続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ14 100件突破 持続化給付金判例百選なるか
持続化給付金はじめに
持続化給付金の不正受給について、一般の方や、全国で同種事案の弁護人をされる先生方の参考になるよう、持続化給付金の判決について、情報収集を行い、分析を続けている。前回の記事から、さらにいくつかの判決に関する情報を入手した。
これまでの過去記事は以下をご覧いただきたい。
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ13 大型事件の傾向未だ見えず
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ12 新たな展開
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ11 重い量刑が続く
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ10 実刑と執行猶予の狭間で
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ9 第一波と第二波の端境期
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ8 役割分担の評価の難しさ
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ7 小康状態は捜査の遅延か
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ6 執行猶予判決の増加は「第2波」の到来を予感
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ5 背景事情の多様化 20210917
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ4 徐々に増える実刑判決 20210804
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ3 不可解な地域差 20210703
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ2 20210616
【速報】 持続化給付金詐欺 の判決まとめ 20210429
やや件数が鈍ってきたこともあり、前回からかなり時間が経過した。その間に件数が100件を超えたため、年内の総まとめと言うことで記事を掲載することとした。
報道発表から読み取れる範囲で一覧表を作成しており、役割や被害弁償、分け前などについては一部、推測に渡るものも含まれている。また、本稿掲載時点で検察官による求刑まで行われ、判決言渡未了のものについても参考のために掲載した。
ちなみに、これらの判決の中で、当職が弁護人として関与しているものは104のみであるが、公判廷に顕出された情報のみを記載する。
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判決内容
前回から17件(判決17件)増加し、執行猶予付判決が9件、実刑判決は8件となった。15件のうち、3件は控訴審、6件が高裁所在地の地方裁判所、6件がそれ以外の地方裁判所本庁、2件が支部の事件である。
判決の分析
判決90は、判決104を首謀者とする事件であり、判決90は申請名義人である。興味深いのは、被告人は返還手続が未了であったものの、いずれの判決でも、近い将来に確実に返金が見込まれることを理由に、返金されたものとして取り扱うことが判決で明示されたことである。裁判官も、国による返還の手続が処理遅滞に陥っていることは、ようやく認識するようになってきたものと思われ、そのことを踏まえ、迅速な裁判との兼ね合いを考慮して、実質的な判断がなされている。具体的にどの程度の段階まで進んでいれば、近い将来に確実に返金が見込まれるといえるのか、という問題はあるものの、返金の原資が確保され、お金を弁護人が預かり保管する合意ができているなど、他の用途に流用されないことが担保されていることが必要であると思われる。
判決91は、暴力団員が、組員であることを秘して給付金を申請したという事案であり、欺罔行為の内容が典型的な事案とはやや異なる。もっとも、支給要件を満たしていないものについて申請を行ったという意味では特に相違なく、判決の結論も、通常の事案と大きく異なるものではない。
判決92は、慶応大学生による11件の詐欺事件の控訴審であり、原判決後の事情を考慮して、一審の実刑判決を破棄して執行猶予付判決としたものである。報道では、返金を進めたことやボランティア活動を行ったことなどが考慮されたとされているものの、件数から見て返金をしても原則は実刑となる事案であり、ボランティア活動を2項破棄の要件として考慮するのはおかしい。当職が担当した判決104と比較しても、軽すぎるという印象は拭えない。唯一、差異を見いだすとすれば、104は若年とは言え大学を卒業して社会人であったのに対して、92は現役大学生であり、精神的により未熟で可塑性がより高いということに尽きようか。
