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子連れ別居と実力行使による奪取の違い 誤解による萎縮を避けるために

離婚調停中の46歳の男、5歳の息子を車で連れ回す…妻がトイレに行った隙、札幌⇒登別で逮捕「子どもと遊んでいただけだ」

6日午前から7日早朝にかけ、5歳の息子を車で連れ回したとして、離婚調停中の46歳の男が逮捕されました。
未成年者誘拐の疑いで逮捕されたのは、北海道当別町に住む46歳の自称・パート従業員の男です。
この男は6日午前10時ごろから翌7日午前4時すぎまで、5歳の息子を車で連れ回した疑いが持たれています。
警察によりますと、男は40代の妻と離婚調停中で、息子は現在、妻と2人で暮らしています。
事件発生前、3人で会っていましたが、札幌市東区の店舗で妻が1人でトイレに行った隙に男と息子の行方が分からなくなりました。
妻から通報を受け、警察が行方を追ったところ、100キロ以上離れた登別市で男の車を発見、その場で逮捕しました。
息子に体調不良などはありません。
取り調べに対して46歳の自称・パート従業員の男は「子どもと会って遊んでいただけだ」などと話しているということです。
この家族をめぐっては、離婚調停になっているだけでなく、トラブルなどの相談、取り扱い歴も4回あり、警察は、引き続き経緯などを詳しく調べています。

DVやモラルハラスメント、あるいは子どもに対する児童虐待を受けた一方配偶者(子どもの主たる監護者である事案及び女性である事案が多い)が、子どもを連れて別居する行為について、他方配偶者が「自分は何もしていないのに、妻(夫)が勝手に子どもを連れて出て行った。誘拐だ」として非難するという事例が昨今、頻発しており、これに関して、芸能人や国会議員、ひいては弁護士をも巻き込んだ政治運動になっている。
しかしながら、DVやモラルハラスメントから避難するために、一方配偶者が他方配偶者に無断で子どもを連れて別居する行為は、原則として未成年者略取罪には当たらない。なぜなら、そのような別居は、自ら及び子どもの安全を確保するための行為に他ならないし、むしろ子どもの身の安全を確保するためには、子どもを置いていくと言う選択肢こそ不適切であるからである。
これについて、某国会議員が、未成年者略取罪に該当するという見解をネット上で示し、また一部弁護士は、子連れ別居された配偶者(その中には、DVやモラハラ、児童虐待を行っている者も一定数含まれるのではないかという疑念がある)から、相手方配偶者を刑事告訴する事案を多数受任している。
しかしながら、以前に掲載した記事

の通り、当該議員が引用する最高裁判例というのは、妻にDVを行った被告人が、妻が子を連れて実家に帰ったことから、実力行使によって子を奪取しようと企てたという事案である。従って、子連れ別居の当否について判示したものではない。
その後の裁判例を見てみると、
高松地判平成30年9月14日平成30年(わ)194号は、
「被告人が,交際相手から別れ話を告げられ,同女が元夫との間の子2名(以下「未成年者ら」という。)を保育園に迎えに来た機会に同女と話し合おうとしたが拒否されたため,同女に被告人との面談に応じさせる目的で,未成年者らが乗った自動車の運転席に乗り込んで同車を発進,走行させて約1時間13分にわたって未成年者らを略取した」という事案である。
裁判所は、「被告人と交際相手は,平成29年11月頃から交際を開始し,被告人は,平成30年2月頃,当時の勤務先を退職して交際相手が居住する高松市に転居して新たに就職し,遅くとも同女が元夫と離婚した同年4月頃以降,同女及び未成年者らの生活費を支援するため給料を交際相手に渡し,愛情をもって未成年者らに接し,交際相手の長女から「パパ」と呼ばれるなどしていたが,同年6月10日,交際相手から,被告人にとっては突然,理由らしい理由の説明もなく一方的に別れる旨告げられ,理由の説明も拒否されたものであり,被告人が,交際相手と話し合いたいと考えたこと自体は無理もないところである。
しかしながら,上記経緯によっても,交際相手が被告人との話合いを拒否する態度に出るや,被告人が,同女に被告人との面談に応じさせる目的で,未成年者らが乗った自動車の運転席に乗り込んで同車を発進,走行させて約1時間13分にわたって未成年者らを略取した行為を正当化できるものではなく,被告人は,知人から未成年者らを返すよう言われ,警察車両にも追跡されたのに高松市から離れる方向に自動車を走行させ,その間,信号無視など危険な運転もしており,犯行態様は危険かつ悪質で,被告人の刑責は軽くはない。」

