B型肝炎弁護団横領事件の続報 【予告するのはホームランだけにしてくれ】 |福岡の刑事事件相談、水野FUKUOKA法律事務所

福岡の刑事事件に強い弁護士

初回相談無料 092-519-9897 24時間、即時無料相談対応
メールでのお問い合わせはこちら

B型肝炎弁護団横領事件の続報 【予告するのはホームランだけにしてくれ】

はじめに

以前に紹介した
これについての解説動画はこちら

に関連して、とんでもない続報が入ってきた。

令和6年1月30日付熊本日日新聞の報道によると、熊本県弁護士会の執行部が、問題のU弁護士に対して、懲戒請求の予定を事前に通知していたというのである。
着服疑い元弁護団長に懲戒請求予定を事前通知 熊本県弁護士会 「懲戒逃れ」誘発か
これはとんでもない話であり、耳を疑うようなレベルである。

懲戒請求の仕組みと本件のあるまじきポイント

弁護士は、いずれかの弁護士会に所属することが義務であるとされており、不祥事を起こした場合などは、所属している弁護士会から処分を受けることになっている。このため、処分される時点で、弁護士がその弁護士会に所属していないと、処分はできないということになる。
このため、弁護士は、懲戒請求を受けた場合には、他の弁護士会に登録替えしたり、退会して登録を抹消したりすることはできないようになっている。
しかし、本件では、ご丁寧なことに、懲戒請求をする張本人である弁護士会が、わざわざ、懲戒請求される相手に、「今から懲戒請求しますよ」と教えているのである。そんなことをされたら、普通の人間は、懲戒なんてされたくないに決まっているのだから、慌てて弁護士会を退会して、懲戒処分ができないようにするというのは、ちょっと考えれば分かる話である。少なくとも、懲戒手続について熟知しているはずの、弁護士会の執行部に在籍する弁護士が、そのような事態を想定出来なかったというのは考えにくい。
人は、己の地位にしがみつくし、自己保身のためにはどのような汚いまねでもする。これは歴史の常であり、弁護士業務をしていれば体感として身につくものである。

あり得ない弁護士会長の弁解

これについて、弁護士会長は、熊本日日新聞の取材に対して、以下のように回答したという(令和6年1月30日付熊本日日新聞)。
懲戒請求は当該弁護士にとって重大で、理由がないとできない。本人に事実確認する必要があると判断した。弁護士会の手続きに瑕疵はなかったと考えている。
しかし、このような回答は極めておかしな話である。その理由は大きく分けて3つある。
(1)まず、懲戒請求が対象弁護士の地位を左右しかねない重大な手続きであり、理由なく懲戒できないというのは当然の話で、U弁護士に限らず全弁護士に同様に妥当する話である。では、熊本県弁護士会は、これまで弁護士会が懲戒請求者となって懲戒請求をする時に、毎回、対象弁護士に事前告知していたのだろうか。例えば、令和4年には、成年被後見人らの預かり金8千万円超を横領したとして、同会所属のH弁護士(当時)を熊本県弁護士会が懲戒請求しているところ、H弁護士の時には事前通知したのだろうか。していないとすれば、U弁護士には事前通知して、H弁護士にはしなかったことの合理的理由はどこにあるというのか。ちなみに、H弁護士の懲戒手続には、U弁護士が綱紀委員として関与していたとのことである(熊本日日新聞令和6年17日報道)。
(2)次に、一般市民ではなく、弁護士会自身が、所属弁護士を懲戒請求する(これを「会立件」と呼ぶことが通例である)場合には、通常、相当に慎重な検討を経た上で、懲戒事由に該当することが間違いないとの確信を持った上でないと、通常はやらないということである。つまり、対象弁護士の自白がなくとも(否認したり、回答を拒否したりした場合でも)、それ以外の客観的証拠から懲戒処分を基礎づける事実を認定出来るくらいでないと、通常は会立件を行わないはずである。
(3)そして、懲戒処分を受けた弁護士には、もちろん、反論する機会が与えられている。自分に有利な証拠を提出することも、当然、可能である。そうである以上、懲戒請求に先立って事前に本人に通告しなければならない理由はどこにもない。「本人に事実確認する必要がある」のであれば、懲戒手続の中で行うこともできたはずである。
このように、弁護士会長の弁解は、およそ弁解の体をなしていない。とんでもない話だ。

