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不見識極まりない検察官 薬物事犯における一部執行猶予を巡る目を疑うような主張

はじめに

昨今、検察官の質の劣化が指摘されて久しい。当地においても例外ではなく、証拠開示の遅延、書面の提出期限を守らないといった手続的な側面から、尋問における拙劣な質問や、自ら秘匿決定を申し立てておきながら、質問の中で被害者のプライバシーを自ら口にするなど、枚挙に暇がない。

そのような中、本件では、検察官の業務の中でも最もメジャーな部類に属する薬物事犯の情状立証において、法に対する無理解、無知を露呈するとしかいいようのない主張に接することとなった。あまりに閉口してしまう内容だったので、全国の刑事弁護人にも問題意識を共有してもらいたいと思い、記事にする次第である。

事案の概要

被告人は、複数の薬物前科があり、本件でも覚醒剤の自己使用で起訴された。被告人には、薬物以外にも、アルコール依存症や、アルコールと市販薬の併用による乱用といった問題がある。

当職は、本人が「出所後はグループホームなどで生活したい」という意向を有していることから、薬物依存の支援団体に連絡し、いわゆる更生支援計画書を作成してもらうと同時に、団体職員を情状証人として尋問請求した。

検察官の行った論告

これに対して、検察官は、以下のような論告を行った。

被告人の常習性や依存性は顕著であることから、再犯の可能性が高い上、被告人が覚醒剤を使用してしまう原因は、要するに依存性にあり、覚醒剤との関係を断ち切るためには、被告人のアルコール依存症も断ち切る必要があるところ、覚醒剤よりも入手が容易なアルコールがある社会内において、覚醒剤及びアルコールの依存を改善させることは困難である。
被告人が覚醒剤を断ち切るためには、覚醒剤やアルコールを一切入手できない環境に身をおくべきであり、A(注:支援団体のこと。当職において匿名化した)による福祉的な支援環境が整っているとしても、この点は、被告人については、有用性に乏しいものと考えられる。
そうであれば、被告人においては、刑の一部を社会内更生に当てる必要性はなく、また、相当ではないといえる。
したがって、一部執行猶予判決は相当ではない。

考察

薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律は、一定の薬物事犯において、刑の一部執行猶予の要件を変更している。すなわち、前刑終了後5年以内の再犯の事例であっても、一部執行猶予を認める余地を残すように要件を緩和した上で、「刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施すること」が再犯防止のために必要かつ相当であることを求め(法3条)、かつ、一部執行猶予期間中は必要的に保護観察に付するものとしている(法4条1項)。

まず、刑の一部執行猶予制度の趣旨は以下の通りである。すなわち、従前より、刑事施設における処遇と社会内における更生とを橋渡しする制度として仮釈放の制度があったところ、仮釈放は期間が残刑期間に限られることから、必ずしも改善更生に必要な保護観察期間を確保できないという問題がある。この点を克服するために、一部執行猶予制度は導入されたものであり、その背景には、「仮釈放期間が短い者は長い者と比較して再入率が高い傾向が認められる」という立法事実がある(高嶋智光「新時代における刑事実務」478頁)。

その上で、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律の立法趣旨は、以下のように説明されている。太田達也「刑の一部執行猶予 犯罪者の改善更生と再犯防止」(改訂増補版)244-245頁より、やや長いが引用する。

薬物使用等の罪を犯し刑事施設に収容された者に対しては,特別改善指導として薬物依存離脱指導(R1)等が実施されている。しかし,薬物依存のある者は,こうした刑事施設内での処遇だけでなく,薬物の入手が可能な社会においても薬物の使用を断ち,薬物依存を改善するための処遇を継続することが極めて重要である。しかし,従来の仮釈放では残された短い刑期の間しか保護観察を行うことができず,ましてや薬物使用等の罪で入所歴がある者は再犯のおそれが否定し得ないとして仮釈放を許されず,4割強が満期釈放となっていることから,刑事施設から釈放された後,処遇を継続することができない。
そうした中,施設内処遇と社会内処遇の連携を図ることができる刑の一部執行猶予制度が導入されたが,薬物犯罪者の中には過去に受刑歴を有する者が多く,しかも前刑の執行が終わってから再犯に至るまで5年が経過していない者が少なからず見られることから,その場合,刑法上の一部執行猶予の前科要件を満たし得ず,これを適用することができない。また,刑法上の一部執行猶予は再犯防止の観点から一部執行猶予が必要且つ相当であることが実質的要件とされているが,薬物使用等の罪を犯した者については,規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再犯防止に結び付くのであり,実質的要件もその観点から規定する必要がある。さらに,規制薬物等に対する依存の改善を図るためには,刑事施設での処遇に続いて,社会の中で処遇を継続する必要があるが,薬物依存者の場合,単に一部執行猶予の取消しという心理的抑止力だけで薬物の再使用を防止することは困難であり,保護観察という積極的な処遇を行うことが不可欠であることから,保護観察を必要的とし,薬物依存に対する専門的な処遇を義務付けることが望ましい。そこで,薬物使用等の罪を犯した者に対しては,一部執行猶予の要件や猶予期間中の保護観察その他の事項について刑法の特則を定めるため,「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」が制定されたものである。

