度、途中で食事休憩を挟むなどしながら、昼過ぎから夜にかけての時間帯にKを取り調べた。Kは、逮捕後の取調べでは、自らの行為も含めて事実関係を否認し、申立人の関与についてもこれを否定する旨の供述をしていた。

田渕検事によるKに対する取調べは、概ね原決定が認定するとおりであり、その要点は次のようなものである。

すなわち、田測検事は、8日の取調べにおいて、Kが、P社内部で、検察庁の取調べに関する情報を共有したかどうかという点につき、特捜部が収集していた証拠(メモ) と整合しないと考えられる供述をしたKに対し、嘘をついた理由を尋ねた上、Kとの間の机の天板を叩いて大きな音を出し、なお弁解を続けようとするKを遮るなどしながら、約50分間にわたり、Kをほぼ一方的に責め立て続けた。そのうちの約15分間は、大声を上げて怒鳴り続けており、具体的な言葉としては、「嘘だろ。今のが嘘じゃなかったら何が嘘なんですか。」「いや、ふざけなさんなよ。」「反省しろよ、少しは」「何開き直ってんだ。開き直ってんじゃないよ。何、こんな見え透いた嘘ついて、なおまだ弁解するか。なんだ、その悪びれもしない顔は。悪いと思ってんのか。」「何を言っているんだ。ふざけるんじゃないよ。ふざけるな。」「こんなあからさまな嘘をついて、何でそんな顔をしてられるのですか。何でですか、答えなさい。」「馬鹿にし切ってるんじゃないか、こっちをなめ切ってるんだろ。」「私は何度も確認したじゃありませんか、 嘘はついてないですかと。何でこんな見え透いた嘘をつくんだ。社内で共有してまでかしかも、それを未だに否定するなんて。どういう頭の構造してるんですか。どういう神経してるんですか。」「しかも、ほかにも嘘をついてるんでしょ。ていうか、ついたよね。ついてますよね。肝心なこと。」「これも到底許されないことだけど、こんなことしてたら、P社も役員全員逮捕されちゃいますよ、証拠隠滅罪で。どのみち終わりですよ、P社。」「もうさ、あなた詰んでるんだから。もう起訴ですよ、あなた。っていうか、有罪ですよ、確実に。これまでの捜査で、一体弁護士さんと何相談してるんです。」「普通は、最初に嘘ついたことについて悔い改めて謝ってくるものです。あなた、まだ、さっきから私に対して一つの謝罪の言葉もない。それがあんたっていう人間ですよ。自分で悪いことをしておいても謝れない人間なんですよ。」「そんな人間許すわけないでしょ。こっちが。あなたの評価、検察庁の中で日に日に悪くなってるよ。」「子供だって知ってます、嘘ついたら叱られる、お仕置きを受ける、当たり前のことです。小学生だって分かってる、幼稚園児だって分かってる。あんたそんなことも分かってないでしょ。」「いっちょまえに嘘ついてないなんて。かっこつけるんじやねーよ。」「お試しで逮捕なんてあり得ないんだよ。まず捕まえてみて、どうなるか分からないから、調べてみて、しゃべったら起訴しようとかじゃないんだよ。俺たちはそんな,いい加減な仕事はできないんだよ。人の人生狂わせる権力持ってるから。こんなちっぽけな誤審とかで人を殺すことだってできるんですよ、私らは。だから、慎重に慎重を重ねて、証拠を集めて、その上であなたほどの人間を逮捕してるんだ。失敗したら腹切らなきゃいけないんだよ。命賭けてるんだ、こっちは。」「検察なめんなよ。命賭けてるんだよ、俺達は。あなた達みたいに金を賭けてるんじゃねえんだ。かけてる天秤の重さが違うんだ、こっちは金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤に賭けてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃねえよ。必死なんだよ、こっちは。」「あなたの人生を預かってるのは私なんだ、今これ以上あなたを痛めつけさせないで,ください。」、などというものであった。

9日の取調べでは・8日よりは穏やかな口調ではあったものの、Kが、申立人に対し,18億円の貸付先がOであり、使途が買収資金であることを説明しなかった、申立人はO個人への貸付であることについて理解していなかったと思うなどと供述したのに対し、「端からあなたは社長を騙しにかかっていたってことになるんだけど、そんなことする、普通。」「なんでそんなことしたの。それ、何か理由あります。それはもう自分の手柄が欲しいあまりですか。そうだとしたら、あなたはP社の評判を貶めた、世間の評判を貶めた大罪人ですよ。「これ、例えば会社とかから、今回の風評被害とか受けて、会社が非常ないろんな営業損害を受けたとか、株価が下がったとかいうことを受けたとしたら、あなたはその損害を賠償できます。10億、20億じゃ済まないですよね。それを背負う覚悟で今、話をしていますか。」などと言った。

 

どこから突っ込んで良いやらなんとも言われないところであるが、特にひどい箇所に突っ込んでみたいと思う。

 

