続報 福岡で持続化給付金詐欺の摘発相次ぐ
先日よりお伝えしている持続化給付金詐欺について、当地、福岡で、逮捕者が続出している。3の報道記事を紹介する。なお、逮捕段階であることを考慮し、個人名については*にて置き換えた。
1月9日 西日本新聞
持続化給付金詐取の疑い 男2人逮捕 福岡県警
福岡県警は8日、新型コロナウイルス対策の国の持続化給付金をだまし取ったとして、詐欺の疑いで、自営業*(23)=住所不定、建設作業員*(32)=北九州市小倉北区香春口1丁目=の両容疑者を逮捕したと発表した。県警は2人が約20件の不正受給に関与したとみて調べる。
2人の逮捕容疑は昨年7月、同市の溶接工の少年(19)が介護事業を営む個人事業主だと装い、前年から売り上げが減ったとする虚偽の申請をして、給付金100万円をだまし取った疑い。県警は2人の認否を明らかにしていない。
県警によると、少年の取り分は4割で残りを両容疑者らが受け取っていた。*容疑者は自身が経営していた人材派遣業の従業員らを不正申請に勧誘し、*容疑者が申請方法を教えていたとみている。 (小川勝也)
1月13日 Cubeニュース
持続化給付金詐欺の指示役逮捕 1億6000万円不正受給か
福岡県警などは、新型コロナ関連の給付金を狙った詐欺グループの摘発を進めていて、13日、指示役とされる岡山県の男らを逮捕しました。不正受給の総額は、1億6000万円に上るとみられます。
逮捕されたのは、岡山市に住むコンサルタント業の*容疑者(54)ら3人です。*容疑者らは去年6月、大分県の男子大学生が個人事業主だといううその書類を使って、国の持続化給付金100万円をだまし取った疑いが持たれています。
大学生の親族からの通報をもとに、福岡県警などはこれまでに男3人を逮捕していて、*容疑者はグループの指示役とみられています。グループは、新型コロナで収入が減ったと装い、不正受給を組織的に繰り返したとみられ、総額は1億6000万円に上るということです。(13日14:14)
1月14日 西日本新聞
分け前巡る監禁で発覚、給付金詐欺容疑で少年ら4人逮捕 福岡県警
新型コロナウイルス対策の国の持続化給付金をだまし取ったとして、福岡県警は14日、詐欺の疑いで、建設会社(福岡市)の実質的経営者の40代の男や少年ら4人を逮捕した。捜査関係者への取材で分かった。男らは、少なくとも数十件の不正受給を繰り返した疑いがあるという。給付金の取り分を巡ってトラブルになり、少年が監禁事件を起こしたことで発覚した。
捜査関係者などによると、男らは昨年夏ごろ、10~20代の知人らに「コロナの給付金がもらえる」と不正申請を持ち掛けた。受給した給付金100万円のうち、申請者の取り分は40万円ほどで、残りを手数料などとして受け取っていた。別の知人を紹介した申請者には、紹介料を渡していたという。男が指示役、少年が勧誘役で、他に申請手続き役がいるとみられる。
西日本新聞の取材に対し、少年に声を掛けられて不正受給した男性は「免許証のコピーなどを渡せば手続きは全部やってくれた。自分が知っているだけで、10人以上が不正申請した」と証言した。
発覚のきっかけになった監禁事件は昨年7月中旬に発生。勧誘した知人男性が100万円全額を持ち去ろうとしたことに立腹した少年が、男性を車に監禁して分け前の支払いを迫ったという。
男性から連絡を受けた親族が県警に通報。少年は駆け付けた警察官に監禁容疑で逮捕され、少年院に送致された。県警は、この事件の捜査の過程で、男らが持続化給付金の不正申請を繰り返した疑いがあることを把握し、捜査していた。
持続化給付金を巡っては、県警はこれまでに、詐欺容疑で他の2グループの計9人を逮捕している。(山口新太郎、田中早紀、長松院ゆりか)
これらの報道を見ると、持続化給付金詐欺にはいくつか特徴があることが分かる。ひとつは、SNSや口コミなどで不正受給を実際に行う者を集めている点である。こうした人は、「書類を出すだけで簡単にお金が儲かる」などと言われ、生活苦などから安易に不正受給に関わってしまっていることが推測される。しかし、実際には半分以上を首謀者に渡すことになる反面、発覚した際には全額の返金を国から求められるなど、実際に損をするのは申請者本人である。もちろん、刑事事件として立件された場合には、申請者本人が処罰を受けることになるわけである。申請者には、10代~20代の若者も少なくないと言われており、実際、上記の報道を見ても、申請者は若者が多数を占める。確定申告の仕組みや給付金の受給要件などを正しく理解しておらず、もうけ話に安易に飛びついてしまっている実態がうかがえる。特殊詐欺の受け子・出し子や、マルチ商法に関与する層との重複も指摘されている。