現代の我が国の刑務所では、覚醒剤を使用することは不可能であり、飲酒すらできない環境下に強制的に置かれる。換言すれば、本人が何の努力をしなくとも、強制的に依存物質から隔離された環境におかれるため、これらを使用しなくても済むわけである。しかしながら、刑務所を出所した後の社会内は全くそうではない。酒などコンビニやスーパーで数百円出せば容易に入手できるし、覚醒剤などの違法薬物も、その気になれば入手すること自体はさほど困難ではない。また、周囲にはこれらを勧めてくる者も多数存在する。このように、刑事施設という「無菌状態」と、社会内という誘惑だらけの世界との間には大きな隔絶がある。

かかる隔絶を前提に、受刑者が無菌状態からいきなり社会内に戻ってきた場合に、そうした誘惑を断ち切るというのが容易でないことはたやすく想像できるところである。このような事態を避けるためには、刑事施設からいきなり社会内に放り出されるのではなく、社会内において様々な誘惑や、薬物を再使用したいという気持ちとうまく付き合うことを、ある程度時間をかけて訓練する必要があるのである。「施設内処遇と社会内処遇の連携を図る」とはそういうことであり、一部執行猶予制度においては、社会でうまくやっていくための訓練を保護観察制度がになっているわけである。わかりやすく言うと、自転車に乗る練習をする際に、いきなり二輪の状態から乗る練習をしても転倒してしまうので、まずは補助輪を付けて練習し、徐々にバランスを取ることに慣れていく過程で補助輪を外してやがてひとり立ちすることをイメージするとよい。

薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律は、このような薬物事犯の特殊性を考慮した上で、一部執行猶予制度を他の犯罪とは異なる独自のプログラムとして制度設計している。

しかしながら、上記の検察官の論告はどうだろうか。検察官の言い分は、

1 被告人は、高度の薬物依存であり、またアルコール依存の問題もある

2 社会内ではアルコールを容易に入手できるから、社会内での処遇では再犯を防止できず、アルコールの手に入らない環境下で処遇する必要がある

3 よって、福祉団体の支援下における社会内処遇は妥当でない。

ということに尽きる。これが、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律の立法趣旨に正面から反することは、両者を読み比べれば明らかである。最早、法律にケンカを売っているに等しい。検察官の主張は、法の目的に逆行し、とにかく無菌状態の刑務所に長い間放り込んでおいた方が依存症を克服できるといっているのに等しく、立法者のみならず、社会内での依存症対策に活動する福祉関係者に対する関係でも大変失礼なものである。これでは福祉関係者の努力など無意味だと言っているに等しい。端的に言って不見識極まりないとの一言に尽きる。情状証人として出廷した福祉関係者も、同じような思いだったのではないかと想像する。

畢竟、この検察官は、被告人の再犯防止や立ち直りなどどうでもよいのだろう。薬物再犯者は見せしめ的にとにかく長期間刑事施設にぶち込むことが正義だと考えているフシがある。大学法学部や司法研修所ではそのような教育をしていないはずであるが、どこでそのような「正義感」が身につくのかは不思議である。

もっとも、この検察官は、まだ若かった。しかしながら、論告については、当地では公判部長によるチェックが入るはずであり、公判部長も案を読んでいるはずであるから、単に若さ故の不勉強で片付けられる問題ではない。

あまりに腹が立ったので、弁論要旨に書いていなかった上記のような点を、「検察官の論告を踏まえて補充します」として、口頭で補充し、刑事施設からいきなり誘惑だらけの社会内に放り出されることが、薬物事犯の再犯防止においては有害であることを強調した。

終わりに

冤罪やセクハラなどの不祥事、労働環境の悪化(広島地検では過労死が発生したし、当地でも、霞ヶ関かと見まがうほどに夜中でも煌々と明かりがついている)などから、検察官を志望する司法試験合格者は減っているようであり、そのことがますます質の悪化を助長するという悪循環に陥っている。元々の能力や資質に問題があるのか、過重労働のために十分なパフォーマンスが発揮できないのかは不明であるが、検察官の不適切な訴訟活動は近年ますます目に余るものがある。有罪立証をとちって無罪になるようなら刑事弁護人としては願ったり叶ったりかもしれないが、こういう不見識を恥も外聞もなく公開の法廷で言ってのけるような検察官が、公益の代表者をかたるなど憤懣やるかたない。国民はもっと怒ってよいし、刑事弁護人はこのような不見識な検察官の訴訟活動を看過することなく、敢然と切り返して反論すべきである。福祉関係者も、検察官や保護観察所との付き合いには十分注意したほうがよい。

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