続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ9 第一波と第二波の端境期
はじめに
持続化給付金の不正受給について、一般の方や、全国で同種事案の弁護人をされる先生方の参考になるよう、持続化給付金の判決について、情報収集を行い、分析を続けている。前回の記事から、さらにいくつかの判決に関する情報を入手した。
これまでの過去記事は以下をご覧いただきたい。
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ8 役割分担の評価の難しさ
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【速報】 持続化給付金詐欺 の判決まとめ 20210429
前回から約1箇月を経過し、新たな事案が集積されてきたため、さらに分析を行いたい。
報道発表から読み取れる範囲で一覧表を作成しており、役割や被害弁償、分け前などについては一部、推測に渡るものも含まれている。また、本稿掲載時点で検察官による求刑まで行われ、判決言渡未了のものについても参考のために掲載した。
ちなみに、これらの判決の中で、当職が弁護人として関与しているものは存在しない。
最新の一覧表はこちら
判決内容
前回から5件(判決5件)増加し、執行猶予付判決が3件、実刑判決は2件となった。5件のうち、1件が高裁所在地の地方裁判所、4件がそれ以外の地方裁判所本庁、支部の事件はゼロである。
判決の分析
判決61は、1件の詐欺に関する事例であり、報道発表では明言されていないものの、末端の申請役であると考えられる。懲役1年6月執行猶予4年と、申請役1件の量刑としては平均的な水準になっている。
判決62及び63は、同一事件の共犯者同士である。被害額は、報道発表では800万円とされているものの、何件が起訴されたのかは必ずしも明らかではない。事案としては、建設会社社長である被告人と、同社事務員である被告人が共謀の上、会社を用いて組織的に不正受給を行っていたというものである。社長である被告人には、本件を主導したとして懲役2年6月の実刑判決が、事務員である被告人には、社長からの支持で書類作成を行うに過ぎない従属的な立場であったことも考慮して、懲役2年6月執行猶予4年の判決が言い渡されている。共犯者間の役割の軽重が量刑に大きく影響しており、それぞれの立場を踏まえた場合、量刑自体はこれまでの傾向と大きく異なるものではないと思われる。
判決64は、事案の詳細が不明であるものの、11件の不正受給に関与した被告人について、実刑判決が言い渡された事案である。これまで述べてきたとおり、首謀者又はそれに準じるような立場に属する者の場合、全額返金を行ったとしても執行猶予が付くかどうかが微妙になってくるラインとしては、やはり10件をひとつの目安と考えるのが相当であろう。
判決65は、やはり申請役1件の事案であり、懲役1年6月執行猶予5年とされている。執行猶予期間がやや長い点は少し気になるものの、無職であり、今後の生計や返金に不安があることなどが考慮された可能性が考えられる。
なお、前回以降、判決全文を新たに入手できた事例はない。
年齢・職業
20代が34人、30代が16人、40代が8人、50代が2人、60代が1人、70代が1人であり、平均は31.77歳と、依然として若年者が圧倒的に多く、平均年齢も低い傾向にある。今回紹介した事例は、いずれも20代ないし30代である。
裁判経過からうかがえる現在の進捗状況
今回は、末端の申請役に過ぎない事例と、首謀者的地位にある者の事例とが、同程度見られる結果となった。
これまでの傾向を見る限り、持続化給付金詐欺については、詐欺を企画・立案する首謀者、首謀者から依頼を受け、書類作成や勧誘等を行う中間管理職的地位の者、そして、末端で自己名義による申請を専ら行う申請名義人と、大まかに3類型のポジションに分類される(実際には、それぞれの境界は必ずしも明確ではないため、厳密な区分ではなく、あくまで便宜上の振り分けである)。
当然ながら、首謀者的地位にあればあるほど、検討すべき証拠の量も膨大になってくるほか、そういう者はいざという時のために弁解を用意しているものであるから、捜査自体も慎重にならざるを得ない。加えて、単純に事件の数が多いと、それだけで捜査・公判に時間を要することとなる。これに対して、件数の少なく、分担した行為自体が単純な者については、捜査にもそこまで時間を要しない。
また、持続化給付金詐欺発覚の経緯は、末端の申請役が警察や中小企業庁に対して不正受給を申告することからスタートすることが多いため、捜査に着手するタイミングにもズレがある。
このようなことから、現在、審理が行われ、判決の言渡しに至っている事案は、首謀者的地位にある者は、かなり早期の段階、具体的には令和2年の末頃から令和3年の初頭にかけて捜査が始まった事例である一方で、末端の申請役については、それよりも遅い段階で捜査が行われるようになった事例であると考えられる。首謀者的地位にある者の場合は、起訴されてから結審まで1年程度かかることも珍しくなく、その間に、別のルートの申請名義人に関する裁判が終わってしまうというサイクルとなっていると思われる。