この事案は、実子に対するものではない一方で、交際相手との別れ話に際して話し合いに応じさせる(その実質は、別れ話を撤回させることにあったものとみることができるだろう)ために、子どもをいわば人質のような形にして、実力行使によって奪取した事案であり、子どもを自己の要求を貫徹するための交渉材料としてしかみてないような態度は非難を免れないであろう。また、カーチェイスを行い、その過程で信号無視をするなど、子どもの安全を考えた行動とはほど遠く、正当化できるものではない。

高松地判令和2年3月26日令和2年(わ)36号は、
「被告人が,離婚後も元妻と交際を続け,実子である被害者とも頻繁に面会していたが,元妻から別れ話を持ち出された上,本件当日は朝から夕方まで被告人が被害者と一緒に過ごす約束をしていたのに,直前に元妻がそれを断ろうとしたことに腹を立て,翌日くらいまで被害者と一緒にいようと考えて,待合せ場所で被害者を被告人運転の自動車に乗車させて被害者を連れ去り,その後,元妻が,約束の時間になっても被告人が被害者を連れてこなかったために警察に届け出ると,被告人は,警察に捕まれば二度と被害者に会えなくなるなどと考えて,そのまま被害者を連れて友人宅などを点々として,約2日半の間,被害者を自己の支配下に置いて未成年者を略取した」という事案について、被告人に未成年者略取罪の成立を認めたものである。
裁判所は、「被告人の行動は,実子である被害者と一緒に居たいという気持ちからのもので,被害者に危害を加える意図はなかったとはいえ,1歳9か月の子を自動車に乗せて検問を突破した上,自損事故を起こして自動車を乗り捨て,雨が降る真冬の夜に野宿をするなど,客観的には被害者を危険にさらしたものであり,犯行態様は悪質である。元妻は被害者を心配し,2日以上も強い不安の中に置かれたものであり,被告人の厳罰を望むのも当然の心情である。また,元妻の心情や被害者の安全よりも自分の気持ちを優先させ,友人らから出頭して被害者を返すように忠告されながらも逃走を続けた動機及び経緯は身勝手である。」としている。

この事案は、離婚後一定期間は元妻との関係も良好であり、子どものとの面会交流もできていた被告人が、元妻との関係悪化を期に子どもと会えなくなると考えた結果、実力行使に及んで子どもを奪取した事案である。この事案においても、自損事故を起こして自動車を乗り捨て、雨が降る真冬の夜に野宿をするなど、1歳9ヶ月の子どもを養育する者としての自覚があまりに欠如した行動に終始している。子どもに対する愛情から出た行為というのは困難であり、自らの欲求を満たすためであると考えざるを得ない。
なお、上記の報道記事に対して、卓球の福原愛選手の事案を引き合いに出す投稿がTwitterにあふれているが、両者は全く事案を異にする。

このように、裁判例において未成年者略取罪に問われているのは、自己の要求を通すために実力行使に及んで子どもを奪取し、しかもその後の子どもの安全確保や安定した養育といった環境も整っていなかった事案が殆どである。
DVやモラルハラスメント、児童虐待にさらされた子どもを救うために、子どもを連れて避難する行為が、萎縮するようなことがあってはならない。「何もしていないのに」という申告が、本当に何もしていないのか、ウソをついているのか、DVやモラハラ、児童虐待の自覚がないだけなのか、そこは注意してもし過ぎることはない。

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