判決93は、起訴されているだけでも37件と大がかりな不正受給グループについて、首謀者的地位にあったと思われる被告人の事案である。30件を超えている事案は少ないものの、20件台の事案との比較からみると、懲役5年6月との結論は妥当なもののように思われる。
判決94~判決96は、同一事件の共犯者同士である。家賃支援給付金の不正受給と併せて3769万円が被害額とされており、全員に実刑が言い渡されている。偽ブランド品の余罪もあるものの、これは大勢に影響を与えるほどのものではないように思われる。判決93と比較すると総じて軽い。判決文を入手していないため詳細は不明であるものの、被害弁償の状況などが異なっているのではないかとも思われる。役割分担とその評価についても気になるところではある。
判決97も、33件と大型の事件である。勧誘役とされているものの、量刑から見る限りは首謀者的地位に近いのかとも思われる。但し、東北地方の裁判所であり、不思議なことに東北地方は何故か量刑が重い傾向にあるので、神戸地裁の判決と比べて、重めに量定されている可能性もありうる。
判決98は、8件の事案で、実刑判決が選択されている。年齢等から前科前歴はないのではないかとも思われるところ、10件を下回っている事案で実刑となるのはやや重いようにも思われる。前科前歴があるのでなければ、被害弁償の状況等が影響した可能性はある。
判決99、判決100は、いずれも大がかりな不正受給グループの事案であり、ギリギリのところで執行猶予が選択されている。件数が7件と微妙なラインである一方で、いずれも中心的な位置づけであるものの、上位者の指示に従って犯行を行ったとされており、役割分担としては従属的な部類に含まれると言えること、いずれも若年で、国家公務員ないし証券会社社員として稼働しており、いずれも懲戒免職処分となるなど社会的制裁も受けたことなどが、実刑を回避した理由と思われる。
判決101は、判決86の控訴審であり、衆議院議員事務所スタッフによる犯行として世間の注目を集めたものである。原審では故意を否認していたものの、控訴審になって認めに転じた。しかし、判決自体は、量刑不当はなく、一審判決後の事情も破棄するほどの理由にはならないとして、控訴棄却されている。
3件で実刑は重すぎるようにも思われるが、その理由は、原審の判決文を見る限り、被告人が平成23年9月にも詐欺罪により懲役1年6月の実刑判決を受けたという同種前科の存在が挙げられる。法的にはともかく、政治的には、そのような人物をスタッフとして使用していたことについての説明責任が生じると言えるだろう。
判決102、判決103は、判決99、100などと同じ系列の組織的な不正受給にかかるものである。99、100と比較して件数も少なく、関与の程度もそれほど高くないと思われる。判決103は、それでも懲役3年執行猶予5年とギリギリのところで執行猶予となっているが、これは、東京国税局職員という立場や知識を悪用した点が重く評価されているのではないかと思われる。
判決104は、当職が弁護人を務めた事案である。計画立案から一部の勧誘、書類作成等を行っていた紛れもない首謀者であり、10件という件数から実刑はやむを得ないと見込まれる事案であった。弁護人としては、親族の協力の下で受け取った手数料は全て返還の上、若年で可塑性があること、元々マルチ商法の勧誘員をしていたところ、それは大学時代に自身が勧誘され、普通の仕事に就くよりも稼げると軽信したためであって、そうした精神的な未熟さが背景にあること、保釈後は倉庫作業員として真面目に稼働したこと、親族2名及び雇用主が情状証人として出廷したことなど、可能な限りの情状立証に努めたものの、執行猶予を付するまでには至らなかった。それでも、検察官の懲役5年の求刑に対して懲役2年8月と、ほぼ半分まで期間を短縮している。ちなみに控訴せず確定した。
判決105、判決106は同一の事件であり、106は105の控訴審である。7件の事件で、一審は実刑であったものの、控訴審では共犯者への手数料の返金を進めたことなどが評価され、執行猶予付判決となっている。
一審の係属中に返金ができなかった具体的事情については不明である(親族からの援助やアルバイトで判決後にお金を準備したように判決文からは読める)ものの、基本的には一審の段階で、被害弁償も含めてやることは尽くすというのが基本的なスタイルであろう。控訴審でどのような立証を行うべきか、という点について、大いに参考となる判決である。
100件を振り返って
本稿で判決がついに100件を突破し、「持続化給付金判例百選」が作れるようになった。よく考えてみれば、大変嘆かわしいことである。
持続化給付金が支給されていたのが、令和2年5月~7月頃であったため、本稿執筆時点で既に事件から2年半が経過しようとしている。それでも、現在も係属中の事件は多数存在し、ようやく首謀者が逮捕されるなどして事件が動き出したもの、いまだ捜査中のものなど数え切れない。