またいずれの事案も、多数の余罪が存在することが示唆されており、組織的な関与が疑われるところである。他県の事例では、現職の税理士が持続化給付金詐欺を指南したとして逮捕されるなどしており、半グレや暴力団関係者などの反社会的勢力の関与も強く疑われるところである。
さらに、最後の事例を見れば明らかなように、持続化給付金詐欺に関与してしまったがために、さらに別の犯罪に手を染めることになってしまうケースもある。このように、持続化給付金詐欺は、国に対する100万円の詐欺という重大犯罪であるだけでなく、犯罪組織との関わりや、他の犯罪を行ってしまうリスクなど、極めてリスクの高い行為である。
では、こうした持続化給付金詐欺に関わってしまった場合について、どうすればよいか、ということである。私は既に、こちらの記事で、早期に弁護士に相談することの重要性について述べているので、こちらを参照していただければ幸いである。
持続化給付金の不正受給(詐欺)について
関わってしまった場合には、すぐに相談を! 持続化給付金100万円「詐欺」福岡で初の逮捕
現時点で警察から捜査を受けていないとか、逮捕されていないからといって、安心はできない。というのも、全国的に何百件、何千件という不正受給が発生しているため、中小企業庁や警察もマンパワーの不足で被害申告や捜査が進んでいないだけだろうと推測されるからである。他方で、持続化給付金詐欺申請に関する書類は全て記録として国の手許にあり、個人事業主であるかどうかを調べることは比較的容易であるから、振り込め詐欺などの他の詐欺に比較して、持続化給付金詐欺は証拠によって証明することが容易、逆に言えば言い逃れできないことが多い、ということがいえると思われる。特に、自ら申請しただけでなく、他人に不正受給を持ちかけたような場合には、共犯者との口裏合わせなどを疑われる可能性もその分高まるから、注意が必要である。
少しでも心当たりがある場合は、すぐに弁護士に相談することをお勧めする。
その他のコラム
上訴権放棄・上訴の取下げ
日本は三審制を採っているので、第一審、第二審判決に対しては不服の申立ができ、第一審判決に対する不服の申立を控訴、第二審判決に対する不服の申立を上告と呼んでいる。控訴と上告を合わせて「上訴」と呼んでいる。 第一審判決が実刑判決であったものの、控訴しても勝算が薄い場合には、上訴権を放棄してしまうことがしばしば行われる。通常であれば、判決から2週間は上訴期間であるため、判決は確定しない。上訴権を放棄すると、その分、判決の確定が早ま...
持続化給付金不正受給の判決をみる
まずはこちらの記事をご覧いただきたい。 沖縄タイムス元社員に有罪判決 コロナ給付金不正「安易かつ身勝手」 那覇地裁 沖縄タイムス元社員に執行猶予付き有罪判決 コロナ給付金詐欺 沖縄タイムス社の元社員が、持続化給付金の不正受給を行っていたとして起訴された事件で、那覇地裁は、懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡したとのことである。 記事によれば、被告人は自ら警察に出頭し、全額を返還し...
立川ホテル殺人事件 少年の実名報道を繰り返す週刊新潮に抗議する
繰り返される暴挙 東京都立川市にあるラブホテルの一室で、デリヘル嬢が19歳の少年に刺殺され、男性従業員が重傷を負うという事件が発生した。この事件については、当事務所のコラムでも取り扱った。 さて、この事件に関して、週刊新潮6月17日号は、「凶悪の来歴」「70カ所メッタ刺し!立川風俗嬢殺害少年の「闇に埋もれる素顔」」などと題して、少年の実名と顔写真を大々的に掲載した。 週刊新潮が、少年事件において、少年法61条を無視して少...
持続化給付金の不正受給(詐欺)について
はじめに 新型コロナウイルスにより、売上高が減少した個人事業主などを救済するための、持続化給付金という制度が悪用されている。困ったことに、犯罪組織などの反社会的集団が、言い金儲けの手段として目を付け、普段は犯罪とは無縁な一般人を言葉巧みに誘い、犯罪に走らせるという出来事が全国で無数に発生している。今回は、持続化給付金の不正受給について、手口や、万一関わってしまった場合の問題点、国の対応に対する疑問などについて述べていきたい。...
司法試験のPC入力への変更に思うこと 人間の能力は道具によって引き出される
司法試験が手書きからPC入力へ 司法試験が、手書きによる答案作成からPC入力に移行するという報道がなされた。 私が司法試験を受けた頃は、受験用にモンブランのボールペンや万年筆を購入することも珍しくなかった。手が疲れるとか肩が凝るとか、実に意味のない苦労を強いられた。それがなくなるというわけだ。 方向性には基本的に賛成 だから、手書きを辞めてPC入力にするという方向性自体には、基本的に賛成である。...