持続化給付金不正受給で緊急の人材募集が行われていたことが発覚
関わってしまった場合には、すぐに相談を! 持続化給付金100万円「詐欺」福岡で初の逮捕
既にこれらの記事において、持続化給付金の不正受給についてお伝えしてきた通りである。持続化給付金不正受給は、国に対する100万円の詐欺という重大な犯罪であり、組織的な関与が疑われる事案も少なくないことから、逮捕・勾留されるリスクは少なくない。もっとも、現状では、警察のマンパワーの問題もあり、首謀者や勧誘役など組織の中枢にいる人物はともかく、末端の不正受給者については、安定した勤務先があるとか、親族が身元引受書を提出するなどしている場合には、在宅のまま捜査が行われていることも多いというのが実感である。
さて、筆者は、たまたま見ていた中小企業庁のホームページで、興味深い求人を見かけた。以下をご覧いただきたい。
この募集要項を見ると、業務内容は、
1 詐欺罪(刑法第246条)等が成立するものと思料される持続化給付金の不正受給が疑われる事案について、警察等に対し国としての被害意思を通知するための行政文書の作成及びそれに関連する警察等との調整業務
2 刑事訴訟法第197条第2項に基づく捜査照会等の公的機関からの照会に関する文書の整理及び照会に対する回答の作成に関連する調整業務
3 持続化給付金規程第10条に基づく不正受給に関連する行政文書の作成・管理の補助業務
とされている。
1の業務は、わかりやすくいうと被害届の提出である。持続化給付金不正受給は、国を被害者とする詐欺事件であるので、国が被害届を提出する必要がある。理論的には、詐欺罪は親告罪ではないので、告訴がなくても起訴できるのであるが、そこはお役所仕事で、国相手でも被害申告の意思を確認してから、ということになるわけである。
2の業務は、平たくいうと、警察から質問が来たときに、回答する業務である。正式な文書で回答しないといけないので、役所は面倒な決裁を経ないといけないわけである。
3の業務は、他機関に対する通知などで、これは1や2に比べると付随的なものであると思われる。
こうした業務を担当するフルタイムの職員を、中小企業庁は2名募集しているわけである。また、法律事務所や行政書士事務所での事務経験の有無を採用にあたっては重視している。
つまり、わかりやすくいうと、被害届を作ったり、警察の問い合わせに答える人材を、わざわざ2名もフルタイムで募集しているわけである。これだけでも、どれだけ人が足りていないかがよく分かる話である。しかも給与は日額約1万2千円であり、東大病院の研修医と同じくらいの待遇である。
だが、よくよく考えたらおかしな話である。新型コロナウィルスで困窮する事業者を救済するための給付金として、国民の血税をつぎ込んでいるにもかかわらず、ザルというほかない審査のせいで組織的な不正受給を許し、それだけで税金を無駄づかいしているわけである。今度は、不正受給者を告発するためのマンパワーが足りないということで、また税金を使って人を雇おうとしているわけである。本来の目的以外にどれだけ税金を無為に垂れ流していることか。
これまで散々述べてきたように、持続化給付金不正受給は、国民の税金をつぎ込んでいるにもかかわらず、反社会的勢力の資金源を提供する結果になり、また多くの若者を犯罪に巻き込んでしまった。その処罰のために税金をさらに浪費するなど、恥の上塗りというほかない。政府は、「救済を優先するためだった、性善説で回していた」などと弁解している。しかし、金が絡む案件に性善説などあろうはずがない。このことについて、官僚も政治家も責任を取らないことは、腹立たしいという思いしかない。
その他のコラム
【日本人よ、これが検察だ!】 プレサンス社元社長冤罪事件の担当検察官に付審判決定

はじめに 我が国の刑事司法の転換点となるような事件が報道されている。 事件のもととなったプレサンス社元社長冤罪事件とは、ある学校法人の経営・買収に関連して業務上横領が行われ、それに関与したとして、資金提供元のプレサンス社の社長であった山岸忍氏が共犯として逮捕・起訴されたというものである。 この事件では、まず、捜査を担当していた大阪地検特捜部によって、プレサンス社の従業員K及び不動産管理会社代表取締役Yが逮捕され、これらの...
最判令和6年12月23日令和5年(受)1583号 ログイン情報の開示範囲

事案の概要 本件は、Instagramによって自己の権利を侵害されたとするXが、権利侵害者Aのアカウントへのログイン情報8回分について、経由プロバイダであるYに対し、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を求める事案である。 原審は、投稿が令和3年改正法施行前に行われていたことから、改正前の同法4条1項の規定が適用され、ログインした者と投稿者が同一人であることからすれば、いずれのログイン情報も「権利の侵害に係...
最決令和7年3月3日令和6年(許)31号 宗教法人の解散命令における「法令違反」の意義

事案の概要 本件は、いわゆる統一教会(以下、「教団」という)の解散命令に関連する事案であり、文部科学大臣が解散命令請求を行うに当たって報告を求めたのに対して教団が一部事項についての報告を拒絶したことから、文部科学大臣が過料の制裁を裁判所に請求したというものである。宗教法人法上、解散命令の事由が存在する疑いがある場合に報告を求めることができるとされているため、本件は、言ってみれば、解散命令を巡る攻防の前哨戦とも言うべき事案であ...
外国人の勾留理由開示請求やってみた

戸舘圭之弁護士の「勾留理由開示を活かす」を購入したこともあり、久留米簡易裁判所で、外国人の被疑事件(全面否認)について、久々に勾留理由開示請求をやってきたので報告。以下は全て公開法廷におけるやり取りである。 1 事件番号は令和7年(る)第2号。相変わらず低調な利用であるが、私の前に誰かやった人が一応いるらしい。 2 裁判官は、ちゃんと勾留状を発布した人が出てきた。当職の経験上、別の裁判官が対応したのは福岡簡裁の1件のみで、...
【絶対的権力は絶対に腐敗する】ジャニーズ調査報告書を読んだ感想【圧倒的独裁者】

[embed]https://youtu.be/vO2WJwqkOCU[/embed] ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.への性加害疑惑について、令和5年8月29日に調査報告書が公表された。その内容を読んで明らかになるのは、ジャニーズ事務所におけるジャニー喜多川氏の圧倒的な独裁体制と、ジャニー喜多川氏がジャニーズJr.の生殺与奪の権を握る圧倒的な支配の構図であった。 71頁に渡る調査報告書の内容をわかりやすく解説し、...