金の匂いがするところに性善説などあり得ず、簡易迅速な手続での救済というお題目の下、ザルとしか言いようのない審査体制で漫然と給付金を支払ったツケがここに来ているといえる。それは血税を無駄にしたのみならず、詐欺が新たな利権の温床となり、あたら若い人材が、一時の気の迷いから犯罪に手を染めることを誘発してしまった。そういう意味で、政治の責任は思い。
なお、100件突破を記念して、100件をマクロに分析し、結果を別記事に掲載する予定である。
まとめ
前回も記載したとおり、持続化給付金不正受給は、初犯でも実刑の可能性がありうる事件類型である。
また、他の犯罪類型と比較すると、相応の学歴や社会的地位があり、家族や安定した勤務先を有する者がこの犯罪に手を染めていることも珍しくない。こういう場合、突如として逮捕・勾留され、長期間にわたって接見禁止となることにより、家族や仕事に与える影響は甚大であり、被疑者段階あるいは起訴後の保釈段階の弁護活動も重要になってくる。これらについては機動力が求められ、弁護士によって対応が異なってくるため、依頼する弁護士は慎重に選んだ方がよい。安易に、全国展開しているとか弁護士の人数が多いとか元検事の弁護士がいると言うだけで決めるというのは、あまりおすすめしない。
現在でも、持続化給付金詐欺の逮捕報道は連日行われている。また、量刑に際しての考慮要素については、事案の集積により分析が進んで来つつあるものの、総じて量刑は重くなる傾向にあるようである。このため、特に実刑と執行猶予の境界にある事案では、量刑に関する的確な主張・立証を行うため、早期に弁護士に相談の上、今後の対応を検討する必要がある。
また、実刑判決が見込まれる場合には、控訴するかどうか、再保釈の請求をするかどうかなど、一審の段階から十分に検討しておくことが肝要である。
事件から2年半を経過したものの、どうやら感染症以上に持続化給付金の不正受給を巡る事件は収束の兆しを見せない。事件を半分忘れかけ、通常の社会生活を送っているところで、突如として警察の捜査対象になる、という事態も考えられる。そうした際の不利益を最小限に留めるためには、早期に弁護士に相談の上、何かあった際にはすぐに対応できるよう、事前に準備しておくことが重要である。
ご依頼を検討中の方に~当事務所の方針
最後に、最近、問い合わせを受けることが多くなっているので、持続化給付金の不正受給に関する依頼を検討されている方に、当事務所の基本的な方針をお伝えしておきます。
被疑者段階
被疑者段階での依頼については、警察署等への接見が必要となってくるため、ある程度の地理的制約があります。このため、あまりに遠方の事件についてはお断りすることもあります。但し、現地に知り合いの弁護士がいる場合には、共同で受任して、接見は専ら現地の先生にお願いするという形で受任することは可能ですので、まずはお問い合わせいただければと思います。
当職が受任した場合、遠方に接見に行く場合には、交通費実費と日当をいただきます。日当については、距離や所要時間などによって異なってくるので、詳細は個別にお問い合わせください。
なお、正式に依頼するかどうかは未定であるものの、とりあえず一度接見に行った上で、今後の弁護方針に関するセカンドオピニオンを提供するということも可能です。こちらについては、日程が合う限りにおいて、全国対応が可能です。実際、令和3年度も、遠方での接見やセカンドオピニオンのご相談を複数、受任しています。弁護士費用及び日当、交通費については、個別にお問い合わせください。
被告人段階 第一審
起訴後からでも、勿論ご依頼は可能です。この場合、被疑者段階よりは接見頻度も少ないことが想定されるため、被疑者段階よりは、遠方のご依頼でもご負担は少ないと思います。保釈により釈放された場合には、テレビ電話等での打ち合わせも可能です。弁護士費用については、件数や認否、事案の複雑さによって変わってきますので、個別にご相談下さい。
被疑者段階同様、セカンドオピニオンのご依頼も歓迎です。
被告人段階 控訴審 上告審
控訴審、上告審のご依頼も可能です。
まず、第一審の判決謄本等を検討した上で、控訴に関する見通しについて意見を述べるという形でご依頼いただくことが可能です。
控訴審は、通常の事案であれば、弁論を1回開いて結審し、第2回で判決言渡しになることが多いため、遠方の事案でも、期日のために出廷する回数は2回となることが多いです。ただ、接見や保釈請求等の関係で出張が必要となることもあります。
第一審判決が実刑であった場合、保釈中でもそのまま拘置所に収監されることが多く、この場合は、控訴審での再度の保釈請求を行う必要があります。控訴審の保釈は、一審に比較して要件が厳格であり、また保釈金額も一審よりも高額に設定されることが多いと言えます。このため、保釈の必要性について詳細な事情をお伺いした上で、速やかに証拠をそろえて保釈請求を行う必要が出てきます。
判決文・報道記事提供のお願い
データベースを充実させるため、持続化給付金不正受給に関する判決文や報道記事をご提供いただける方を探しています。
こちらからお願いいたします。
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