そして、ここからが重要であるが、詐欺罪の公訴時効は7年のため、恐らく、捜査機関としては、公訴時効ギリギリまで、第一波、第二波と分けて捜査を行う予定としているのではないかと思われるところである。実際には、証人の記憶の現逮や証拠の散逸といった問題はありうるものの、不正受給に関する客観的証拠の多くは中小企業庁が保有している現状に鑑みると、事件からかなり時間が経ってからの立件というのも十分考えられるところである。現在は、第一波の首謀者的地位にある者と、第二波の末端にある者との端境期にあるものと見るべきではないかと思われる。
今後の見通し
本稿掲載時点で65件の裁判例を紹介し、また他の給付金の詐欺についても、情報収集が進んでいる。
現時点では、量刑傾向として、①件数及び被害額並びに返金状況、②共犯者間における役割がとりわけ重視され、受け取った報酬額は、②を判断するに当たっての考慮要素として用いられる傾向がある(独立して量刑を左右するほど重視はされていない)のではないかと思われるところである。年齢や前科前歴、反省の有無などについては、一般情状として全く考慮されていないわけではないものの、同種前科が複数あるような場合を除いては、他の一般刑法犯と比較しても、考慮の程度は大きくないように思われる。
恐らく本年中頃には、掲載件数が100件に到達すると思われるため、それくらいをひとつの目処として、量刑傾向に関する総括的な分析と、他の類型(振り込め詐欺等)との比較を行った結果を発表することとしたい。
まとめ
前回も記載したとおり、持続化給付金不正受給は、初犯でも実刑の可能性がありうる事件類型である。
また、他の犯罪類型と比較すると、相応の学歴や社会的地位があり、家族や安定した勤務先を有する者がこの犯罪に手を染めていることも珍しくない。こういう場合、突如として逮捕・勾留され、長期間にわたって接見禁止となることにより、家族や仕事に与える影響は甚大であり、被疑者段階あるいは起訴後の保釈段階の弁護活動も重要になってくる。これらについては機動力が求められ、弁護士によって対応が異なってくるため、依頼する弁護士は慎重に選んだ方がよい。安易に、全国展開しているとか弁護士の人数が多いとか元検事の弁護士がいると言うだけで決めるというのは、あまりおすすめしない。
現在でも、持続化給付金詐欺の逮捕報道は連日行われており、捜査が早いところでは、第二波の立件が始まっているようである。通常の詐欺事件よりも、証拠が多数、捜査機関の手許に存在する可能性が高い類型であることから見て、現時点で警察の捜査を受けていないからといって安心できるようなものではなく、仮に関与してしまっているということであれば、早期に弁護士に相談の上、今後の対応を検討する必要がある。
ご依頼を検討中の方に~当事務所の方針
最後に、最近、問い合わせを受けることが多くなっているので、持続化給付金の不正受給に関する依頼を検討されている方に、当事務所の基本的な方針をお伝えしておきます。
被疑者段階
被疑者段階での依頼については、警察署等への接見が必要となってくるため、ある程度の地理的制約があります。このため、あまりに遠方の事件についてはお断りすることもあります。但し、現地に知り合いの弁護士がいる場合には、共同で受任して、接見は専ら現地の先生にお願いするという形で受任することは可能ですので、まずはお問い合わせいただければと思います。
当職が受任した場合、遠方に接見に行く場合には、交通費実費と日当をいただきます。日当については、距離や所要時間などによって異なってくるので、詳細は個別にお問い合わせください。
なお、正式に依頼するかどうかは未定であるものの、とりあえず一度接見に行った上で、今後の弁護方針に関するセカンドオピニオンを提供するということも可能です。こちらについては、日程が合う限りにおいて、全国対応が可能です。実際、令和3年度も、遠方での接見やセカンドオピニオンのご相談を複数、受任しています。弁護士費用及び日当、交通費については、個別にお問い合わせください。
被告人段階 第一審
起訴後からでも、勿論ご依頼は可能です。この場合、被疑者段階よりは接見頻度も少ないことが想定されるため、被疑者段階よりは、遠方のご依頼でもご負担は少ないと思います。保釈により釈放された場合には、テレビ電話等での打ち合わせも可能です。弁護士費用については、件数や認否、事案の複雑さによって変わってきますので、個別にご相談下さい。
被疑者段階同様、セカンドオピニオンのご依頼も歓迎です。
被告人段階 控訴審 上告審
控訴審、上告審のご依頼も可能です。
まず、第一審の判決謄本等を検討した上で、控訴に関する見通しについて意見を述べるという形でご依頼いただくことが可能です。
控訴審は、通常の事案であれば、弁論を1回開いて結審し、第2回で判決言渡しになることが多いため、遠方の事案でも、期日のために出廷する回数は2回となることが多いです。ただ、接見や保釈請求等の関係で出張が必要となることもあります。
第一審判決が実刑であった場合、保釈中でもそのまま拘置所に収監されることが多く、この場合は、控訴審での再度の保釈請求を行う必要があります。控訴審の保釈は、一審に比較して要件が厳格であり、また保釈金額も一審よりも高額に設定されることが多いと言えます。このため、保釈の必要性について詳細な事情をお伺いした上で、速やかに証拠をそろえて保釈請求を行う必要が出てきます。
判決文・報道記事提供のお願い
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こちらからお願いいたします。
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