特捜部が収集していた証拠(メモ) と整合しないと考えられる供述をしたKに対し、嘘をついた理由を尋ねた上、Kとの間の机の天板を叩いて大きな音を出し、なお弁解を続けようとするKを遮るなどしながら、約50分間にわたり、Kをほぼ一方的に責め立て続けた。

そもそもの出発点が、お勉強を重ねて司法研修所でいい点をとり(水野は不良修習生だったのでこの時点でアウトである)、検察庁の霞ヶ関張りの出世コースを駆け上がった特捜検事のやることか?という話である。やってることはパワハラ上司のそれと大差ない。検察庁は、内部でもパワハラが横行しているというが、推して知るべしだろう。

 

「こんなあからさまな嘘をついて、何でそんな顔をしてられるのですか。何でですか、答えなさい。」

どんな顔をしていたのか、録音録画を見れば検証できるということは思わないのだろうか。

 

「もうさ、あなた詰んでるんだから。もう起訴ですよ、あなた。っていうか、有罪ですよ、確実に。これまでの捜査で、一体弁護士さんと何相談してるんです。」

北斗の拳のケンシロウにでもなったつもりなのだろうか。また「一体弁護士さんと何相談してるんです。」というのは弁護人選任権、依頼権の侵害である(警察官には時々こういう物言いをする人はいるものの、司法試験を受けた検察官が言っているのでは話にならない)。

 

「普通は、最初に嘘ついたことについて悔い改めて謝ってくるものです。あなた、まだ、さっきから私に対して一つの謝罪の言葉もない。それがあんたっていう人間ですよ。自分で悪いことをしておいても謝れない人間なんですよ。」「そんな人間許すわけないでしょ。こっちが。あなたの評価、検察庁の中で日に日に悪くなってるよ。」

牧師にでもなったつもりなのだろうか。また、検察庁の評価というのであれば、私などデスノートに載っているか、わら人形に日々、五寸釘を打たれていることだろう。

 

「子供だって知ってます、嘘ついたら叱られる、お仕置きを受ける、当たり前のことです。小学生だって分かってる、幼稚園児だって分かってる。あんたそんなことも分かってないでしょ。」

先日、取調べで「ガキ」などと発言した検察官の行為に国家賠償が認められた判決が出たばかりであるが、根っこは同じだろう。

 

「お試しで逮捕なんてあり得ないんだよ。まず捕まえてみて、どうなるか分からないから、調べてみて、しゃべったら起訴しようとかじゃないんだよ。俺たちはそんな,いい加減な仕事はできないんだよ。人の人生狂わせる権力持ってるから。こんなちっぽけな誤審とかで人を殺すことだってできるんですよ、私らは。だから、慎重に慎重を重ねて、証拠を集めて、その上であなたほどの人間を逮捕してるんだ。失敗したら腹切らなきゃいけないんだよ。命賭けてるんだ、こっちは。」

前半部分は、刑事訴訟の仕組みからみてあり得ない。逮捕したけれども嫌疑不十分で不起訴というのは、法律上当然に想定されていることである。

後半部分は、「のう、わしはジギリかけとるんじゃけえ、ごがあなところでイモ引くわけにはいかんのじゃ」というヤクザ映画のワンシーンを彷彿とさせる。あれは菅原文太さんだったろうか。

 

「検察なめんなよ。命賭けてるんだよ、俺達は。あなた達みたいに金を賭けてるんじゃねえんだ。かけてる天秤の重さが違うんだ、こっちは金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤に賭けてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃねえよ。必死なんだよ、こっちは。」

すんばらしい。これぞまさしく公務員のカガミである。どこまでも民間を下に見る、THE官尊民卑である。勲章でも与えたらいいんじゃなかろうか。金を借りておきながら商人相手に威張り散らしていた侍と何が違うというのだろうか。

また、後半部分は、やはり、「銭で命は買えへんのや。おどれ、代紋なめとったらあかんで。わいらにも意地っちゅうもんがあるんや」と言ったワンシーンが浮かぶ。こちらは梅宮辰夫さんだろうか。

 

「あなたの人生を預かってるのは私なんだ、今これ以上あなたを痛めつけさせないで,ください。」

従業員の生殺与奪の権限を与えるとか言っていた自動車修理販売の会社(ビッグ・・・)があったような気がするのは気のせいだろうか。

 

まとめ

日本人の多くは、おまわりさんは正義の味方だと言われ続けて育ってきた。刑事ドラマは警察を絶対善とする勧善懲悪ものばかりである。検察官も、代表作は木村拓哉主演のHEROで、やはり正義の味方という視点一辺倒である。

 

しかし、おわかりいただけただろうか。

 

日本人よ、これが検察である!

 

確かに被疑者ノートを見ていると、これに近いような発言があったのではないかと思われる場面は、ないわけではない。しかしながら、現職の検察官、しかもエリートとされる特捜部の検事が、令和のこの世の中に、こんな品のない取調べをしていたなんて、法務省、検察庁はトップが辞任してでも恥じ入るべき話であろう。

次回は、このような下品極まりない取調べを、裁判所がどのように「断罪」したのか、引き続き決定文を読んでいきたい。

こちらに続きます

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