続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ11 重い量刑が続く
はじめに
持続化給付金の不正受給について、一般の方や、全国で同種事案の弁護人をされる先生方の参考になるよう、持続化給付金の判決について、情報収集を行い、分析を続けている。前回の記事から、さらにいくつかの判決に関する情報を入手した。
これまでの過去記事は以下をご覧いただきたい。
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ10 実刑と執行猶予の狭間で
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ9 第一波と第二波の端境期
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ8 役割分担の評価の難しさ
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ7 小康状態は捜査の遅延か
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ6 執行猶予判決の増加は「第2波」の到来を予感
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ5 背景事情の多様化 20210917
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ4 徐々に増える実刑判決 20210804
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ3 不可解な地域差 20210703
続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ2 20210616
【速報】 持続化給付金詐欺 の判決まとめ 20210429
前回から約1箇月半を経過し、新たな事案が集積されてきたため、さらに分析を行いたい。
報道発表から読み取れる範囲で一覧表を作成しており、役割や被害弁償、分け前などについては一部、推測に渡るものも含まれている。また、本稿掲載時点で検察官による求刑まで行われ、判決言渡未了のものについても参考のために掲載した。
ちなみに、これらの判決の中で、当職が弁護人として関与しているものは存在しない。
最新の一覧表はこちら
判決内容
前回から7件(判決7件)増加し、執行猶予付判決が3件、実刑判決は4件となった。7件のうち、0件が高裁所在地の地方裁判所、5件がそれ以外の地方裁判所本庁、2件が支部の事件である。
判決の分析
判決74及び判決75は、同一の事件の共犯者同士であり、親子である。いずれについても、検察官の実刑相当の求刑に対して、執行猶予付判決が選択されている。母である74の方が若干、重い刑が言い渡されているのは、役割分担の違いによるものと思われるが、詳細不明のためこれ以上は分析できていない。
判決76は、大がかりな組織による不正受給の首謀者であり、起訴された件数は20件であるものの、実際には100件以上の被害が出ているのではないかといわれている事案である。20件という件数から見て、懲役4年6月という結論はやむを得ないところであるといえ、組織犯罪処罰法の適用も検討されてしかるべき事案だったのではないかと思われるところである。
判決77は、15件の不正受給の事案で、懲役3年6月が言い渡されている。報道を見る限り、首謀者的地位にあるようであり、従前の判決傾向から見ると、被害弁償を相当程度行っていたとしても、妥当な量刑であろう。
判決78は、判決77の事件の共犯者である。詳細不明であるが、役割分担の違いにより、実刑と執行猶予の結論が分かれたものと思われる。但し、極限的な事案であろう。
判決79は、持続化給付金詐欺に加え、裁判所を利用した訴訟詐欺も行っていたという事案である。総額で被害額700万円弱である一方、懲役4年6月と重い量刑が選択されているのは、訴訟詐欺についても考慮の対象としたからではないかと思われる。
判決80は、有名人が親族にいたことから、大々的に報道された事例である。11件の不正受給の首謀者であることを踏まえると、全額が返還見込みであることを踏まえても、懲役3年の実刑判決という結論は、やや重い印象を受けるものの、やむを得ないであろう。判決80は、判決66と同一の裁判官のようである。
年齢・職業
20代が43人、30代が18人、40代が10人、50代が3人、60代が1人、70代が1人であり、平均は31.46歳と、依然として若年者が圧倒的に多く、平均年齢も低い傾向にある。今回紹介した事例は、大半が20代である。
実刑判決と執行猶予の分水嶺 前回に引き続き
今回は、10件以上が起訴された事案が多く、また多くが首謀者的地位にあったことから、比較的長期間の実刑判決が選択されたものが多かった。
従前からの分析通り、起訴された件数が10件以上であり、かつ、首謀者又はそれに準じる地位にいる者の場合、全額の返還を行ったとしても、実刑判決が選択されるという傾向が見て取れる。逆に、件数が多くとも、従属的な地位に留まる場合には、執行猶予付判決が選択されることもあるため、必ずしも首謀者的地位にあるといえない場合には、共犯者間での役割に関する適切な評価を行い、主張・立証に反映させる必要があるだけでなく、被害弁償の状況を確認の上、その原資の調達にも努力すべきことは言うまでもない。