弁護士会の恩情対応がもたらす弊害

このような熊本県弁護士会のやり方や、新聞社に対する会長の弁解は、非常に問題である。
まず、対一般市民について言うと、懲戒制度に対する誤解を広めかねない。ただでさえ、本件では、会計責任者の問題など、世間的には疑惑の大きなものである。いくら弁護団活動・人権活動の英雄であったベテラン弁護士であったとしても、懲戒手続に関してこのような特別な情誼をかけたということになれば、懲戒制度ひいては弁護士自治に対する世間の信頼を失うことになりかねない。
次に、若手弁護士に対する関係である。このような対応は、若手弁護士に対して、ベテランの不祥事には恩情をかけるのが弁護士会という組織なのだというメッセージを与えかねない。そうなると、弁護士会はますます、若手の失望を買うことになるだろう。
動画でも述べたとおり、この事件は、単なるいち単位会内の集団の内部紛争ではなく、弁護士全体の信頼に関わる重大な事象である。それが、身内の恩情によりうやむやにされるようなことがあってはならない。事前通知の件だけをとっても、弁護士会長は即刻、引責辞任すべきである。その上で、県外の弁護士や公認会計士で構成される第三者委員会を設置し、事案の解明を行う必要がある。場合によっては、日弁連の本体が腰を上げるべきではないか。予告するのはホームランくらいにしてもらいたいものである。

事務所ホームページ 刑事事件特設サイト https://mfuklocriminaldiffence.com/ 医療事件特設サイト https://mfuklomedical.com/   離婚事件特設サイト https://mfuklorikon.com/ Twitter https://twitter.com/mizuno_ryo_law

その他のコラム

【法科大学院生 司法修習生 若手弁護士必見】ヤバい事務所に気をつけろ! Part2

Part2 日本よ、これがヤバい事務所だ!     セクハラ、パワハラ、オーバーワーク・・・ 世の中には、入ってはいけない弁護士事務所が厳然と存在する。 それは、スタッフの基本的人権を無視し、人間の尊厳をないがしろにするような職場だ。 そのような職場は、経営者に問題がある。 Part.2では、ヤバい事務所の特徴を説明する。 ジャニーズにおけるジャニー喜多川の性加害問...

少年法改正に関する問題点

これまでの議論の経過 現在、少年法改正の議論が進められているが、これは元々、民法の成人年齢引き下げや、選挙権を与える年齢を18歳としたことに伴って、少年法の適用年齢も引き下げるべきではないかという議論に端を発している。しかし、これに対して反対意見が根強かったため、最終的に、妥協の産物として、①18歳、19歳の少年については逆送の範囲を拡大し、②逆送されて刑事事件となった場合に実名報道を解禁する、という内容で改正がなされようと...

【絶対的権力は絶対に腐敗する】ジャニーズ調査報告書を読んだ感想【圧倒的独裁者】

[embed]https://youtu.be/vO2WJwqkOCU[/embed] ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.への性加害疑惑について、令和5年8月29日に調査報告書が公表された。その内容を読んで明らかになるのは、ジャニーズ事務所におけるジャニー喜多川氏の圧倒的な独裁体制と、ジャニー喜多川氏がジャニーズJr.の生殺与奪の権を握る圧倒的な支配の構図であった。 71頁に渡る調査報告書の内容をわかりやすく解説し、...

続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ4 徐々に増える実刑判決 20210804

はじめに 持続化給付金の不正受給について、一般の方や、全国で同種事案の弁護人をされる先生方の参考になるよう、持続化給付金の判決について、情報収集を行い、分析を続けている。前回の記事から、さらにいくつかの判決に関する情報を入手した。 これまでの過去記事は以下をご覧いただきたい。 続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ3 不可解な地域差 20210703 続報 持続化給付金詐欺 の判決まとめ2 20210616 ...

ほんとうにあった怖い事例 蛇~ローテーション

判例を調べていると、こんな事例が本当にあったのか!と思うような事例にでくわすことがしばしばある。今回は、そのような事例をひとつご紹介する。 大判昭和7年10月10日大刑集11巻1519頁である。 事件が発生したのは昭和6年12月24日。満州事変が発生したのが昭和6年9月18日であるから、その約3箇月後、徐々に戦争の足音が聞こえてきているような時代である。もちろん、現代のように、12月24日だからと言ってのんきにクリ...

刑事事件はスピードが命!
365日24時間即時対応

24時間即時無料相談対応 092-519-9897 弁護士が直接対応 六本松駅から好アクセス

メールでのお問い合わせはこちら