また、これまでの事案を分析する限りでは、首謀者については、10件程度で懲役3年程度、15件程度で懲役3年6月程度、20件程度で懲役4年ないし4年6月程度というのがひとつの目安のようである。ただ、必ずしも目安通りでない判決も存在するため、個別事案に応じて柔軟に検討する必要がある。控訴審で量刑不当を主張する場合の一応の目安にはなり得るかもしれない。
今後の見通し
本稿掲載時点で80件の裁判例を紹介し、また他の給付金の詐欺についても、情報収集が進んでいる。
今回は、件数も多く、また首謀者的地位にある者の裁判が多かったため、かなり思い実刑判決が選択されているものが散見された。ただし、共犯者同士であっても、実刑と執行猶予が分かれた事案があることからも明らかなように、共犯者間での役割分担の評価は極めて重要である。
この点については、他の一般的な事案と同様、被疑者・被告人から自身の役割分担について丁寧に聴取すると共に、LINEや電子メールの履歴、当事者間の関係性等を踏まえて、首謀者的地位にあるのか、従属的な地位に留まると言えるのかについて、ある程度の見通しを持った上で弁護方針を立てることが重要である。
公判については、前回も述べたように、共犯者間での役割が重視される傾向を踏まえると、認め事件だからと言って安易に共犯者の供述調書に同意するのではなく、役割分担に関する事実関係について、共犯者の証人尋問を行うことが必要となってくる場面も出てくるのではないかと考えられるところである。特に、共犯者同士が併合して審理されている場合、弁論分離を求めるか否かの判断は重要であり、裁判所や検察庁が嫌がるからと言って分離の請求を躊躇ってはならない。
まとめ
前回も記載したとおり、持続化給付金不正受給は、初犯でも実刑の可能性がありうる事件類型である。
また、他の犯罪類型と比較すると、相応の学歴や社会的地位があり、家族や安定した勤務先を有する者がこの犯罪に手を染めていることも珍しくない。こういう場合、突如として逮捕・勾留され、長期間にわたって接見禁止となることにより、家族や仕事に与える影響は甚大であり、被疑者段階あるいは起訴後の保釈段階の弁護活動も重要になってくる。これらについては機動力が求められ、弁護士によって対応が異なってくるため、依頼する弁護士は慎重に選んだ方がよい。安易に、全国展開しているとか弁護士の人数が多いとか元検事の弁護士がいると言うだけで決めるというのは、あまりおすすめしない。
現在でも、持続化給付金詐欺の逮捕報道は連日行われている。また、量刑に際しての考慮要素については、事案の集積により分析が進んで来つつあるものの、総じて量刑は重くなる傾向にあるようである。このため、特に実刑と執行猶予の境界にある事案では、量刑に関する的確な主張・立証を行うため、早期に弁護士に相談の上、今後の対応を検討する必要がある。
また、実刑判決が見込まれる場合には、控訴するかどうか、再保釈の請求をするかどうかなど、一審の段階から十分に検討しておくことが肝要である。
ご依頼を検討中の方に~当事務所の方針
最後に、最近、問い合わせを受けることが多くなっているので、持続化給付金の不正受給に関する依頼を検討されている方に、当事務所の基本的な方針をお伝えしておきます。
被疑者段階
被疑者段階での依頼については、警察署等への接見が必要となってくるため、ある程度の地理的制約があります。このため、あまりに遠方の事件についてはお断りすることもあります。但し、現地に知り合いの弁護士がいる場合には、共同で受任して、接見は専ら現地の先生にお願いするという形で受任することは可能ですので、まずはお問い合わせいただければと思います。
当職が受任した場合、遠方に接見に行く場合には、交通費実費と日当をいただきます。日当については、距離や所要時間などによって異なってくるので、詳細は個別にお問い合わせください。
なお、正式に依頼するかどうかは未定であるものの、とりあえず一度接見に行った上で、今後の弁護方針に関するセカンドオピニオンを提供するということも可能です。こちらについては、日程が合う限りにおいて、全国対応が可能です。実際、令和3年度も、遠方での接見やセカンドオピニオンのご相談を複数、受任しています。弁護士費用及び日当、交通費については、個別にお問い合わせください。
被告人段階 第一審
起訴後からでも、勿論ご依頼は可能です。この場合、被疑者段階よりは接見頻度も少ないことが想定されるため、被疑者段階よりは、遠方のご依頼でもご負担は少ないと思います。保釈により釈放された場合には、テレビ電話等での打ち合わせも可能です。弁護士費用については、件数や認否、事案の複雑さによって変わってきますので、個別にご相談下さい。
被疑者段階同様、セカンドオピニオンのご依頼も歓迎です。
被告人段階 控訴審 上告審
控訴審、上告審のご依頼も可能です。
まず、第一審の判決謄本等を検討した上で、控訴に関する見通しについて意見を述べるという形でご依頼いただくことが可能です。
控訴審は、通常の事案であれば、弁論を1回開いて結審し、第2回で判決言渡しになることが多いため、遠方の事案でも、期日のために出廷する回数は2回となることが多いです。ただ、接見や保釈請求等の関係で出張が必要となることもあります。
第一審判決が実刑であった場合、保釈中でもそのまま拘置所に収監されることが多く、この場合は、控訴審での再度の保釈請求を行う必要があります。控訴審の保釈は、一審に比較して要件が厳格であり、また保釈金額も一審よりも高額に設定されることが多いと言えます。このため、保釈の必要性について詳細な事情をお伺いした上で、速やかに証拠をそろえて保釈請求を行う必要が出てきます。
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